「PLMは導入が大変」は本当? 短期間で運用開始できた荏原エリオットの戦略PLMシステム

PLMシステムのメリットは数多くあるが、導入に多大な苦労が伴うと考える人も多い。現場へのスムーズな導入に必要な考え方や施策について、PTCのPLMパッケージ「Windchill」を先進的な取り組みにつなげた荏原エリオットの事例を紹介する。

» 2023年06月08日 10時00分 公開
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 製品の企画から生産、販売、保守まで、ライフサイクル全体で発生するさまざまな情報を集約するPLMシステム。情報の一元管理によって時間や場所を問わず関係者が必要なデータを作成、確認でき、各部門の業務効率化が見込める。リアルタイムで情報が更新されるので関係者間の情報共有も容易であり、リードタイムの短縮や開発力、企業競争力の強化につながり得る。

 しかし、情報がサイロ化していた現場に新たなシステムを導入するとなると大掛かりな作業が必要になるのではないかと考える人もいるだろう。利点は分かるが、なかなか導入に向けた一歩を踏み出せない、という企業も多い。

 PLMシステムのスムーズな導入には、どのような考え方や施策が必要なのだろうか。PTCのPLMパッケージ「Windchill」を導入して先進的な取り組みにつなげている荏原エリオット Global Manufacturing統括部長付の柏井正裕氏に話を聞いた。

荏原エリオット Global Manufacturing統括部長付の柏井正裕氏 提供:荏原エリオット

増大する3D CADデータの管理運用を効率化せよ

 荏原製作所のグループ会社である荏原エリオットは、ターボ機械の設計/製造を行うエリオットグループの日本拠点として石油精製/石油化学プラントの中核機器を製造している。遠心コンプレッサーや軸流コンプレッサー、蒸気タービン、動力回収ガスエキスパンダー、その周辺機器の設計や製造など、幅広く事業を展開している。

 荏原エリオットがPLMシステムの導入を決定したのは2011年のことだ。導入を決めた理由は大まかに分けて2つある。一つは、2014年に計画していたERPの導入だ。それに伴い品目/BOMを軸としたデータ管理へのシフトが求められていた。

 そしてもう一つが、社内に蓄積してきた3D CADデータの管理と運用を効率化するためだ。荏原エリオットは2006年ごろからパラメトリックモデリング3D CADの「Pro/ENGINEER」(現在のCreo Parametric)を本格的に運用しており、社内で3D CADデータが次々に生まれていた。特に2010年に自動設計システムを開発/稼働させたことで、3D CADのデータ量は飛躍的に増大した。同社は自前のファイルサーバを使っていたが、データが増えるにつれて管理のキャパシティーに限界が来ていたのだ。これらの状況を総合的に考慮して、柏井氏主導でPLMシステム導入を決定したという。

PLM導入の背景[クリックして拡大] 提供:荏原エリオット

 PLMシステムとしてWindchillを選んだのは、既に使っていたCreo ParametricのベンダーであるPTCが提供しており、システム同士の連携性が高かったためだという。

 「われわれにとって一番怖いのは、やはりシステムの停止です。1日止まるだけでも多大な金額の損失につながります。移行期間中も平常通りシステムを稼働させなければいけない中で、システム同士の連携性があらかじめ担保されているというのは大きな魅力でした」(柏井氏)

 加えて、PLMシステムのパフォーマンスを幾つかの観点で比較したところ、Windchillが一番良いスコアを出した。これらの点を鑑みて、PLMに関連するシステムはPTC製品で統一することにした。

「欲しかったのはこれだ!」と評価の声

 Windchillの導入決定後、設計系のメンバーを集めてプロジェクトを発足させた。システム構築や業務の整理などを行い、2013年に運用を開始した。すると導入から1週間程度で、3D CADを利用する社員から「欲しかったのはこれだ!」という喜びの声が聞こえてきたという。

 特に評価が高かったのは、Windchill上で3D CADデータに排他的編集権を付与できる点だ。柏井氏は「従来は、ある設計者が3D CADデータをファイルサーバからコピー編集しているときに他の設計者が同様にコピーして編集してしまうと、何が正か判別が困難になっていた。PLMシステム導入のきっかけが3D CADデータの管理にあったので、このあたりの満足度が極めて高かったのです」と説明する。さらに、コロナ禍における在宅勤務でも、この排他的編集権は安全に作業できる環境の土台として力を発揮したという。

 柏井氏は、PLMシステムを導入しても業務フローや組織体制に大きな変化は生じなかったとするが、「品目/BOMデータの管理が可能になったのは劇的な変化でした。これに基づいてPLMの後で導入したERPが全ての計算を行えるようになったからです」と振り返る。

