Maker Faireだけじゃない! Maker系展示イベントが増える理由:ポスト・メイカームーブメント(4)(2/3 ページ)
前回に引き続き、世界中で開催されるようになったMaker(メイカー)系展示イベントについて取り上げる。後編では、日本独自の発展を遂げている「Maker Faire」以外のMaker系展示イベントにフォーカスし、草の根イベントならではの運営ノウハウや継続するための秘けつを紹介する。
県外からの参加者が多いNTイベントの特色
NTイベントの規模は各地によって異なるが、大規模なものでも参加者と出展者の総数は400〜500人程度。それ以上になると個人で運営できるキャパシティの限界を超えるため、別の地域にNTイベントが誕生する。NTの特色はアメーバのように分離を繰り返すコミュニティーに加え、県外からの参加者が多いことも挙げられる。
開催地周辺からの参加者と、それ以外の地域から来る出展者・参加者の割合が、半々であることも珍しくない。「NT京都でいえば、京都府内からの参加者は2割程度。ただし、大阪からの来訪者も多く、関西圏からの参加者は半数程度だ」(akira_youさん)と、オフラインイベントながら遠方参加者も少なくない。
主催者自身も地域をまたぐケースもある。石川県で研究職の仕事に就き、NT金沢に参加してきた湯村翼さんは出身地である札幌でNTイベント「NT札幌」を2019年12月に開催した。
「スポンサーが付くまでの活動費は幹事メンバーがポケットマネーを出し合って捻出。ショッピングモール内のスペースを借りて会場にした。モールで開催するメリットは大きい。トイレや飲食に困らないし、NTを知らない買い物客も立ち寄るので集客にも困らない。結果的に個人が運営する上で楽になることの方が多い」(湯村さん)
NT札幌に限らず、他の地域のNTイベントでもショッピングモールや駅構内のイベントスペースを活用している。
「会場費が安い以前に、知らない人が偶然目にするというメリットが大きい。NTを知らない人がたまたまやって来て、いろんな作品を見て興味を持ち、仲間になっていくというサイクルに興味がある」(湯村さん)
パブリックな場所に展示し、不特定多数の目に触れること――。それこそが、オンラインにはないメリットだという。
「Webが世界に向けて発信しているとはいえ、出展者が個々にWeb上でリーチできる範囲は限られている。Twitterならフォロワーには届くが、モノづくりを普段していない人が、展示されている作品を通して、モノづくりの楽しさを知り、次は出展者になってもらいたい」(五味さん)
「SNSは見る側と見せる側という構図になるが、NTイベントでは出展者同士や作品同士の交流もある。実物があるからこそできるコミュニケーションの形だと思う。その場で『そのアイデア面白いな! パクらせてよ』ってカジュアルに言い合えるのも、オフラインならではの良さだ」(akira_youさん)
その他のローカルなMaker系展示イベントも
NTイベント以外にも、ローカルなMaker系展示イベントはいくつか存在する。福岡で開催されている「つくると!」もその一つだ。「つくると!」もNTイベント同様に各地の有志が実行委員会形式で集まり「つくろか!」(大阪)、「つくるけぇ!」(広島)、「IoTつくるよ!」(東京)と、各地の言葉に合わせたイベント名で広がっている。
2016年の第1回から運営に携わっている松本祐典さんによれば、「つくると!」誕生のきっかけはMaker Faireだという。山口県山口市にある山口情報芸術センター[YCAM(ワイカム)]で、2015年9月に開催された「Yamaguchi Mini Maker Faire」に福岡から参加したメンバーの間で、福岡でもMaker Faireのようなイベントをやりたいという話になった。
準備は手探り状態からスタートだったが、地元のMakerコミュニティーで顔が広いメンバーや地元企業、学校とのコネクションがある関係者が集まっていたことが功を奏し、会場を確保し出展者やスポンサーも自分たちで集めることができた。最終的には初回から38組の出展者が集まり、出展者と来場者合わせて500人が参加。以降も2019年まで5回開催している。
「つくると!」もNTイベントと同様に他の地域に広がっている点が共通している。松本さんはビジネスではない文脈だからこそ広がりやすいし、損得を抜きにした情報共有ができる、と舞台裏を話してくれた。
「自分たちの地域でも『つくると!』みたいなことをやりたいという相談が来た場合は、『つくると!』の運営委員会で作ってきた秘伝のタレのような運営マニュアルを渡している。何もないところから始めるのは大変だろうから、という思いで始めたが自分たちだけでなく、『つくるけぇ』を広島で運営する実行委員会の人たちがイベント用のWebサイトに使うCMSのテンプレートを作るなど、目立たないところで各地の運営委員会同士が支え合っている」(松本さん)
松本さんは継続の秘けつとしてNTイベント同様に「頑張り過ぎないこと」を挙げた。ハードルを高くしないことで誰もが参加しやすくする――。そういった思いから運営ノウハウを惜しげもなく共有しているのだ。
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