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クアルコムとIHIが見据えるEV向けワイヤレス充電の未来和田憲一郎の電動化新時代!(3)(1/3 ページ)

第1回のWiTricityに引き続き、電気自動車(EV)向けワイヤレス充電の有力企業であるクアルコム、IHIに取材を行った。果たして彼らはライバルなのか、協業できる関係なのか。次に打つ手は何なのか。その核心に迫った。

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和田憲一郎の電動化新時代!

 ワイヤレス充電の世界で、WiTricityと並んでよく名前の出てくる企業にQualcomm(クアルコム)がある。携帯電話機向けICやアプリプラットフォーム企業として有名だが、電気自動車(EV)向けワイヤレス充電についてはどのような考えを持って事業を展開しようとしているの、はたから見ていても分かりにくい。また、EV向けワイヤレス充電のビジネス展開に名乗りを挙げているIHIも同様である。今回は、両社が何を考えているのか、彼らが次に打つ手は何なのか、核心に迫った。さらに、日本国内におけるEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)推進の旗振り役である、経済産業省の担当者にもヒアリングを行った。

ケース1:クアルコムの場合

 取材に快く応じてくれたのは、クアルコムの日本法人・クアルコム ジャパンで事業戦略部長を務める前田修作氏と、標準化部長の石田和人氏である。まずは、クアルコムがEV向けワイヤレス充電分野についてどのような考え方を持っているのか、お話を伺った。

・クアルコムは、EV向けワイヤレス充電で製品を供給するのか、チップ供給を目指すのか

 クアルコムは、IP(Intellectula Property)も含めたライセンスビジネスを狙っており、標準を満たす技術や情報を提供したいと考えている。ある意味、携帯電話の通信技術のライセンスビジネスと似ている。システムに使われる半導体やコンポーネントおよび車両側やグラウンド側の製品そのものを作る予定はない。ワイヤレス充電は社会インフラの一部であり、実際のモノづくり、車両への搭載やインフラ構築で、多くの企業に利用していただくことにより、われわれにもメリットが出てくる。

・クアルコムは自動車メーカーとタイアップしないのか。日本ではどのように関わっていくのか

 英国のロンドンでは、英国政府、ロンドン市、自動車メーカーのRenault(ルノー)、さらに充電設備会社や、運用会社などとタイアップし、EV向けワイヤレス充電に関する実証試験を実施する(関連記事:クアルコムがEV技術に注力、ロンドンを無線充電都市に変える)。実証試験には英国政府からも強力なサポートをいただいている。日本においても似たような手法で実証試験を導入できないか検討している。実証試験の実施には、総務省や経済産業省などの監督官庁、さらにメーカー各社などの協力が必要になる。現在、さまざまな日本企業にご相談させていただいている段階である。

ロンドンでの実証試験のイメージ(その1)
ロンドンでの実証試験のイメージ(その1)
ロンドンでの実証試験のイメージ(その2)
ロンドンでの実証試験のイメージ(その2)

・EV向けワイヤレス充電の普及は、住宅、店舗、公共施設など、どこから進むと考えているのか

 最初は、EVやPHEVを購入するユーザーの自宅に必ず設置されるのではないか。ある意味セット販売であり、EVやPHEVのカタログに掲載されるように思う。そして、市場が拡大するにつれ、一般のショッピングセンターや公共施設へと進展していくと考える。将来、新たに建設されるマンションや公共施設には、新インフラとしてEV向けワイヤレス充電システムが標準的に設置されるかもしれない。

・クアルコムはIPを含めたライセンスビジネスを手掛けるとのことだが、その場合EV向けワイヤレス充電システムの品質保証は誰がすべきか

 標準規格がきちんと整備され、EV向けワイヤレス充電システムの車両側/グラウンド側を誰が作ってもその標準規格に準拠すればよい、という状況が望ましい。その際には、車両側とグラウンド側のInteroperability(相互互換性)が最も重要となる。なお、グラウンド側は、住宅と公共施設では路面強度などの面で要件が異なる。あくまで推測だが、クラス分けができるのではないか(例:クラスA=家、クラスB=民間や公共の駐車場、クラスC=道路/橋など)

EV向けワイヤレス充電のイメージ図
EV向けワイヤレス充電のイメージ図

・公共施設などへの設置が広がること想定すると、「協議会」のような団体が必要になるのではないか

 普及を促進するためにおそらく必要になるだろう。多くの関連企業や団体が加入すると思われる。また、国際規格の標準化だけではなく、使用目的や条件などに応じた運用のためのガイドラインも必要になるだろう。今後、法制度整備の議論が進むにつれて、このような団体の必要性がかなり高まってくるのではないか。

・V2X(Vehicle to X)のように、車両から住宅側などに給電することも視野に入れているか

 最初は、EV/PHEVへの充電から始まると考えている。V2Xでワイヤレス充電を利用する場合には、レギュレーションの改訂も必要になるだろう。V2Xを非常時のみ使用するのか、それとも常時使用するのかも含めてもう少し様子を見たい。ワイヤレス充電をV2Xに利用するのは、しばらく特例扱いになると思われる。

・最後に、EV向けワイヤレス充電の国際規格の標準化については、どのような感触を持っているか

 活動に参加しているSAE(米国自動車技術会)やIEC(国際電気標準会議)では、2013年がガイドライン作成、2014年が標準化の目標となっている。主要課題の1つである周波数は、80kHz帯と140kHz帯の2つが候補として挙がっているが、日本ではスマートキーの利用周波数帯が145kHzに当たるので、140kHz帯はそのままでは使用できない。

 周波数以外でも、異物がワイヤレス充電システムの間に入った場合の動作など、固まっていない点も多い。主要な国際規格が定まっても、これと各国法規制が異なる場合、調整するのにかなり時間を要するのではないだろうか。技術標準と法規制のグローバルな協調が必要である。日本国内では、2015年に運用を開始するスケジュールで法制度整備と標準化が進んでいる。上述の国際規格標準化、法整備を適時に反映させるために、国際的な連携の基で積極的に推進していく必要がある。

クアルコム ジャパンの前田修作氏(左)と筆者
クアルコム ジャパンの前田修作氏(左)と筆者

 イベント会場などで立ち話はよくあるものの、クアルコムの方々とじっくりお話をするのは初めてであった。ビジネスドメインをきちんと絞っており、それ以外は魅力的であっても手を出さない、その潔さに企業の論理を感じた。ワールドワイドに展開する企業だからこそ、ロンドンでの経験をぜひ日本に持ち込んでいただきたい。

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