ロックウェル オートメーション ジャパンはユーザーイベント「ROKLive Japan 2024」を開催し、バーチャルとリアルが融合する中での製造現場の未来像を訴えた。本稿では4つの講演を紹介する。
製造業を取り巻く環境が大きく変化する中、製造現場に求められる指標はどのように変わるのだろうか――。
ロックウェル オートメーション ジャパンは2024年7月10日(東京)と24日(名古屋)、ユーザーイベント「ROKLive Japan 2024」を開催してバーチャルとリアルが融合する中での製造現場の未来像について訴えた。
本稿では、米国Rockwell Automation(以下、ロックウェル) アジア太平洋地域プレジデントのスコット・ウールドリッジ氏、経済産業省 製造産業局 製造産業戦略企画室 総括補佐の松高大喜氏、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 ロボット化コンソーシアム 名誉教授の佐藤知正氏、インフォーマインテリジェンス シニアコンサルティングディレクターの南川明氏の講演内容を紹介する。
ロックウェルは製造業の課題について独自調査を9年間行っており、最近は優先順位に変化が見られるという。ロックウェルのウールドリッジ氏は「ここ数年はコロナ禍でサプライチェーンの問題が関心の上位でしたが、調達難が落ち着いたことから2024年は人手不足やコスト高への関心が高まっています。今回はサイバーセキュリティについての関心が初めてトップ5に入るなど、スマート化に関わる技術に大きな注目が集まっています」と説明する。
製造現場に求められるパフォーマンス指標なども変化し、従来の「生産性」「価格」「信頼性」に加え、「アジリティー(俊敏性)」「サステナビリティー(持続可能性)」「レジリエンス(回復性)」「従業員の経験値」などが新たに重視されている。そのため、生産設備への要求もこれらを向上させるために必要なものに変わってきているという。
ロックウェルは特に「生産システムの設計」「製造実行管理」「製造設備の構内物流」「エッジとクラウド」の分野の変化への対応を強化している。「さまざまな要件に対応するためには、シミュレーションやAI(人工知能)関連技術などを活用し、工場を常に最適に運営する必要があります」(ウールドリッジ氏)
製造現場は「自動化」から「自律的制御」に進化しようとしている。自律的制御を実現するには、従来のように制御ロジックを用意してそのパターン通りの動作をさせるだけでは難しい。環境の追加学習(アダプティブラーニング)などによって作業内容を簡単に変化させられることが求められる。人材についても、制御に関する知見だけがあるエンジニアに加えてデータサイエンティストなどが必要だ。
「自律制御を実現するには自社だけでは難しい領域が残るため、技術パートナーや販売パートナーとの協業やM&Aなどを通じて対応を進めます。これによって『製造の未来』を切り開いていきたいと考えています」(ウールドリッジ氏)
経済産業省の松高氏は2024年6月に公開された「ものづくり白書」などのデータを基に、日本の製造業の現状とDXを推進するために必要なものを紹介。さらに、スマート製造を推進するための基本的な類型などを示した「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」について説明した。
製造業は日本のGDP(国内総生産)の約2割を占め、先進国の中でも高い比率を占めている。最近の製造業の業績は大企業、中小企業ともに改善傾向が続いている。一方でコロナ禍の影響があった2022年度に対して2023年度は「原材料価格の高騰」「エネルギー価格の高騰」「労働力不足」などが大きな影響を与えている。こうした状況について「多くの製造業が『価格転嫁』や『賃上げ』に積極的に取り組むようになっています」と松高氏は述べる。
製造業は「既存の業務の全体最適化」と「事業機会の拡大」の2つの方向性でデジタル化に取り組んでいるが、現状では既存の業務や部門の範囲内での最適化が中心で「個別最適」にとどまっている。開発設計、生産管理、製造、販売、サービスの各部門機能を総合的に捉える人材の不足、進め方のノウハウの不足などが変革のボトルネックになっている。全体最適が進まない理由としては「DX人材不足」「検討の進め方や手法の不足」があると松高氏は指摘する。
