ヤマハ発動機が協働ロボット市場に参入、早大発スタートアップと技術提携:協働ロボット
ヤマハ発動機は都内で記者会見を開き、東京ロボティクスへの出資および協働ロボット分野での技術供与に関する契約を締結したと発表した。
ヤマハ発動機は2020年1月21日、都内で記者会見を開き、早稲田大学発のロボット開発スタートアップである東京ロボティクスへの出資および協働ロボット分野での技術供与に関する契約を締結したと発表した。出資額は約2億円で、東京ロボティクスの発行する転換社債型新株予約権付社債をヤマハ発動機が引き受ける形となる。これにより、ヤマハ発動機は新たに協働ロボット市場に参入することになる。
ヤマハ発動機のロボティクス事業部は、高シェアを握る表面実装機とともに、世界シェアトップを争うスカラ型ロボットや、単軸ロボット、直交ロボット、搬送用のベルトコンベヤーといった産業用ロボットを展開してきた。2015年末からは垂直多関節ロボットもラインアップに加えて事業拡大を続けている。同社の調査によれば、小型の組立・搬送ロボットの2025年の市場規模は、単軸ロボットなどのアクチュエータ系ロボットが2018年比約2.4倍の1350億円、スカラ型ロボットが同3.3倍の1580億円、垂直多関節ロボットが同3.7倍の4260億円まで成長するという。一方、今回新たに参入を表明した協働ロボットは同6.8倍の4100億円と急成長を遂げる見込みだ。同社 ロボティクス事業部 FA統括部 部長の山田勝基氏は「既に多くの企業が協働ロボットを投入しているので後発のイメージが強いかもしれない。しかし当社は、単なる後発参入ではなく、協働ロボットという新たな市場を開拓したいと考えている。そのために東京ロボティクスの高い技術力は大きな魅力だった」と語る。
東京ロボティクスは、早稲田大学 理工学術院 教授である菅野重樹氏の研究室出身者が、「人間共存ロボットの実現」をビジョンに掲げ、ロボット技術開発に取り組むことを目的に2015年1月に立ち上げたスタートアップ企業だ。協働ロボットの高度化に欠かせない、力制御(関節柔軟性)の技術開発に強みを持つ。力制御技術を用いることにより、ロボットの関節が人間のように柔らかくしなり、適切な力で対象物を持ち上げる、優しく磨き上げるといった動作が可能になる。また、外力をよりセンシティブに検知できるようになり、異常発生時の動作停止などの安全対策も講じやすくなる。
同社 代表取締役の坂本義弘氏は「当社の力制御技術を活用すれば、ロボットアームの先に何Nの力をかけるのかといった狭義の力制御よりも幅広い、広義の力制御が可能になる。例えば、樹脂製コネクターを破損することなく挿入したり、柔らかく磨き上げるバフ掛けなどだ」と説明する。また、今後の東京ロボティクスの事業展開として「協働ロボットというと工場や倉庫向けのイメージがあるが、将来的にはオフィスや家庭などにも展開していけるようにしたい」(坂本氏)という。
両社は提携後、まずは垂直多関節の短腕型協働ロボット量産化を目指すものの、具体的な市場投入時期は現段階では未定とする。短腕型協働ロボットの具体的な用途としては、半導体のはんだ付け工程などを想定する。
また山田氏は、協働ロボット市場を黎明期と位置付けたうえで、「力制御などで高度な技術を有する協働ロボットメーカーは既に存在するが、極めて高価だ」と指摘。一方で、ヤマハ発動機の量産化技術と東京ロボティクスの技術力が組み合わされば、性能とコストのバランスで強みを持つ高度な協働ロボットが生産可能になるとし、現時点では後発となるものの、協働ロボット市場で競合他社に後れを取らない十分な競争力を発揮できるとの見方を示した。
関連記事
- 協働ロボット普及のカギは「用途別パッケージ」、2020年は“第3の道”にも期待
人口減少が加速する中、製造現場でも人手不足が深刻化している。その中で期待を集めているのがロボットの活用だ。特に協働ロボットの普及により人と同一空間を活用し新たな用途開拓が進んでいる。2020年はこれらの技術進化による普及が本格的に進む一方で、「人」との親和性をさらに高めた“第3の道”の登場に期待が集まっている。 - 人手不足対策で完全自動化は逆効果、人とロボットの協力をどのように切り開くか
人手不足に苦しむ中で、工場でもあらためて自動化領域の拡大への挑戦が進んでいる。その中で導入が拡大しているのがロボットである。AIなどの先進技術と組み合わせ、ロボットを活用した“自律的な全自動化”への取り組みも進むが現実的には難易度が高く、“人とロボットの協調”をどう最適に実現するかへ主流はシフトする。 - 協働ロボット、ロボットシステムに残された課題と未来
協働ロボットを現場で活用するのにどのような工夫が必要か――。ロボット技術の総合展示会「2017国際ロボット展」では、ロボットメーカーおよびユーザー企業によるパネルディスカッション「ロボットフォーラム2017」が実施され、協働ロボットの意義について語った。 - 機械は人の仕事を奪わない、“人とロボットがともに働く現場”が拡大へ
2016年は人工知能関連技術が大きな注目を集めて「機械が人間の仕事を奪う」という議論が大いに盛り上がりを見せた。こうした一方で2017年には「現場」において、こうした動きと逆行するように見える「人とロボットが協力して働く世界」が始まりを迎える。 - ヤマハ発動機が台湾メーカーへ出資、ロボティクス事業の強化へ
ヤマハ発動機は2019年3月20日、台湾の産業機器メーカー「TOYO AUTOMATION」へ出資を決定したと発表した。出資額は約9億円。ヤマハ発動機はTOYOから部品供給を受け、単軸アクチュエータの製品競争力を強化する狙いだ。 - 電動モビリティ開発と産業用ロボットの事業展開を強化、ヤマハ発動機が組織変更
ヤマハ発動機が組織変更と人事異動を発表。電動モビリティの技術開発と商品開発機能の強化、事業拡大に伴うIM事業部の再編が主な目的となっている。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.