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燃料電池車の本格普及にはSiCインバータが必要だ日産 燃料電池車 インタビュー(1/3 ページ)

CO2を排出しない次世代環境対応車としてだけでなく、今後の発展が期待される水素エネルギー社会のけん引役としても期待されている燃料電池車。日産自動車は、その燃料電池車の市場投入を表明している自動車メーカーの1つである。そこで、同社で燃料電池車の研究開発を担当する飯山明裕氏に、燃料電池車の本格普及に向けた課題などについて聞いた。

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日産自動車の飯山明裕氏

 2014年2月26日、芝浦工業大学の豊洲キャンパスで「第1回グリーンイノベーションシンポジウム」が開催された。SiC(シリコンカーバイド)デバイスを中心に、次世代パワー半導体の実用化に向けた最新の研究開発事例が報告された同シンポジウムで、基調講演に登壇したのが、日産自動車で燃料電池車(FCV)の研究開発を担当する、総合研究所 EVシステム研究所 エキスパートリーダーの飯山明裕氏である。

 一見、水素を燃料とする燃料電池車と次世代パワー半導体の間には、直接の関係はないように感じられるかもしれない。しかし飯山氏は、講演の中で「燃料電池車の本格的な量産化に向けて、SiCインバータの実用化に対する期待は大きい」と語り、次世代パワー半導体関連の技術者が多くを占める来場者に訴えた。

「第1回グリーンイノベーションシンポジウム」で講演する日産自動車の飯山明裕氏
「第1回グリーンイノベーションシンポジウム」で講演する日産自動車の飯山明裕氏

 今回MONOistでは、飯山氏にインタビューする機会を得た。同氏のSiCインバータに対する期待とは一体どのようなものなのか。燃料電池車の車両価格はどこまで安くなるのか。本格普及に向けた課題は解決できるのか。さまざまな質問をぶつけたところ、燃料電池車に対する大き過ぎる期待と、着実に解決すべき課題の存在が見えてきた。


車両レイアウトに余裕がない燃料電池車

MONOist まずは「燃料電池車にとってSiCインバータの実用化がとても重要だ」ということの意味について教えてください。

飯山氏 燃料電池車は、モーターやインバータから成る電動システム、燃料電池スタック、二次電池パック、高圧水素タンク、各種補機などさまざまな部品を搭載するため車両内のレイアウトに大変苦労している。SiCデバイスから構成されるSiCインバータを実用化できれば、電動システムを大幅に小型化できるので、車両レイアウトに余裕が生まれる。自動車開発にとって部品の小型化は大きな価値があるが、それは燃料電池車でも同じだ。

 SiCインバータを実用化できれば、電動システム、燃料電池スタック、加湿器を1個のユニットに統合することもできる。これができれば、自動車の組み立てや配線もかなり楽になるので、生産性を高められる。

 燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)では、燃料電池車について、2015年から導入を開始し、2025年には本格的な普及を目指すとしている。この2025年の本格量産時に、SiCインバータが間に合ってほしい。

MONOist SiCインバータの実用化は他にどのようなメリットがありますか。

飯山氏 今話題になっている燃料電池車は乗用車だが、CO2排出量の削減を促進するのであれば、バスやトラックといった商用車も燃料電池車にする必要がある。この燃料電池商用車を実現するには、SiCインバータが不可欠なのだ。

 現在、燃料電池スタックの出力は100kW程度だ。これに定格電圧600VのSiインバータをつなげて、60Aの定格電流を流してモーターを回している。乗用車であれば、燃料電池スタックの出力がこの程度でも十分だが、10トントラックの動力源としては不十分だ。

 もちろん、燃料電池スタックの出力を仮に2倍の200kWにすれば、10トントラックを走らせるためのモーターを駆動する程度の電力は確保できる。しかしワイヤーハーネスの径の太さなどの制限から定格電流を現状よりも大きくすることは難しい。このためインバータの定格電圧を上げなければならなくなる。そこで定格電圧を仮に1200Vにすると、現状の部品、例えばSi(シリコン)インバータでは冷却系なども含めて大型になり、車両への搭載が難しくなる。しかし、SiCインバータであれば定格電圧を1200Vにしてもサイズを自動車に搭載できるような小型にできる可能性があるのではないか。

 既に開発されている燃料電池バスは、乗用車の燃料電池システムを2台分搭載することで対応している。しかし、燃料電池商用車を量産化するのであれば、1つの燃料電池システムで走行できなければならない。SiCインバータはそのための切り札になるはずだ。

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