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「作る」という行為を消費者に取り戻す――転換期を迎える「Maker Faire」ポスト・メイカームーブメント(3)(1/3 ページ)

ここから前後編の2回に分けて、世界中で開催されるようになったMaker(メイカー)系展示イベントについて取り上げる。前編では、Maker系展示イベントの象徴ともいえる「Maker Faire(メイカーフェア)」の歴史や今後について、日本独自の発展を遂げるローカルイベントの現状を交えて紹介する。

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 2020年代の「メイカームーブメント」を追う連載。次なるテーマは、世界中で開催されるようになったMaker(メイカー)系展示イベントについてだ。今回、そして次回の2回(前編/後編)に分けてお届けする。

出典:Maker Faire 公式サイトより
出典:Maker Faire 公式サイトより [クリックで拡大]

 個人やサークルといった小規模なチームで電子工作やデジタルファブリケーションなど、何かしらのテクノロジーを活用した作品を製作し、会場で展示・販売を行うイベントを本稿では「Maker系展示イベント」と定義。今回お届けする前編では、Maker系展示イベントの象徴ともいえる「Maker Faire(メイカーフェア)」の歴史や今後について、日本独自の発展を遂げるローカルイベントの現状を交えて紹介する。

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テクノロジーとモノづくりを取り戻そう、から始まった

 Maker系展示イベントの象徴的な存在が米Maker Mediaが主催していたMaker Faireだ。最初のMaker Faireは2006年に米国カリフォルニア州サンマテオで開催された。個人やサークル、スタートアップなどの小さなチームが与えられたブースに各々の作品を展示する。

Maker Faire BayArea
米国カリフォルニア州郊外のサンマテオで2006年から2019年まで開催されていた「Maker Faire BayArea」。広大な会場では手のひらサイズのマイコンボードから巨大な作品まで、あらゆる「作ってみた」ものが集まる 出典:Maker Faire 公式サイトより [クリックで拡大]

 作品のジャンルは広範囲にわたる。ロボット一つとってみても、マイコンボードとサーボモーターを使ったプロトタイプもあれば、楽器演奏に特化したロボット、スターウォーズの「R2-D2」を原寸大サイズで再現したもの、さらには段ボールで作ったロボット風着ぐるみを着て歩く人まで千差万別だ。

 その他にも、デジタルファブリケーションや自作のマイコンボード、ドローン、3Dプリンタ、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)、バイオテクノロジーなどに関連する作品から、紙や木材などを使ったハンドクラフトまで、広義の「モノづくり」に該当するものが展示される。近年はSTEM教育(※1)の広がりを受け、子供向けのガジェットやデバイスの出展が目立つ。

※1:STEM教育とは「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」を重視した教育モデルのこと。子供のうちからテクノロジーに触れることで、論理的思考や課題解決能力を伸ばすことを狙っている。

子供や家族連れの来場者も目立つ
さまざまなテクノロジーに触れられるMaker Faireは子供や家族連れの来場者も目立つ 出典:Maker Faire 公式サイトより [クリックで拡大]

 Maker Faireの根幹にあるのは「作る」という行為を消費者に取り戻すこと、その結果生まれたものを肯定するポジティブな思想だ。雑誌「Make」の創刊と併せてMaker Faireを立ち上げたデイル・ダハティ氏は自身の著書『私たちはみなメイカーだ』(オライリー・ジャパン刊)でも、消費や所有ではなく、自ら作ることがメイカームーブメントの根底にあると訴えている。

 こうした発想に試作開発の低コスト化が重なり、DIY文化の強い米国を中心に、Maker Faireは世界中に広まった。Maker FaireのメッカともいえるMaker Faire BayAreaは年々規模が拡大し、来場者が10万人を超えるまでに成長し、世界約40カ国でMaker Faireが開催されるようになった。

 日本では、オライリー・ジャパンが2007年に「Make: Japan meeting」という名称で「Maker Faire Tokyo」の前身となるイベントを多摩川の河川敷で開催。翌年からは「Make: Tokyo Meeting」と改称し、大学のキャンパスなどで開催していた。そして、2012年にMaker Faire Tokyoとなり、会場も日本科学未来館に移る。近年は、東京ビッグサイトでの開催が定番となり、2万人以上の来場者が訪れる一大イベントに成長している。

Maker Faire Tokyo 2019の様子 出典:Maker Faire TokyoのYouTubeチャンネルより

 Maker Faireの魅力を言葉にするのは難しい。作品の質やアイデアだけではなく、作者(Maker)との会話は知的好奇心を刺激する。また、決して新規性やクオリティだけが尊重されるわけではなく、ラフな出来栄えであっても、本人がベストを尽くして作ったという姿勢やアイデアのユニークさが肯定的に受け入れられるという空気感は、「品質にうるさい消費者」という視点から離れたからこそ成立するものだろう。

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