燃料電池車の本格普及にはSiCインバータが必要だ:日産 燃料電池車 インタビュー(3/3 ページ)
CO2を排出しない次世代環境対応車としてだけでなく、今後の発展が期待される水素エネルギー社会のけん引役としても期待されている燃料電池車。日産自動車は、その燃料電池車の市場投入を表明している自動車メーカーの1つである。そこで、同社で燃料電池車の研究開発を担当する飯山明裕氏に、燃料電池車の本格普及に向けた課題などについて聞いた。
高圧水素タンクが最適解とは限らない
MONOist 燃料電池スタックの他に、高圧水素タンクもコスト増の要因になっていると聞いています。
飯山氏 高圧水素タンクも燃料電池車の開発課題の1つだ。現在は、耐圧70MPaが主流だが、これが最適解というわけではない。可能な限り、高圧水素タンクの容積、重量を減らしていくことを検討すべきだ。そういう意味では、液体水素の利用も検討しなければならないだろう。液体水素が気化するボイルオフの問題はあるが、燃料である水素を液体として扱えることにはさまざまなメリットがある。海外の自動車メーカーも燃料電池車に液体水素を使うことを諦めてはいないようだ。キャッチアップしておくべきだろう。
液体水素が求められる理由はもう1つある。水素ガスは気体なので、液体のように正確な計量を低コストで行うのが非常に難しいと聞いている。現在のガソリンエンジン車のように、燃料タンクの残量が不足してきたからガソリンスタンドで10lだけ追加する、といったような継ぎ足し補充が難しいかもしれない。液体水素タンクを実用化できればこの問題も解決できる。
MONOist 燃料電池車を開発する上で他にどのような課題がありますか。
飯山氏 燃料電池車は、電気自動車よりも制御が複雑だ。電気的制御だけでなく、ガスの流体制御も必要だからだ。燃料電池スタックに送るガスの量が多いと乾いてしまい、少ないと水がつまる。例えば停車時から起動する場合は、燃料電池スタック内の湿度が大気温度から上昇する過程で水が凝集しやすくなるので、それを考慮する必要がある。こういった燃料電池スタック内の水分の状態に合わせて電動コンプレッサーで制御しなければならない。水の管理を流体で行うのはかなり大変だ。
燃料電池車だけで水素エネルギー社会は実現できない
MONOist 5年ほど前は電気自動車が脚光を浴びているのに対して、燃料電池車開発の勢いはかなりトーンダウンしていたイメージがあります。しかし現在、次世代エコカーとしての燃料電池車への期待は、その時よりもはるかに大きくなっています。
飯山氏 高騰する原油の使用量やCO2排出量を減らすという観点で、燃料電池車への期待が高まっているのを感じる。しかし、日本の原油使用量のうち、乗用車の燃料は約20%、商用車の燃料も約20%にすぎない。残りの60%を含めて、水素エネルギー社会に移行しない限り、燃料電池車を普及させることはできないのではないだろうか。モノづくりや電力など、さまざまな用途に水素が用いられるようになって、それに付随する形で燃料電池車の普及も進展するだろう。
現時点では、川崎市が水素エネルギー特区に名乗りを挙げるなど新たな動きは始まっている。しかし、社会や産業を変革しなければ、水素エネルギー社会への移行は進まない。
日産自動車が、(早ければ2017年ごろに)燃料電池車を市場投入する際の価格は、1000万円以下が要求されるだろう。しかし2025年を想定している普及期には、同格のハイブリッド車に対して競争力のある価格まで下げたい。10年程度でここまでのコスト削減を実現するには、燃料電池車への開発投資を産学官を挙げて継続する必要がある。燃料電池車の市販が始まるからといって、その開発投資のペースを緩めるべきではない。
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