燃料電池スタックのさらなるコスト削減に取り組む日産:燃料電池車ビッグ3 講演リポート(3)(1/3 ページ)
ついに量産販売が始まった燃料電池車。普及の端緒についたとはいえ、課題はまだまだ多い。「第11回 国際 水素・燃料電池展(FC EXPO 2015)」の専門技術セミナーに、燃料電池車を手掛ける国内大手自動車メーカー3社の担当者が登壇。本連載では、その講演内容をリポートする。第3回は日産自動車の森春仁氏による講演だ。
燃料電池車の開発に積極的な姿勢を示してきたトヨタ自動車、日産自動車、ホンダの国内大手自動車メーカー3社。各社とも燃料電池車の技術力に優れているだけでなく、トヨタ自動車はBMW、ホンダはGeneral Motors(GM)、日産自動車はダイムラー、フォードと、燃料電池車を共同開発する協業関係を構築し、その中で主導的な役割を果たしている。燃料電池車のビッグ3と言っても過言ではない。
「第11回 国際 水素・燃料電池展(FC EXPO 2015)」(2015年2月25〜27日、東京ビッグサイト)の3日目に当たる2月27日に開催された専門技術セミナー「いよいよ普及が始まる燃料電池自動車〜日本の実用化開発と普及展望〜」では、これら燃料電池車ビッグ3の担当者が登壇した。本連載ではその講演内容をリポートする。
最終回の第3回は、「早ければ2017年中に燃料電池車を市場投入する」としている日産自動車だ。同社の総合研究所でEVシステム研究所長を務める森春仁氏による「日産自動車における燃料電池自動車の開発研究」と題した講演の内容を紹介する。
2005年に燃料電池スタックを自社開発
日産自動車の森春仁氏。1991年に日産自動車に入社し、総合研究所で動力伝達系部品、無段変速機の研究開発に従事。研究企画業務を経て、電動駆動研究開発を担当した。2011年からEVシステム研究所長を務めている
日産自動車は2001年から燃料電池車の開発に着手。2005年には、ほぼガソリン車並みの加速性能と走行距離を備える車両を実現した。2005年以降は、量産時の課題解決やコストダウンを狙い、燃料電池スタックシステムの開発に特化して開発を進めてきた。国内外の市場での実証走行試験を継続して実施中で、走行距離は延べ145万km以上。実証走行試験車のうち2台は、燃料電池スタックを交換することなく20万km以上を走破した実績がある。
同社では当初、燃料電池車の量産開発の課題として以下の4つ挙げていた。
- 氷点下での始動性
- 燃料電池スタックの小型化
- 燃料電池スタックの耐久性
- 車両安全性
現在これらの課題はほぼクリアできているという。
氷点下で生成した水が凍ってしまいシステム起動が不能になる「氷点下での始動性」については、−30℃でも起動・走行が可能になる状態まで開発が進んでいる。「燃料電池スタックの小型化」でも、2005年から2011年で4割程度までのサイズダウンを実現し、現在はさらに良好な成果が得られているという。
「燃料電池スタックの耐久性」では、触媒の劣化や担持カーボンの腐食をどう抑えるかが鍵になる。森氏は、「分子、原子レベルまで様子をみることによって、何が起きているのかを解析してきちんと理解しなければならない。それらの結果から、耐久性、信頼性の確保に取り組んできた」とする。
車両の高圧電気、高圧水素、水素といった「車両安全性」の確保でも着実な成果が得られている。水素貯蔵タンクについては、30年間毎日水素充てんを行うのと同等レベルの厳しい認証試験を実施。また衝突時には、水素貯蔵タンクをつぶさない、衝突をセンサで感知し水素と電気を自動的に遮断する、高温に曝された際は圧力を抜くことで水素を閉じ込めたままにしないといった安全性を保つ取り組みによって、自動車メーカーとしてガソリン車と同等の性能を確認したという。これらの結果から森氏は、「クルマとして耐久性、信頼性が十分に確保できるところにきている」と手応えをつかんでいる。
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