部門思考は部分最適か、製品の多様性と製造効率を両立する標準化とは:いまさら聞けない第4次産業革命(26)(3/3 ページ)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説します。第26回となる今回は、スマートファクトリー化などで求められる「一体型モノづくり」を切り口に「多様性への対応」について考察してみたいと思います。
「差異化」と「自動化」のトレードオフをどう乗り越えるか
「差異化」と「自動化」のトレードオフの問題について、印出さんには考えがあるようです。
本質的で難しい問題ではあるけれど、今はモジュラー設計とバリエーション対応ということで進めていくのが現実的ではないかしら。
どういうことですか。
モジュラー設計を進めれば、数多くの仕様の製品を設計できる上、製造面でも自動化しやすいという利点があるわね。
モジュラー設計は、機能を果たす互換性の高い部品群をモジュールとして標準化しておき、それらを組み合わせて多様な製品を生み出すという仕組みです。組み合わせを想定しているために、インタフェースとなる部分や単位などの統一など「標準化」が大きなポイントとなります。組み合わせのバリエーションにより、多様な製品を効率よく開発ができますし、モジュール部分はさまざまな製品でも共通化できますので、製造についても量が確保できるために、自動化やIoT活用などが生きると考えます。
なるほど。でも、それではユーザーには選択肢を与えるだけで、一品一様への対応を目指すマスカスタマイゼーションの目指す方向とは違うような気もするんですが。
現状では、そういう面もあるかもしれないし、製品分野によっては将来的にもあまり変わらないかもしれないわ。でも、この方向をさらに推し進めていくことで、バリエーションの数も増え、自由度も広がっていく。そして、工業製品の多くはこの方向性でカバーできると思うの。
本当に作り方から過去にない新しいものを作り、世界にそこにしかないというものを作るのであれば、ある意味で芸術作品に近いものになります。そういう製品であれば、製造効率はそれほど考えなくてもよい環境だといえます。しかし、工業製品はある程度の効率性が求められます。その意味では、多様性と効率をどう両立するかの考え方が必要になり、その解決策としては「バリエーションで対応する」というのが1つの選択肢だといえるのです。
多様化のための標準化
「多様化に対応するために画一的な標準化を実現する」というのは、相反するようで興味深い考え方ですね。
ある意味で1990年代以降の製造業の大きな課題として、ニーズの変化や多様化への対応があると思うの。ライン生産からセル生産への移行もそうだし、モジュール化やモジュラー設計もそう。それらのいろんな動きが組み合わせることで、より柔軟に多様性に対応するのが、今の動きなんじゃないかしら。
そうですね。少し道が見えてきました。まずは、設計と製造のそれぞれの話を聞いて、最適な形をモジュールとして作っていってみます
ぜひ頑張ってみて。
エンドユーザーのニーズの多様化への対応は製造業にとって大きな課題となっており、その解決策として目指す姿が「マスカスタマイゼーション」だとされてきたわけです。「思い描いた製品を思い描いた仕様で思い描いたタイミングに受け取ることができる」という夢のような世界が描かれているわけですが、注文が入ってから全ての部品を一から集め、製造方法などをそこから開発して作っていては、「思い描いたタイミング」に製品を受け取ることはできません。
すると、必然的に準備を前に倒していく必要が出てくるわけです。よく使う部品や基幹機能などは組み上げておきその組み合わせでバリエーション対応ができるようにしておき、嗜好性が出る部分だけ対応することが求められます。そこでモジュラー化の発想が必要になり、製品内の機能の標準化も必要になるのです。ただ、AIなどの先端技術や情報処理技術の発展により、従来のモジュール化に対して、作ることのできるバリエーションの種類が大きく広がろうとしており、そこが大きな違いといえるかもしれません。
先述した通り、工場側でも、ロボットの活用やAGV(無人搬送車)による可変ラインの実現など、多様性や柔軟性に対応する取り組みが進みつつあります。しかし、それだけでは、個人の嗜好に応える多様性は実現できません。そういう意味で、設計から製造まで一体となって多様性に対応するモノづくりへの取り組みを進めていく必要があると考えています。
さて今回は「設計と製造の壁」を切り口に「多様性への対応」についてまとめてみました。次回も最新の動向に合わせてタイムリーな話題を取り上げたいと思います。
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