ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】:インダストリー4.0(1/4 ページ)
「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」という言葉をご存じだろうか? 「インダストリー4.0」は、ドイツ政府が産官学の総力を結集しモノづくりの高度化を目指す戦略的プロジェクトだ。インダストリー4.0とは何なのか。同プロジェクトに参画するドイツBeckhoff Automationグループに所属する筆者が解説する。
「インダストリー4.0(Industrie 4.0、ドイツ語ではIndustryをIndustrieと表記)」という言葉をご存じだろうか。「Industrie 4.0」はドイツ語で第4次産業革命の意味だが、ここではドイツ政府が2011年から推進している技術政策を指す。同政策によるプロジェクトには、ドイツの主要企業を含む産官学の多くの企業や団体が参加し、新たなモノづくりの形を模索している。なぜ今「Industrie 4.0」が注目を集めているのだろうか。また「Industrie 4.0」とは何なのか。同プロジェクトに参画するドイツBeckhoff Automationの日本法人社長である筆者が解説する。
ドイツ政府が描く第4次産業革命
「Industrie 4.0」とは2011年11月に公布された「High-Tech Strategy 2020 Action Plan(高度技術戦略の2020年に向けた実行計画)」というドイツ政府の戦略的施策の1つである。
産官学の共同プロジェクトとして推進され、有識者で構成される「Industrie 4.0 Working Group」と科学技術アカデミー「acatech(National Academy of Science and Engineering)」によってまとめられた素案は、2012年10月2日にベルリンで開催された「Industry-Science Research Alliance’s Implementation Forum」でドイツ政府に対する提言書(PDF)として提出された。
現在では、ドイツにおける電機、通信、機械などの工業会(BITKOM、VDMA、ZVEI)によって運営される「Industrie 4.0 Platform」と名付けられた事務局の下で産官学のワーキンググループが活動を行っており、この戦略的施策を実践しているところだ。
もともと「Industrie 4.0」は、2006年からドイツ政府が強力に推進してきた「高度技術戦略」の中で生まれてきたものだ。この戦略の使命は、革新的な研究を重ねることで技術的なイノベーションを生み出しドイツの高い競争力を堅持することにある。
「高度技術戦略 2020年に向けた実行計画」には、5つの重点分野が定義されている。これは「気候・エネルギー」「健康・食品」「モビリティ」「セキュリティ」「通信」だが、今後10〜15年を見据えた中期的な科学的・技術的な目標が具体的に掲げられている。
ドイツがグローバルな課題に対して解決策を与えられるリーダーの地位を維持するために、この目標の達成が必須条件だと位置付けている。特徴的なのはドイツ首相のアンゲラ・メルケル氏が自らこの活動を推進し、産官学が構成するワーキンググループに思い切った予算を振り分けていることだ。
インダストリー4.0のベースは「サイバーフィジカルシステム」
壮大な取り組みを誤解を恐れず一言でまとめるなら、「Industrie 4.0」とは「スマート工場の実現」である。
第一次産業革命が、18世紀後半に始まった蒸気機関などによる工場の機械化によるものだとすると、第二次産業革命は19世紀後半から始まった電力の活用による大量生産の開始、第三次産業革命は20世紀後半に始まったPLCなど電気とITを組み合わせたオートメーション化だとされている。
「Industrie 4.0」は、これらをさらに進化させ「サイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System)」に基づく、新たなモノづくりの姿を目指すというものだ。サイバーフィジカルシステムとは、センサーネットワークなどによる現実世界(Physical System)と、サイバー空間の高いコンピューティング能力(Cyber System)を密接に連携させ、コンピューティングパワーで現実世界をより良く運用するという考え方。モノづくりでは、設計や開発、生産に関連するあらゆるデータをセンシングなどを通して蓄積しそれを分析することで、自律的に動作するようなインテリジェントな生産システムが想定されている。
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