2019年の深センから見た、ハードウェアスタートアップシーンの今:現地レポート(1/3 ページ)
世界中から多くのスタートアップ企業が集まる中国・深セン。「アジアのシリコンバレー」とも称されるこの地に拠点を置くスタートアップと、彼らを支援するベンチャーキャピタル(VC)、そして消費者視点で見た深センの街並みを取材した。
2010年代はモノづくりにおいて大きな変革期となった10年だった。「メイカーズムーブメント」という言葉とともに3Dプリンタやオープンソースハードウェア関連の市場が誕生し、IT分野から後れを取っていた電気/機械分野のスタートアップのエコシステムが整いつつある。
そうした中、中国の存在感もこの10年間で飛躍的に拡大した。米国の調査会社CB Insightsによると世界のユニコーン企業341社のうち、中国企業は89社と全体の約4分の1を占めるという。中でも深センは「アジアのシリコンバレー」とも称されるほど、多くのスタートアップ企業が集まり、他に類を見ない巨大なサプライチェーンが、新たな製品の市場投入を支えている。
今、深センで何が起きているのか。2019年11月下旬、筆者は現地に赴き、深センに拠点を置くスタートアップと、彼らを支援するベンチャーキャピタル(VC)を取材した。
平均年齢30歳、約1000人のエンジニアを擁する「UBTECH Robotics」
深セン市南山区にある南山智園(Nanshan IT Park)は、多くのテクノロジー企業がオフィスを構えるエリアだ。その中に本社を置くUBTECH Robotics(以下、UBTECH)は、中国屈指のロボティクススタートアップとして知られる。約1700人の従業員のうち60%がエンジニアで、平均年齢は約30歳。オフィスではカジュアルな服装の若者たちがロボットの設計からソフトウェア、AI(人工知能)の開発にいそしむ。残念ながらオフィス内の撮影はできなかったが、日本企業には見られない光景が広がっていた。
UBTECHの創業は2012年。サーボモーターの開発から事業を起こし、2016年の旧正月前夜のカウントダウン番組で約540体のロボットによるパフォーマンスを披露したことで大きな注目を集めた。その後、日本でもおなじみの家電メーカーHaier(ハイアール)やTencent(テンセント)から資金調達を行い、民生用のロボットから商業施設や工場を巡回するロボットまで幅広く手掛け、時価総額も5兆円という規模にまで成長している。
独自開発のAIを搭載した「EMBOT」。工場や発電所などの監視用に開発されたロボットで、中央制御の下、複数のEMBOTが自律走行し施設内を巡回。音声や複数のカメラ、超音波センサーでデータ収集を行う[クリックで拡大]
「WALKER」はCES 2019でも披露された現在開発中の人型ロボット。現時点ではドアの開閉や10kgまでの荷物の運搬、屋内の歩行などが可能で、家庭での家事支援を目的に開発が進められている[クリックで拡大]
オフィスを案内してくれたUBTECHのマーケティング担当者によれば、5G(第5世代移動通信システム)の普及により、サービスロボットの活躍する範囲は拡大すると見込んでおり、工場やデータセンターのような人間がカバーできない規模の広大な施設からの問い合わせが多いという。
一方でWALKERのような家庭用ロボットの開発も社内では重要なプロジェクトに位置付けられており、創業時のミッションである「人の生活を、より便利に、知的に、人間らしく(Make human life more convenient,inteligent,humanized)」を実現するソリューションとして重点的に取り組み、10年以内に製品化させたいと意気込みを語っていた。
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