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全世界で逆風が吹くメイカースペースに必要なものポスト・メイカームーブメント(2)(1/5 ページ)

「メイカームーブメント」の真っただ中、世界中にメイカースペースが誕生した。だが、この10年、採算がとれずに閉鎖を余儀なくされた施設も少なくない。連載第2回では、メイカースペースの歩みを振り返りつつ、TechShopとファブラボの存在に着目し、“2020年代に生き残るメイカースペースの在り方”を探る。

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 2010年代に巻き起こった「メイカームーブメント」以降の変化を追う連載。第2回は、世界中にあるメイカースペースを取り上げる。個人では手が届かない機材をそろえ、趣味の工作から本格的な試作開発までをカバーするメイカースペースは、この10年間で世界中に誕生した。

 一方で、採算がとれずに閉鎖するケースも相次いでいる。“2020年代に生き残るメイカースペースの在り方”について取材した。

2020年2月末日に閉店してしまった「TechShop Tokyo」
2020年2月末日に閉店してしまった「TechShop Tokyo」 [クリックで拡大]

工房のイメージを変えたメイカースペース

 3Dプリンタやレーザー加工機、CNCなどのデジタル工作機械や旋盤、ボール盤、溶接機などのアナログ工作機械をそろえた会員制の工房が「メイカースペース(もしくはファブスペース/ファブ施設)」として、日本に普及し始めたのは2011年ごろ。「ファブラボ鎌倉」と「ファブラボつくば」がオープンし、レーザーカッターが利用できるカフェ「FabCafe」ができたのを皮切りに、日本各地にメイカースペースが広がった。

 工作機械が利用できる会員制の工房は、それ以前にも存在はしていた。2000年代後半ごろからインターネット上でのコミュニティー形成やデータ共有、加えて3Dプリンタの低価格化が進むと、コミュニティー主体のメイカースペースが増えはじめる。MIT(マサチューセッツ工科大学)の教授であるニール・ガーシェンフェルド氏が提唱した“FabLab(ファブラボ)”がメイカームーブメントの流れに合流し、クリス・アンダーソン氏による著書「MAKERS」がヒットしたことで、その数は爆発的に広がった。

神奈川大学内にあるメイカースペース「ファブラボ平塚」(2018年6月筆者撮影)
神奈川大学内にあるメイカースペース「ファブラボ平塚」(2018年6月筆者撮影) [クリックで拡大]

 メイカースペースでは、利用者同士の交流や情報共有が意欲的に行われる。ワークショップなどの学ぶ機会や、ミートアップ、ハッカソンなどモノを介した交流の場を用意することで、単純な「加工場所」や「作業場」とは異なる機能を提供している。

 3Dプリンタの「RepRap」やシングルボードコンピュータの「Arduino」「Raspberry Pi」などに代表されるオープンソースハードウェアが台頭してきたこと、そして、無償で利用可能な3D CADソフトが登場したことにより、試作コストは劇的に下がり、アイデアさえあれば誰でも簡単に作りたいものが作れるようになった。

 この状況に対して「モノづくりを仕事以外でも始める人は増え続けるだろう」という楽観的な期待を、メイカースペースに込める人は世界中に多数いた。その結果、世界中にメイカースペースが続々と誕生したのだ。

 しかし、モノづくりを始める人は、急増するメイカースペースの勢いに追従するほどは増えなかった。筆者はこれまで国内外のメイカースペースを取材してきたが、実際「思っていたよりも、利用者は少ない」とこぼす運営者は多かった。利用者の伸び悩みは、そのまま経営を圧迫する。メイテックが運営する技術系メディア「fabcross」の定点調査によれば、かつて200件近くまで増えたメイカースペースは、2019年末時点で前年比15%減に転じている。また、海外先進国でもメイカースペースは大小問わず閉鎖傾向にある。

 メイカースペースを立ち上げること自体は、とても簡単だ。トレーニングジムと同じで場所と機材があれば、まずはスタートできる。しかし、その後の運営はトレーニングジムのように会費だけで賄えるほど人は集まらない。利用者が少ない以上、継続していくためには、会費以外の収益を安定的に積み上げるモデルを運営者自ら仕掛けていく必要がある。

 これまでに国内外の数多くのメイカースペース運営者を取材してきた筆者が把握する限り、現時点で機材利用以外のメイカースペースにおけるマネタイズ手段として挙げられるものは、以下の通りだ。

  • 機材を活用した受託開発や受託製作
  • 機材運用から得られた導入/運用コンサルティングや運営受託
  • ワークショップの企画/運営
  • 工作機械の代理店業
  • メイカースペースの立ち上げ支援/コンサルティング
  • スタートアップやイントレプレナー(社内起業家)のインキュベーション/開発支援

 メイカースペースのビジネスは施設内にとどまらない。むしろ、面積や機材の制約を超えて価値を生み出せるかどうかも重要だ。

 次のページでは、都市圏と地方のメイカースペースの事例から、2010年代の日本におけるメイカースペースの在り方を探りたい。

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