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半導体不足、全固体電池、リチウムイオン電池のライフサイクル……2022年の話題オートモーティブ 年間ランキング2022(2/2 ページ)

2022年も残すところ数日となりました。2022年はどんな1年でしたか。関わっていた新型車やその部品の量産が無事に始まったなど、区切りを迎えてひと安心だった方。現場がつつがなく運営されるよう陰で尽力された方。つらいことや難しいことに直面して疲れた方。みなさん1年間お疲れさまでした。

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EVの飛び道具? 「固体電池」

 3位は全固体電池の開発状況について発表した日産自動車の記事でした(日産は半固体ではなく「全固体」電池、懸念される低寿命をNASAや大学と克服)。日産自動車は2028年度までに自社開発の全固体電池を搭載したEV(電気自動車)を市場投入する計画です。これに向けて、2024年度までに横浜工場内に全固体電池のパイロットラインを設置する予定です。

 全固体電池に関する記事は、「今こそ知りたい電池のあれこれ」からも9位にランクインしています(半固体と全固体、何が違う? 固体電池を材料構成から整理する)。

 全固体電池は、EVの性能向上における飛び道具として語られることが多い領域です。それはなぜでしょうか。理由の1つ目が重量エネルギー密度です。ピックアップトラックやSUVなど車両サイズが大きなクルマは、エンジン車であっても車重が大きいです。それをEV化しようとすると、そこにさらにリチウムイオン電池の重量が加わり、長く走るためではなく重いクルマを動かすこと自体にバッテリーを消費することになりかねません。

 全固体電池は重量エネルギー密度を大幅に向上できるため、大きなクルマや走行距離確保のために大容量のバッテリーを搭載するクルマで特にメリットがあるといわれています。また、バッテリー搭載に限界がある小型車のEV化にも全固体電池のメリットが生きます。

 もう1つは、電解質が液体から固体になることです。電解液は温度の制約を受けやすいですが、固体電解質になることで運転温度の限界を引き上げることができ、温度による充電時間や高速走行の制限を緩和できます。これまでより高温に対応できるということで、液体の電解質を使う電池と比べて冷却システムを簡易化できるという副次的なメリットもあります。

 飛び道具的な全固体電池に多くの人が期待を寄せていますが、電解質が全て固体のものから、固体材料と液体材料が混在するものまで、話題に上る「固体電池」はさまざまですし、技術的な難易度も異なります(ちなみに、日産自動車が取り組んでいるのは半固体電池ではなく全固体電池です)。また、電解質を固体材料に置き換えただけで劇的に電池性能が向上するわけではなく、電極中の活物質によって電池の特性が左右されることも忘れてはいけませんね。

忘れてはいけないサイバー攻撃の影響、環境性能のごまかし

 忘れてはいけないのが、2月28日に明らかになった小島プレス工業でのシステム障害です(小島プレスのシステム障害でトヨタが国内全工場の稼働停止、日野自動車も)。原因はサイバー攻撃で、トヨタ自動車の国内全工場が3月1日に停止しました。日野自動車の工場も影響を受けました。

 工場が止まることの重大さはご存じの方も多いでしょう。MONOistの記事「1時間の稼働停止で損失は1億円以上、自動車工場をサイバー攻撃から守れ」によれば、1分間の稼働停止で2万2000米ドル(約298万円)、1時間にすると130万米ドル(約1億7600万円)の損失が発生すると推定されています。中には、1分間の稼働停止で5万米ドル(約670万円)もの損失が出る工場もあるといわれています。

 サイバー攻撃の糸口となったのは、小島プレス子会社が特定の外部企業との専用通信に独自に利用していたリモート接続機器にあった脆弱性です。攻撃者はリモート接続機器から子会社内のネットワークに侵入後、さらに小島プレス工業のネットワークに侵入しました。

 1つの脆弱性が膨大な金額の損失につながってしまう構図は、1つの設計上の不具合や組み立て作業の不備によって大規模なリコールにつながりかねないという品質問題にも共通するように思えます。セキュリティ対策には終わりがなく、どこまで続けたらいいのかと疲れてしまうところもあるのかもしれませんが、品質を作り込むように多くの企業がゴールがなくても着々と続けてきた分野もあります。2023年はサイバー攻撃の大きな被害が起きない1年になってほしいですね。

 さて、最後にもう1つ、日野自動車のエンジン認証での不正も忘れてはいけません(日野の従業員アンケート、回答したのは「全社員の5人に1人」)。トラックやバスといった商用車だけでなく建設機械などにも展開しているエンジンで、排ガス/燃費試験での不正行為がありました。出荷停止やリコール、さらにはエンジンの型式指定取り消しといった処分にも発展しました。

 背景には、数値目標達成やスケジュールに対するプレッシャーと、そのプレッシャーを生み出した日野自動車の組織の問題がありました。再発防止策が日野自動車から発表されていますが、多少なりとも会社員生活を送っていれば、組織が変わる難しさは容易に想像できます。2022年だけで終わる話では全くないといえるでしょう。

さまざまな新型車

 2022年はさまざまな新型車もお目見えしました。「いよいよ出てきたんだな、どのクルマも売れて、自動車業界が明るくなるといいな、いろんな技術や工夫が報われるといいな」と陰ながら応援しています。

 2023年は明るい1年になれば、と願ってやみません。

⇒ MONOist年間ランキングのバックナンバー

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