「ゼロエミッション車の販売を相当に増加させる」、G7の声明は抽象的な表現に決着:自動車業界の1週間を振り返る(2/2 ページ)
今週も自動車に関してさまざまなニュースがありました。特に印象的だったのは、ドイツで開かれている主要7カ国首脳会議(G7)の声明について、日本がゼロエミッション車の普及目標を削除するよう求めた、というロイターのスクープです。
パワートレインが置き換わっても、地道なクルマづくりは続く
カーボンニュートラル、もしくはゼロエミッションの実現にはさまざまなハードルがあります。今週公開した電池の入門連載「今こそ知りたい電池のあれこれ」の最新回「埋蔵量は多いリチウム資源、需要に見合った現実的な供給は可能?」で紹介している資源の問題もそうですし、充電インフラや電力の供給などにも課題があります。現時点では、生活習慣に何の変化ももたらさずにエンジン車をゼロエミッション車に置き換えることは難しいです。
しかし、見方を変えれば、パワートレインの種類が異なるだけ、と捉えることもできます。EV(電気自動車)にせよFCV(燃料電池車)にせよ自動車業界にとって全く未知の動力源を使うわけではありませんし、クルマづくりで今までやってきたことが終わったり、不要になったりするわけでもありません。これまでの延長線上のこともたくさんあります。
そんなことを考えたのは、セダンタイプのEVに関する話題が続いたからです。1つはフォルクスワーゲン(VW)が2023年に生産を開始するEVセダン「ID. AERO」です。発表したのは量産に近いコンセプトカーで、中国の他、欧州と北米でも展開することが決まっています。バッテリー容量は77kWhですが、車名のエアロの通り空力特性によって満充電で620kmを走行できます(もちろん、空力特性だけで走行距離を稼いでいるわけではありませんが)。
セダンは伝統的な車両タイプです。自動車メーカーにとってよく分かっていることも多い一方で、前例が多いからこそ新しいアプローチが難しい領域なのではないでしょうか。また、セダンにこだわって選ぶユーザーであれば、運動性能に対する要求レベルや期待値も高いでしょう。特にSUV全盛期ともいえる今、セダンで新型車を出すからには、中途半端なものはつくれないよなあ、と考えてしまいます。
メルセデス・ベンツのクーペ風セダンのEVコンセプトカー「VISION EQXX」が1回の充電で1202kmを走破した、というのも興味深いニュースでした。バッテリー容量は100kWh以下とだけ公表されており、決して小さくはありませんが、空車重量1755kg、全長4975mmというセダンで1000km以上を走れるのは、かなり既存のエンジン車に近いのではないでしょうか。
1202kmを走破した走行テストでは、気温30℃という暑さの中、エアコンを総走行時間の半分程度使いながら、高速道路も走行しました。バッテリーや電動駆動システムの効率が追求されているのはもちろん、空力の改善や軽量化といった伝統的なアプローチも貢献してとても長い走行距離を実現しています。アルミ製ブレーキディスクやマグネシウムホイール、F1のサブフレーム、超軽量ソーラーパネルなどが採用されているそうです。
HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)も含めてエンジンを載せたクルマがいつなくなるのか、と捉えるとセンセーショナルになってしまいます。しかし、パワートレインが何であれ、クルマづくりの地道な側面は変わらないと考えると、冷静になれるような気がします。
今週はこんな記事を公開しました
- 今こそ知りたい電池のあれこれ
- 電動化
- 自動車メーカー生産動向
- 安全システム
- 脱炭素
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 埋蔵量は多いリチウム資源、需要に見合った現実的な供給は可能?
環境影響を考える際のポイントの1つとして、今回は資源消費、特にリチウムイオン電池には欠かせない「リチウム」にまつわる問題に注目していきたいと思います。 - FRの直6ディーゼルエンジンが323万円、マツダ「CX-60」の予約受注がスタート
マツダは2022年6月22日、クロスオーバーSUVの新型車「CX-60」の予約受注を同月24日から開始すると発表した。納車開始は、直列6気筒のディーゼルエンジンと電圧48Vのマイルドハイブリッドシステム(MHEV)を組み合わせた「e-SKYACTIV D」が9月から、その他のパワートレインのモデルは12月からを予定している。 - 単なる「EVシフト」「脱エンジン」ではない、なぜ「グリーンモビリティ」なのか
Beyond CASEの世界においては「自社だけが勝てばよい」という視野や戦略ではなく、「企業の社会的責任」を果たす覚悟を持って“社会平和”を実現していくことがポイントになる。この中心となる概念であるグリーンモビリティの定義と必要性を本章で論じたい。 - EVは環境に優しいのか、電池のライフサイクルでのCO2排出量を考えるポイント
昨今、注目が集まっている地球温暖化問題や脱炭素への影響をLCAによって評価するためには「製品のライフサイクルで考えたときのCO2排出量」、すなわち「LC-CO2」について考える必要があります。そこで今回は電池におけるLC-CO2を考える上で注目すべきポイントを整理していきたいと思います。 - 環境に与える影響を定量的に評価する「ライフサイクルアセスメント」とは?
電池やその搭載製品の環境影響を考えるための指標として「LCA」(ライフサイクルアセスメント)という言葉を、最近何かと目にする機会が多くなってきました。LCAと聞いて「製品のライフサイクルで考えたときのCO2排出量の話」といった印象を抱かれる方も少なくないかと思います。しかし、その理解は厳密にいえば不正確です。 - 車載用から他の用途へ、リチウムイオン電池のリユースの「論点」
今回は「持続可能な開発」のために今後同様に重要となるであろう、電池の「再利用」(リユース)について解説していきたいと思います。