EV向けワイヤレス給電、実用化の最終段階へ!:和田憲一郎の電動化新時代!(32)(1/3 ページ)
先般、EV(電気自動車)用充電インフラに関して重要な出来事があった。ワイヤレス給電はこれまで米国のベンチャー企業であるWiTricityと、半導体大手のQualcommが激しい国際標準化争いを続けてきた。しかし、WiTricityがQualcommのEV向けワイヤレス給電事業「Qualcomm Halo」を買収することとなったのである。これにより、標準化争いは終止符が打たれるものの、すぐに実用化に移れるのだろうか。
先般、EV(電気自動車)用充電インフラに関して重要な出来事があった。ワイヤレス給電はこれまで米国のベンチャー企業であるWiTricityと、半導体大手のQualcommが激しい国際標準化争いを続けてきた。しかし、WiTricityがQualcommのEV向けワイヤレス給電事業「Qualcomm Halo」を買収することとなったのである。これにより、標準化争いは終止符が打たれるものの、すぐに実用化に移れるのだろうか。筆者も自動車開発でワイヤレス給電に携わった経験があり、これまでの経緯や今後の動向について述べてみたい。
ワイヤレス給電と筆者の関わり合いは約10年前にさかのぼる。自動車メーカーでEVの開発を行っていた頃、当時の充電方式と言えば、普通充電と急速充電の2種類だった。急速充電は他企業と一緒に開発を行い、数々の実証試験を経て、2010年にCHAdeMO方式と命名され市場導入された。それまでは普通充電しかなく、走行距離の短いEVにとって急速充電は画期的な技術だった。
しかし、普通充電・急速充電とも、どうしてもケーブルを車両に差し込まなければならない。雨天時や、女性・年配の方から作業が面倒との声もあった。これは携帯電話を家の中で充電することとは操作環境が異なるためだろう。他に何か良い方法はないものかと思っていたものである。
そのような時、米国のベンチャー企業がケーブルを介さなくても充電できる技術を開発したと伝え聞き、面談したのがWiTricityとの始まりである。当時はまだ100W程度の送電能力だったが、ケーブルなしに50cmや1mまでも電気を飛ばして電球を点灯させることに驚かされた。送電能力的には低かったものの、将来に対するポテンシャルを感じたものである。2011年頃になると1kWレベルも送電可能となり、EVとして使えるレベルに近づいた。
なお、WiTricityはマサチューセッツ工科大学(MIT)の著名な物理学者チームが、2005年に磁界共鳴方式と呼ばれるワイヤレス給電の原理伝送方式を発表した後、スピンアウトして2007年に設立されたベンチャー企業である。WiTricityはワイヤレス給電に関するパテント取得をメインとし、ロイヤルティービジネスを行っている。自らワイヤレス給電装置を製造販売することはなく、他の製造機器メーカーにパテントと技術をライセンス供与している(※1)。
(※1)関連記事:「ワイヤレス充電で世界最先端を走るWiTricity、その実像に迫る」
一方、Qualcommもワイヤレス給電に関心を持ち、いろいろ研究を重ねてきた。筆者がコンタクトした際は、どちらかといえば同社の携帯電話ビジネスと同様にチップに関心があり、機器本体には手を出さないと言っていた。しかし、2013年にニュージーランド大学研究者が開発した「Halo IPT」を買収した頃から、ビジネスの方向性を修正したようだ(※2)。
(※2)関連記事:「クアルコムとIHIが見据えるEV向けワイヤレス充電の未来」
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