燃料電池車の本格普及にはSiCインバータが必要だ:日産 燃料電池車 インタビュー(2/3 ページ)
CO2を排出しない次世代環境対応車としてだけでなく、今後の発展が期待される水素エネルギー社会のけん引役としても期待されている燃料電池車。日産自動車は、その燃料電池車の市場投入を表明している自動車メーカーの1つである。そこで、同社で燃料電池車の研究開発を担当する飯山明裕氏に、燃料電池車の本格普及に向けた課題などについて聞いた。
コスト削減が難しい3つの燃料電池スタック材料
MONOist 燃料電池車を量産する上では、燃料電池スタックを中心としたコストが課題として上げられています。日産自動車は、Daimler(ダイムラー)、Ford Motor(フォード)と燃料電池システムを共同開発し、早ければ2017年に投入するとしていますが、燃料電池スタックのコスト削減に向けてどのような取り組みを進めていますか。
飯山氏 2005年に発表した実験車「エクストレイルFCV」の1台当たりの価格は億円レベルに達する。生産台数が数十台と少なかったこともあり、こういった価格になるのは仕方がなかった。
燃料電池スタックを構成する部品/材料のうち、白金、カーボン多孔体、電解質膜のコスト削減が極めて難しい課題となっている。2025年までのあと10年間で、これらのコスト削減を何とかしたいが、見通しが立っているとは言いがたい。研究段階ではあるものの、良い成果も出ているので、これを安価に使えるようにしたい。
MONOist 貴金属である白金ですが、他の安価な材料で代替することはできないのでしょうか。
飯山氏 燃料電池スタックに用いている白金を他に材料に代替するのは難しい。使用量を減らすのが基本路線になる。かつては1台当たり100g使っていたが、現在は30〜40gまで減らせている。世界の白金生産とリサイクルのバランスを崩さない分岐点である10gまで減らせれば、燃料電池車の本格量産が可能になる。
現在、山梨大学の燃料電池ナノ材料研究センターで実施されている「HiPer-FCプロジェクト」では、耐久性の良い高活性な触媒や電解質材料などの研究で良い成果が出ているので、これを何とか早く事業化してほしい。
MONOist カーボン多孔体と電解質膜はどうでしょうか。
飯山氏 ガス拡散層(GDL)に用いるカーボン多孔体は、微細なカーボンに数〜数十nmの穴が空いている材料だ。現在、GDLを使わずに済ませたり、安価なカーボン多孔体を利用したりして燃料電池のコスト削減を目指す研究開発が進んでいる。
電解質膜の目標コストは1m2当たり1000円だ。これは2003年ごろから自動車メーカーが求めてきたもの。燃料電池車は1台当たりで電解質膜を10m2使う。しかし、化学メーカーにとって、燃料電池の電解質膜は生産規模が小さすぎるため、この目標価格では商売にならないと聞いている。そこでFCCJを通じて、2013年度からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)で次世代電解質膜の研究開発を進めている。
1m2当たり1000円を実現するには、高速大量生産ラインが必要だが、燃料電池車の需要を満たすためだけであれば、世界に2〜3カ所の工場があるだけでよいのではないか。これは、燃料電池の電解質膜に参入している多くの企業が、最終的には2〜3社に集約されるということを意味している。NEDOのプロジェクトに参加する企業は、そのうちの少なくとも1社にはなってほしいと思っている。
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