医療機器開発を取り巻く課題は山積 複雑化する規制に対する最適な環境とはPLMシステム

医療機器開発には、IoTやAIなどのデジタル技術を取り入れるだけでなく多様化/複雑化する規制に対応するために解決すべき課題が山積している。この解決に有効なのが、PLM、ALM、SLMなどを組み合わせて製品の設計や生産、運用、メンテナンスといった各プロセスをデジタルデータでつなぐ「クローズドループ」だ。

» 2024年04月12日 10時00分 公開
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 IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったデジタル技術の進化は、あらゆる業界に影響を与えている。当然、医療機器業界も例外ではない。遠隔での治療やモニタリング、AIによる医用画像診断支援など、デジタル技術は過疎地の医療や人的リソースの不足といった課題を解決する手段として期待されている。

 ただし、最先端のデジタル技術の活用には医療機器業界ならではの課題もある。それが多様化/複雑化する規制への対応だ。医療機器の不具合は人命に直結するため、その安全性と有効性を保証する規制が厳格に定められている。最終ユーザーである患者の安全を確保するには、国ごとに異なる規制に準拠しなければならない。新製品の承認取得(規制準拠)は膨大な時間とコストを要するプロセスであり、時として競争力を阻害する一因にもなる。

 近年は患者のニーズも多様化し、それに合わせた医療サービスを提供できる機器の開発が求められている。しかし、あらゆる規制をクリアした上で多様化した市場ニーズを満たす製品を迅速に提供するのは難しく、コストもかさむ。地政学的リスクによるサプライチェーンの不安定さも加わり、製品開発を取り巻く環境は一層厳しさを増している。

 では、デジタル技術の恩恵を最大限に活用しつつ患者の安全を最優先にした機器を開発するにはどのようなアプローチが有効だろうか。デジタル技術の進化と歩調を合わせるように頻繁に更新される規制に柔軟に適合するために、企業は何をすべきだろうか。

医療機器メーカーが直面する6つのメガトレンド

 医療機器開発を取り巻く規制が複雑化した要因の一つが、スマートコネクテッドプロダクト(SCP)の普及だ。インターネットへの常時接続が基本となるSCPはサイバーセキュリティ対策が必須であり、「医療機器セキュリティの原則」「リスクアセスメント実施ガイド」「サイバーセキュリティ基準」「脆弱(ぜいじゃく)性の開示と管理」「健康および患者情報の保護」などへの準拠が求められる。

PTC グローバルアドバイザー ライフサイエンス担当のレネ・ツォーフル氏 PTC グローバルアドバイザー ライフサイエンス担当のレネ・ツォーフル氏

 PTC グローバルアドバイザー ライフサイエンス担当のレネ・ツォーフル(Rene Zoelfl)氏は「残念ながら医療機器業界でもサイバーセキュリティ侵害は増加しています。有害事象報告の遅延などのインシデントは後を絶たず、規制当局による罰金も急増しているのが現状です」と説明する。

 従来の製品規格やプロセスの準拠性に関する規制にも適合しなければならない。品質管理システム(QMS)の規格であるISO 13485:2016やリスク管理システム規格(RMS)のISO 14971:2019、医療機器ソフトウェアの安全性と信頼性向上を目的とするIEC 62304などだ。原材料の生物学的安全性や環境規制への対応など、マテリアルコンプライアンスに関する規制にも準拠しなければならない。当然、規制は各国で異なるため、グローバルに展開している企業は注意が必要だ。

医療機器開発に求められる規格や規制の数々 医療機器開発に求められる規格や規制の数々[クリックで拡大] 提供:PTC

 ツォーフル氏は「このような背景から、医療機器メーカーが直面するメガトレンドは6つに大別されます」と指摘する。6つのメガトレンドとは「市場主導の要件」「高い設計精度の確保」「コネクテッドマニュファクチャリング」「アセット中心のサービス」「サステナビリティーの向上」「SaaSによるイノベーションの加速」だ。「医療機器メーカーはこれらのメガトレンドに対応しつつ複雑な規制をクリアし、高品質な製品を最適なタイミングで市場に提供しなければなりません。そのためには『クローズドループ』のアプローチが有効です」(ツォーフル氏)

 クローズドループは、製品の設計や生産、運用、メンテナンスといった各プロセスをデジタルデータでつないだ「デジタルスレッド」に基づき、設計の改善や生産の最適化、製品の品質向上を迅速に実行するフィードバックループを繰り返す。実際の製品と対応するデジタルの双子とも言えるデジタルツインを「モデルベース」の手法で構築することも重要だ。

医療機器が直面する6つのメガトレンドへの対応では「クローズドループ」「モデルベース」「デジタルスレッド」が有効 医療機器が直面する6つのメガトレンドへの対応では「クローズドループ」「モデルベース」「デジタルスレッド」が有効[クリックで拡大] 提供:PTC

 ツォーフル氏は「医療機器メーカーはさまざまな規制の中で事業を展開しており、要件定義、仕様の変更、テストケースによる検証といった各プロセスのトレーサビリティーを求められます。PTCは医療機器の規制に準拠したプロセスを確立し、これら6つのメガトレンドに対応する製品群をそろえています」と強調する。

「市場主導の要件」への対応を可能にするALMの「Codebeamer」

 6つのメガトレンドの中でも重視すべきは「市場主導の要件」だ。患者や医療従事者のニーズに応じた製品を迅速に開発するには、使用目的の把握やユーザーの要求事項の収集、製品の妥当性確認、規制への対応などを同時に実施しなければならない。ツォーフル氏は「そのためには従来のウオーターフォール開発ではなくアジャイル開発を取り入れる必要があります」と述べる。