これを解消するため、経済産業省はデジタルツールを活用して製造プロセス全体を俯瞰(ふかん)した全体最適を目指すためのガイドライン「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」を策定した。同ガイドラインは画一的な回答を提示するものではなく、製造業が自社に合ったスマート化の道筋を描くための考え方や目指す姿を具体的に示した7つのレファレンスを提示していることが特徴だ。
さらに、類型化した57個の業務変革課題を用意して最初に取り組むべき対策と事例なども併せて紹介している。「57個の具体的な課題を挙げ『ここから始めてはどうか』というポイントを示しています。業務オペレーションベースのガイドラインは初めて作りました。経営層やDXのプロジェクトリーダーに参考にしてもらいたいと考えています」(松高氏)
ロボット研究の第一人者である東京大学大学院 名誉教授の佐藤氏は「これからのものづくりにおいて必須となる三種の神器〜改善集積、デジタルツイン統合と生成AIシミュレーション〜」をテーマに、生成AIによるロボットとモノづくりの進化について説明した。
日本では2004年をピークに人口減少局面となっており、今後全ての業界で人手不足が進むのは明らかだ。その中で社会を存続させるためにはロボットによって人手作業を代替することが必要で「少数の人と多数のロボットが一緒に働く、人とロボットのワークシェアが進む」と佐藤氏は指摘する。
人とのワークシェアが進むことを考えると、ロボットの協調関連機能を進化させる必要がある。「これからのロボットは基本的にコ・ロボットシステムになります」(佐藤氏)
ロボットは技術の統合の産物とされており、計算機技術の発展とともに統合範囲が拡大されてきた。ロボット単体からロボット作業システム、ロボット化工場などと進化してきたが、今後はロボットが社会に統合されるロボット社会になってくる。社会のさまざまな領域でロボットを活用できるようにするためには制御などのプログラムをより簡単にする必要があり、「生成AIによる現場知識の活用は非常に大きな役割を果たします」と佐藤氏は訴える。
統合イノベーション戦略会議では、第6期基本計画においてロボット社会実装、ロボット人材育成、ロボット統合知識の生成AI活用による蓄積などが示され、生成AIの活用への大きな期待が示された。膨大な知能の集積機能(人知を超えた集積)、知識の簡易な高度検索機能(マニュアル不要時代)、要約機能(知識の集約、短時間での把握が可能に)、翻訳機能(データモデルの翻訳機能)、素人でもAI機能活用が可能に(大勢の人の参画)などを生成AIの役割として挙げている。
「技術は成熟しつつあり、組み合わせの価値がより重要になっています。その中でロボットをうまく活用して日本式の製造現場を海外に輸出する動きが重要です。生成AIはその穴を埋める一つのカギです」(佐藤氏)
テクノロジー関連調査会社であるインフォーマインテリジェンスの南川氏は「半導体市場の動向から洞察する製造業の近年傾向」をテーマに、半導体の状況とそれを使う製品の動向などを説明した。
半導体需要は世界的なトレンドに左右されるが、世界で10年間変わらないトレンドは人口増加、高齢化、都市への人口集中だ。こうした問題をIoT(モノのインターネット)技術などで解決しようとする動きが進んでいる。交通渋滞による損失は日本で年間12兆円とみられるが、これを半分にできれば約8兆円とみられる日本の石油輸入額の大半を賄える。こうした領域が数多くあるため「最終製品の民間需要が中心だったのに対し、社会関連製品での需要が半導体需要を大きく後押しすると期待されています」と南川氏は述べる。
日本では半導体産業への融資、投資などがここ数年で大きく拡大した。特に経済安全保障の考えから米国が日本に大きく期待を寄せており、新たな半導体サプライチェーンにおいて日本での製造を増やしたいと考えている。日本は半導体自体のシェアは奪われたものの、製造装置や材料は高シェアを維持しており、半導体産業を再活性化する取り組みを強化している。これらによって半導体産業への支援は当面続くという見通しを南川氏は示す。
「経済産業省の半導体・デジタル産業戦略では、2030年に向けて積極的に支援する方針を示しています。今後、日本は世界マーケットシェアが高い電子部品などにも支援することも見込まれており、半導体と一緒に使われる電子部品などの企業が集まってモジュール化できるようにする動きなども期待されています」(南川氏)
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提供:ロックウェル オートメーション ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年9月11日