ChaoJi(チャオジ)は他の急速充電規格とのハーモナイズを狙う:和田憲一郎の電動化新時代!(42)(3/3 ページ)
激しく動く環境において、急速充電の規格を管理するCHAdeMO協議会は今後どのような方向性で進もうとしているのか。また、日本と中国の共同開発である超急速充電規格「ChaoJi(チャオジ)」はどこまで進んでいるのか。前回取材から約1年経過した今、現状やChaoJiの進捗状況について、CHAdeMO協議会事務局長の吉田誠氏と事務局メンバーの丸田理氏にインタビューを行った。
中国の充電インフラ事情は
和田氏 最後に、CHOdeMO規格と類似のGB/T規格がある中国についてどう見ているか。筆者が調べたところ、2020年末時点での急速充電器は約30万台に達している。
吉田氏 現在最も話題になり、かつ売れているのは上汽通用五菱汽車(GM、上海汽車、五菱集団の合弁会社)「宏光MINI EV」である。最安値で約43万円、1回の充電で170km走れる長距離モデルでも約60万円で販売され、テスラを抜いて中国でのEV販売トップを独走中している。しかし、このクルマは急速充電には対応していない。また、EVベンチャーのNIOは、バッテリー交換式のEVを展開しているが、バッテリーを載せかえれば充電でコネクターをつなぐ必要はない。
EVが増えているのは事実だが、宏光MINI EVのように割り切って急速充電に対応しないクルマや、バッテリー交換方式のクルマが出始めている。政府や充電インフラの関係者も、今後本当に急速充電器がどれくらい必要となってくるのか、悩んでいるのではないだろうか。
なお、EVトラックやEVバスなどの大容量電池を搭載するクルマは超急速充電であるChaoJiが必要であり、中国では今後GB/TとChaoJiの急速充電器が並列して設置されると予想される。さらに、ChaoJiは大出力向けに開発した規格だが、500kWを超える大出力だけでなく20kW程度の小出力にまで対応できるという利点もある。つまり、EVや電動モビリティの幅広いエリアをカバーできることに特徴がある。
CHAdeMO協議会としては、ChaoJiを中国と共同開発し、今後欧州や他地域で採用されていく際には、仕様に関する決定権はわれわれにあるという武器を持って有利に進めていければと考えている。
取材を終えて
欧州で日産のアリアがCCS2採用、と聞いたときは大変驚くとともに、日産がCCS陣営の軍門に降ったかと思った。短期的には欧州でCCSが優勢に見えるかもしれないが、日本と中国が共同開発で進めているChaoJiは大出力から小出力までカバーすることができ、大きなポテンシャルを秘めている。まさに世界統一規格となる可能性が高い。
しかし、これまでも充電規格を巡っては各国や自動車メーカーの間であつれきがあり、一筋縄では欧米は日中の統一規格に乗ることはないだろう。今後、いかに他規格とハーモナイズしながら統一規格へ近づけていくのか、まさにCHAdeMO協議会としての腕の見どころではないだろうか。日中で開発中のChaoJiは2022〜2023年に実用化するといわれている。今後も関係者の活動に期待したい。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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