 そこで重要な役割を果たすのがソフトウェアのライフサイクルを管理するALMソリューションだ。PTCは「Codebeamer」を提供しており、医療機器メーカーの導入実績も多い。スイスの医療機器メーカーであるRoche Diagnosticsは、製品要件管理と社内ソフトウェア開発にCodebeamerを導入して要件管理プロセスを最適化し、製品の妥当性確認までのプロセスの効率化に成功した。

 Codebeamerは承認やサインオフといった各プロセスにタグを付与する機能を備える。同機能とリリースのタイミング管理機能を連携させることで各リリースに関連するオブジェクトを管理し、要件の進捗(しんちょく)とスコープを追跡できる。これによって確保したトレーサビリティーによって、医療機器開発に関わる規制への対応が容易になる。医療機器業界に特化したテンプレートが用意されている点もCodebeamerのメリットだ。

「高い設計精度の確保」を可能にするPLMの「Windchill」

 「高い設計精度の確保」ではデジタルスレッドの活用が欠かせない。医療機器メーカーの多くは、紙を中心としたアナログな文書で設計開発に関わるデータを管理している。その結果部門ごとに情報がサイロ化し、データ連携が滞るなどの課題を抱えている。この課題解決に役立つのが、企画から設計、生産までのプロセス全体をデジタルデータでつなぐデジタルスレッドを構築できるPLMソリューションだ。

 グローバルで多くの採用実績を持つPTCの「Windchill」は、Codebeamerと併用することでデジタルスレッドを容易に構築できるだけでなく、医療機器向けでも有効な機能を備えている。FDA(米国食品医薬品局)が求めるDHF(Design History File)やDMR(Device Master Record)といった医療機器規制に関する情報を管理する機能などを選択できる。米国の外科手術機械大手のCONMEDは、Windchillによって規制情報管理機能を導入するとともに、ERPとの統合、品質関連プロセスの更新なども実施した。

「Windchill」と「Codebeamer」によってデジタルスレッドを容易に構築できる 「Windchill」と「Codebeamer」によってデジタルスレッドを容易に構築できる[クリックで拡大] 提供:PTC

設計と生産のプロセスをつなぎ、サービス情報と連携 脱炭素対応も視野に

 設計と生産のデータとプロセスをつないで実現する「コネクテッドマニュファクチャリング」で重要なのが、設計BOM(E-BOM)から製造BOM(M-BOM)への変換だ。ツォーフル氏は「この変換は手作業で行われてきたがミスが発生しがちでした。設計変更時に生産現場への伝達が遅れるなどの課題もありました」と語る。

 Windchillはこの設計BOMから製造BOMへの変換でも力を発揮する。ドイツの透析関連製品メーカーFreseniusは、Windchillを活用して設計部門と生産技術部門がリアルタイムに連携するプロセスを確立した。Windchillを利用して設計部門が作成したモデルデータを活用し、世界中の拠点において各国の規制を考慮した生産工程管理で効率と品質を高めている。

 製品納入後も安定した品質と高レベルなサービスを継続的に提供するには「アセット中心のサービス」が必要だ。PTCのアセット情報管理プラットフォーム「ServiceMax」を用いることで、稼働機器や保守情報を管理できるだけではなく、製品品質を向上させるための市場トラブルや顧客フィードバックも管理できる。デジタルスレッドは、そうした改善要求を迅速に適用することにも大きく貢献する。

 今後製造業全体で取り組まなければならない「カーボンニュートラル」に向けては、デジタルスレッドに電力消費やCO2排出量などの環境影響データを組み込める柔軟性が必要だが、PTCのIoTプラットフォーム「ThingWorx」であればそれが可能だ。

「クローズドループ」にSaaSは不可欠

 以上の5つのメガトレンドに加えて対応が不可欠なのが「SaaSによるイノベーションの加速」だ。CADやPLMといった製造業系ソフトウェアはオンプレミスが主流だったが、SaaSへの移行が加速している。

 PTCはオンプレミス版とSaaS版のWindchillを提供しており、SaaS版の「Windchill+」の導入率は25%に拡大している。ツォーフル氏は「FDAが公表した『Case for Quality』では、現状の分断されたシステムとプロセスが顧客の目標達成を妨げていると指摘しています。こうした課題を解決するにはSaaSでデジタルスレッドを活用してデータを連携させることが不可欠です」と力説する。

 PTCは米国のUSDM(Universal Systems Design & Management)と協業して「PTC/USDM Cloud Assurance」を提供している。医療機器メーカーがWindchill+を導入する際に、規制要件への適合性を確保するための支援を行うものだ。規制対応に必要なテンプレートも用意されており、医療機器メーカーのドキュメント作成にかかる手間と時間を大幅に短縮できる。Windchill+とPTC/USDM Cloud Assuranceにより、医療機器開発の各種規制に対応するためのバリデーションにかかる時間を60〜70%削減できるという。

 ツォーフル氏は「クローズドループによる製品開発は、製造業全体が直面する品質の向上や開発期間の短縮、そして複雑な規制への対応といった観点から、医療機器にとどまらず今後ますます重要になるでしょう。そのためには、Windchill+などのSaaSの導入を検討してください」と述べる。

PTCのレネ・ツォーフル氏 PTCのレネ・ツォーフル氏。医療機器にとどまらずクローズドループによる製品開発は今後ますます重要になるという[クリックで拡大]

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提供:PTCジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2024年5月18日