Maker Faireだけじゃない! Maker系展示イベントが増える理由:ポスト・メイカームーブメント(4)(3/3 ページ)
前回に引き続き、世界中で開催されるようになったMaker(メイカー)系展示イベントについて取り上げる。後編では、日本独自の発展を遂げている「Maker Faire」以外のMaker系展示イベントにフォーカスし、草の根イベントならではの運営ノウハウや継続するための秘けつを紹介する。
メイカームーブメントがここにあるからこそ、続ける
イベントを運営する上で避けて通れないのが収支だ。Maker Faireほど大規模ではないとはいえ、個人のポケットマネーで続けるのは現実的ではない。NTイベントは会場費を安く抑え、机や椅子などのレンタル費は出展者が各自負担するといった工夫をして全体のコストを抑制。それと併せて会場にカンパを募る箱を設置したり、地元企業から協賛金を集めたりすることで収支のバランスを取っているという。
「会場によってはカンパだけで黒字になるが、多く集まった分は懇親会に還元したり、学生の参加費を無料にしたりしている」(akira_youさん)
「お金がないならないなりの規模でやればいいし、運営が無理をせず、個人で背負える予算でやるから続けられる」(五味さん)
小規模なイベントの場合、協賛金やスポンサー料を集めるのは難しいという話も聞く。「つくると!」はスポンサーごとに企画を提案するといった工夫を凝らしている。
「クリエイターと企業のトークセッションを用意するなどして、画一的な協賛にはならないようにしている。Maker系展示イベント特有の『そこに来た人にしか伝わらない熱気・魅力』は、企業にはなかなか伝わりにくい。理解してもらうためにはイベントに巻き込むことも重要だと思う」(松本さん)
持続可能なイベントにすべく、知恵と工夫を凝らすローカルなMaker系展示イベントの主催者たち。なぜ運営に関わり続けるのだろうか。
「作品のレベルは低くても、作ることで未来を自ら作り出せる実感がある。娯楽としてのモノづくりという側面から消費者が作るという行為を取り戻そうとしている。つまるところ、NTイベントでやっていることはメイカームーブメントの原点でもあると思う。自分たちは娯楽や消費としてのモノづくりの価値観を守り続けたいし、それに価値を感じている人が増えてきているんじゃないかと思う」(akira_youさん)
「自分はもともとメイカームーブメントに馴染みもないところから参加したが、作る人たちの熱気に感化されてファブラボにも通うようになった。自分のようなMakerではない文脈から来る人も含め、集まる人同士がフラットな関係であることがイベントを続けたいと思う動機につながっている」(松本さん)
2020年3月に予定していたNT京都はオンラインイベントに変更するなど、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が出ている。今後も各イベントへの影響が予想されるが、Makerがいる限りどのような形であれ、展示系イベントは続くだろうし、それをきっかけとして生まれたコミュニティーが絶えることもないだろう。 (後編終わり/次回に続く)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「作る」という行為を消費者に取り戻す――転換期を迎える「Maker Faire」
ここから前後編の2回に分けて、世界中で開催されるようになったMaker(メイカー)系展示イベントについて取り上げる。前編では、Maker系展示イベントの象徴ともいえる「Maker Faire(メイカーフェア)」の歴史や今後について、日本独自の発展を遂げるローカルイベントの現状を交えて紹介する。 - 全世界で逆風が吹くメイカースペースに必要なもの
「メイカームーブメント」の真っただ中、世界中にメイカースペースが誕生した。だが、この10年、採算がとれずに閉鎖を余儀なくされた施設も少なくない。連載第2回では、メイカースペースの歩みを振り返りつつ、TechShopとファブラボの存在に着目し、“2020年代に生き残るメイカースペースの在り方”を探る。 - 「ひとりメーカー」Bsizeが生き残ったシンプルな理由
2010年代に起きた「メイカームーブメント」を振り返るとともに、2020年代に始まる「ポスト・メイカームーブメント」の鍵となる企業や技術、コミュニティーを紹介する連載。ハードウェアの量産や経営に苦労するスタートアップがいる中、モノを作り続け、成長につなげることができているのはなぜか? 日本のメイカームーブメントの先駆けとして知られ、当時「ひとりメーカー」としてメディアにも大きく取り上げられた、Bsizeの八木啓太氏にお話を伺った。 - 大企業からスタートアップ、芸術家まで駆け込むDMM.make AKIBAのモノづくり哲学
さまざまなモノづくりを支援するDMM.make AKIBAの運営に携わる人たちにスポットを当て、世の中にないものを生み出そうとする現場の最前線を追う。第1回は、機材の運用から試作相談、受託開発までサポートするテックスタッフたちを紹介する。 - 2019年の深センから見た、ハードウェアスタートアップシーンの今
世界中から多くのスタートアップ企業が集まる中国・深セン。「アジアのシリコンバレー」とも称されるこの地に拠点を置くスタートアップと、彼らを支援するベンチャーキャピタル(VC)、そして消費者視点で見た深センの街並みを取材した。 - 国内企業とスタートアップのマッチングを加速、日本版「HAX」が目指すもの
住友商事とSCSKは、中国と米国を拠点とするアクセラレーションプログラム「HAX(ハックス)」を運営するSOSV Investmentsと提携し、日本国内のハードウェアスタートアップを対象としたアクセラレーションプログラム「HAX Tokyo(ハックス トウキョウ)」に参加するスタートアップを2019年8月31日まで募集中だ。