何のために製品を市場に出しますか?:ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル(2)(2/3 ページ)
連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントについて解説する。連載第2回は、製品化の際に必要となる志の考え方を取り上げる。
創りたい市場が明確なアップル製品
アップルの製品はこの創りたい市場とミッションがとても明確である。携帯型デジタル音楽プレーヤー「iPod」と「iPod shuffle」を参考に見てみよう(注1)。
※注1:両製品とも現在販売が終了している点はご容赦いただきたい。本稿では、創りたい市場とミッションが明確な製品化の事例として取り上げている。
携帯型デジタル音楽プレーヤーの市場は、アップルがiPodを製品化する以前から存在していた。当時の製品の多くは保存できる曲数も少なく、通勤や通学で1週間も聞いていたら飽きてしまうといった状況だった。そのため、聞き飽きたら都度PCとケーブル接続し、あらかじめPCに取り込んである楽曲から選曲して入れ替える必要があった。しかし、こうした一連の作業が面倒なこともあり、飽き飽きしながらも同じ楽曲ばかり聞くようになり、カバンにしまったまま存在を忘れ、そのうち使わなくなった……という状況が見られた。
これに対し、当時アップルは「面倒な入れ替え作業をなくすにはどうしたらよいか」を考え、HDDを製品に組み込んで大量の楽曲を保存できるようにしてしまおうと考えた。初代のiPodは1000曲入るといわれており、これだけあればしばらく聞き飽きることはない。これがiPodであった。創りたい市場は「曲を入れ替える面倒な作業がなくなる便利な市場」であり、ミッションは携帯型デジタル音楽プレーヤーとHDDの合体であった。
しかし、iPodはサイズが大きかった。アップルはもっと小さい製品を作りたかったが、それではHDDが入らない。そこでアップルは「面倒な作業とは何なのか」をあらためて追求し、それが「PC内のたくさんの候補から保存する楽曲を選ぶ作業である」と考えた。この考えに基づき、アップルはPCと接続するだけで自動的に楽曲を選んで転送してくれる機能を楽曲管理ソフト「iTunes」に組み込み、ランダムな選曲を楽しむという方向性を打ち出した。それがiPod shuffleであった。創りたい市場は「曲を選択する面倒な作業がなくなる便利な市場」であり、ミッションは携帯型デジタル音楽プレーヤーと自動選曲ソフトの融合であった。
両製品とも大ヒットしたことは言うまでもなく、創りたい市場とミッションがとても明確であった。製品化では、創りたい市場(=パーパス+ビジョン)とミッションが重要であることが、これらの話からよく理解できる。
製品企画と設計構想の内容
「どのようなモノを作るか」を考える製品企画で創りたい市場を決め、「どのようにモノを作るか」を考える設計構想でミッションを詳細かつ具体的に固めていく。これらの主な内容は以下の通りだ。
(1)市場調査
(2)創りたい市場
(3)ターゲットユーザー
(4)総販売数
(5)生産数(ロット)
(6)製品仕様(取得規格、外装デザインも含む)
(7)ビジネスモデル
(8)販売価格
(9)日程
(10)投資回収
(11)設計メンバー、生産拠点、販売ルートなど
(1)〜(2)は創りたい市場である。(3)〜(6)はどのようなモノを作るかだ。そして、(7)〜(8)はどのようにモノを販売するかであり、(9)〜(11)がどのようにモノを作るかとなる。
これらの中でも、特に(6)製品仕様と(8)販売価格の中身である部品コスト、(9)日程が重要であり、設計構想ではこれらを重点的に決めることになる。
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