早大発ベンチャーが産業用ロボット向け3次元カメラを開発「高速高精度で安価」:産業用ロボット(2/2 ページ)
早稲田大学発ベンチャーの東京ロボティクスが産業用ロボット向けのセンサー事業に進出する。第1弾製品となる3次元カメラ「Torobo Eye」の「SL40」は、産業用ロボットの先端に取り付けられるサイズで、計測速度が業界最速クラスの10fps、奥行き計測のバラツキ誤差が±0.06mmの性能を実現。販売価格は100万〜130万円を想定している。
ロボットのビジョンセンサーに求められる3つの要件
東京ロボティクスは、早稲田大学 教授である菅野重樹氏の研究室で蓄積してきた技術をベースに2015年1月に設立されたベンチャー企業だ。柔軟関節アームや双腕人型ロボットの実用化に取り組んでおり、創業から7年目に入った現在の正社員数は11人、非常勤やインターンとして22人が所属している。
同社のビジョンは「人間共存ロボットの実現」だが、現在のロボット技術で広く実用化できている範囲は、安全停止機能を持つ協働ロボットにとどまっている。そこで同社が事業として展開しているのは、実用化レベルを押し上げられるような製品や技術となっている。
創業から展開してきたのは、自律ロボットを構成する「知覚」「計画」「行動」の3要素のうち「行動」と関わる、全軸トルクセンサー付研究用ロボット「Toroboシリーズ」が中心だった、Toroboシリーズは、これまで35機関に約50台を販売しており、2020年からはヤマハ発動機との資本提携による量産機開発も始まっている。
今回発表したTorobo EyeのSL40は、自律ロボットを構成する3要素のうち「知覚」を担うビジョンセンサーに当たる。東京ロボティクス プロダクトマネージャの川西亮輔氏は「このビジョンセンサーでは、速度と精度が良くてそこそこの値段のものがなかった。当社のSL40はそういったニーズに応える製品になる」と語る。
川西氏はビジョンセンサーに求められる要件を3つ挙げた。1つ目は、小型、軽量であることだ。「市場が拡大する協働ロボットは安全柵がなく移動させられるので、段取り替えが容易だ。そんな協働ロボットのビジョンセンサーは、ロボットと一緒に移動できるように、固定設置型ではなくロボットの先端に取り付けできなければならない」(川西氏)という。
2つ目は、3次元計測できることである。産業用ロボットでは、バラ積み状態の部品のピックアップが求められているが、奥行き計測ができないとロボットハンドによるピックアップは難しい。3次元計測ができればこれが容易になる上に、検査などにも用途が広がり得る。そして3つ目は、高い速度と精度だ。産業用ロボットが用いられる生産現場はタクトタイムが重要であり、そのためには高速で計測するとともに、高い精度の計測によるリトライ数の低減も重要になる。
SL40は、これら3つの要件を満たすことで自律ロボットに最適なだけでなく、カラー画像の同時取得によりAIを併用した外観検査や良否判別などのマシンビジョンにも適用できる。
産業用ロボットの3次元カメラと言えば、研究開発や試作に向けた取り組みでは価格が2万〜3万円の民生品であるインテルの「RealSense」が用いられていることが多い。ただし「RealSenseは製品ごとに性能のバラツキが大きく、奥行き計測の誤差も±10mmになるような場合もある。これを産業用途に使うための較正や保守の作業コストを含めれば、そういった作業が不要な状態で製品を提供するSL40とコスト的には同等になる。もちろん基本性能でもSL40が上回っている」と述べている。
東京ロボティクスとしては、SL40の他にも、Torobo Eyeシリーズとしてユーザーの要望に合わせたロボットのビジョンセンサーのラインアップを今後拡充させていきたい考え。他企業との連携によるSL40を活用したロボットソリューションの開発なども積極的に進めていく方針である。
なお、SL40については、2021年2月16〜18日に顧客企業が参加可能な社内デモを実施するとともに、同年3月9〜12日に幕張メッセで開催される「FOODEX JAPAN 2021」にも出展する予定だ。
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