インダストリー4.0に見る日独における生産技術のさらなる進化 ――独NRW州セミナー:FAニュース(1/2 ページ)
ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州経済振興公社とテュフ ラインランド ジャパンは「日独が描く未来工場・生産技術」をテーマに2014年9月26日にセミナーを開催し、インダストリー4.0をはじめとした生産技術のさまざまな現状と進化について紹介した。本稿では、そのうち欧州Kawasaki Robotics社長の高木登氏、テュフ ラインランド ジャパン 産業サービス部 部長代理 杉田吉広氏の講演内容を紹介する。
ドイツのNRW州は州都デュッセルドルフや、ケルン、ボン、アーヘンなどの主要都市を抱え、530社以上の日本企業が進出する日本と経済的に縁が深い地域だ。ドイツでは現在ドイツ政府が中心となって生産技術革新プロジェクト「インダストリー4.0」を進行中だ(関連記事:ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】)。NRW州にも、同プロジェクトの中心となる企業や産業クラスターなどが多く存在している。
これらの流れもあり、今回のセミナーでは「生産技術」に焦点を当て、ドイツと日本の先端技術について「工作機械やロボティクス、アディティブマニュファクチャリング(積層造形)など構成するそれぞれの要素に光を当てる、ということを狙いとした」(NRWジャパン代表取締役社長ゲオルグ・ロエル氏)。この狙いの下、セミナーではドイツNRW州、ケルン・ボン地域協会、パーダーボーン大学、ランクセスグループ・サンディゴ社、イグス、欧州Kawasaki Robotics、テュフ ラインランド ジャパンなどが登壇した。
本稿では、特にFA関連で示唆に富んだ内容だった、欧州Kawasaki Robotics、テュフ ラインランド ジャパンの講演内容について紹介する。
産業用ロボットで工夫を
「産業用ロボットを用いた生産技術、世界をリードする技術の課題と可能性」をテーマに登壇したのは、欧州Kawasaki Robotics 社長の高木登氏だ。欧州Kawasaki Roboticsは川崎重工の欧州向け産業用ロボットの販売会社で、同拠点はNRW州内に開設されている。
高木氏は川崎重工の産業用ロボットは「独自の創意工夫で存在感を発揮してきた」と語る。例えば、スポット溶接用のロボットではいち早くケーブル・ホースをアーム内に内蔵した製品をリリース。通常のロボットアームが、外に出たケーブルやホースの干渉に配慮せねばならず、ティーチングが複雑になり、オフライン教示時間に時間が必要だったのに対し、同社の製品はこれらを削減することを可能とした。
加えてロボットのベースボディを小型化し、設置面積を低減することに成功し、高密度な配置を実現。生産ラインの省スペース化などを実現し、工場当たりの生産能力を高めることにも成功している。
同社ではこれらの個々の製品の工夫とともに、電機製品や食品加工などさまざまな分野の製造工程ごとに最適なロボット製品をそろえており、工程を総合的にカバーできることも強みとしている。例えば、電機製品の製造工程では、部品受け入れ時に利用するデパレタイジングロボット、部品の配膳時に利用するピッキングロボット、加工時に利用するバリ取りロボット、塗装に使う塗装ロボット、箱詰め時に利用するハンドリングロボットなど、各工程で一連の製品を用意する。このように工程を全てカバーすることにより「工程における周辺機器などの開発を行え、それによりさらに生産効率を高める提案なども可能だ」と高木氏は述べる。
ロボットと人の協調・共存
ただ、工程を総合的にカバーしてきた川崎重工でも、製品の組み立て工程については「最適な製品を提供できていなかった」と高木氏は語る。組み立て工程については、例えば、電機製品については商品サイクルが短く、ティーチングを含めた工程作りが難しいためである。そのため従来は人手による組み立てが主流となってきた。
しかし今、川崎重工では組み立て工程に最適なロボットの開発に力を注ぐ。高木氏は「従来はロボットを利用して完全自動化を進めるというのが潮流だった。しかし、ロボットは不得意な領域もあり、完全無人化を実施すればさまざまな問題が発生する。結果として失敗に終わるケースも多かった。その中で、当社が考えているのが、人間と協調して働けるロボットおよび人間と共存できるロボットだ」と強調する。
ただし、ロボットと人間が同じ空間で生産活動を行う際には、安全性の問題など、多くの問題が存在する。これらの解決として同社が考えたのが「まずは自社のロボットを人とロボットの協調生産で生産してみる」(高木氏)ということだ。既に研究開発を進めており、2015年4月には中国で、この新方式によるロボットの本格生産を開始する予定だという。
高木氏は「完全自動化ではなく、ロボットと人が協業できる姿というのが理想だ。まずは自社実践で実績を作り、外部への展開を進めていく」と話している。
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