散逸化したデータの集約方法も工夫

 ただ、荏原エリオットもWindchillを何の障壁もなく導入できたというわけではない。解決しなければならない課題は幾つもあった。

 1つ目はPLMシステムへのデータの集約だ。当時の荏原エリオットでは、3D CADデータ、品目/BOMデータ、グループウェア、紙の情報、個人PCのローカルデータが個々別々に保管されていた。これらをWindchillに集める必要があったが、データ量があまりに膨大だったため、策もなく取り組めば集約化の工程だけで多くの月日を費やすことになるのは明白だった。

 そこで柏井氏は、特に紙情報などのレガシーデータについてRPAなどの自動化ツールを活用しつつ、なるべく社員に負担が掛からない効率的なデータ収集方法を積極的に取り入れた。結果、図面は紙での運用が一部残るものの、電子化したものは一元管理できる体制を迅速に整備できた。

 こうした工程においても、担当者は強いリーダーシップを持ってプロジェクトを進める必要がある。柏井氏は「主導権を強く握りつつ、積極的にデータ集約化を推進することを意識しました」と語る。

PLMシステムにデータを一元化する工程を省力化[クリックして拡大] 提供:荏原エリオット

 2つ目の課題は、「品目/BOM」といった概念への理解が全社的に十分ではなかった点だ。理解を促進するために何度か説明会を開催したが、「特に設計やエンジニアリング担当者にはあまり興味を示してもらえませんでした」(柏井氏)という。それどころか、現状を変えることに否定的な反応が多くあったようだ。

 「人間には現状を変えるメリットとデメリットを比べた場合に、メリットを過小に、デメリットを過大評価しがちです。図面の部品欄に指示を書くだけではなぜダメなのか、と反発されました」(柏井氏)

 そこで柏井氏は「現状の変化による仕事量の増加がネックになるならば、仕事が増えない状況を整えれば反対の声はなくなる」と考え、品目/BOMを自動的に作成するシステムを開発/導入した。これによって、現場が負担を感じることなく変革を進められるように工夫した。

品目/BOMを軸にデータ管理を推進した[クリックして拡大] 提供:荏原エリオット

スモールではなく「ミドル/ラージスタート」

 システムを導入する場合、一部の部門やデータから徐々に適用範囲を広げていく「スモールスタート」を採用するのが一般的だ。これに対して荏原エリオットは、全体のプロジェクト進行などを考慮して一気にプロジェクトを進める方がよいと判断し、レガシーデータ以外の全てのデータ移行を同時に進めた。柏井氏はこれを「ミドル/ラージスタート」と呼ぶ。

 実際の運用に当たっては、専門のコンサルタントを招いてレクチャーしてもらった。そもそもPLMシステムの操作に難解さはあまりなく、導入プロジェクトメンバーにはデジタル技術に慣れ親しんだ若い世代が多かったため、順応は非常に速かった。

 Windchillがユーザーフレンドリーな設計だったことも現場への浸透の一助となった。「導入当初は不満の声も多くありました。しかし、10年程度経過した今ではそのような声は何も聞こえてきません。最初からWindchillがあったかのようにわれわれの業務に溶け込み、部署を問わず使われています。国内外の全拠点で情報を検索できるようになり、検索性も向上しています。導入メリットは大きかったと言えるでしょう」(柏井氏)

ARやMR活用の施策も全製品で展開

 荏原エリオットは、PLMシステムを活用したより先進的な取り組みも積極的に推進している。取り込んだ3D CADデータを活用し、AR(拡張現実)によるデザインレビューを行っている。マイクロソフトのMR(複合現実)ヘッドセット「HoloLens」などを使うことで、開発中の製品を360度立体的に確認できる。

 実物がなくても操作性などをその場で確認できるので、今後の業務への広がりも期待できる。その一例としてHoloLensによるMRを使った外観確認にも取り組んでいる。これまで外観検査は紙図面を用いて行っていたが、確認箇所が多く複雑で、夏場などは工場担当者の疲労による問題点の見落としも発生していた。

 MRを使うことで、製作中の実機にデータを重ねて配管の様子などを目視で確認したり完成品のイメージを製作途中で共有したりできるようになった。これで、製品の検証期間も短縮できたという。

 いずれの施策も2021年末ごろに実用化を検討し始め、2022年に全製品で運用を開始した。荏原エリオットの場合、豊富な3D CADデータが社内に既にあったのでARやMR用のデータを新たに作る必要もなかった。

 将来的には、3D CADデータからテクニカルイラストを作成できるPTCのテクニカルイラストツール「Creo Illustrate」を導入して分解図を自動作成する計画だ。顧客に保守/点検用途で渡すデータや、自社内の組み立て製造時に利用するデータを作成する。

 柏井氏は「われわれのようなETO(個別受注生産)製品を扱う製造業にとって、PLMシステムは非常に重要なツールです。今後、Windchillを活用してもっと進んだ取り組みをなさっている企業にヒアリングするなど、さらなる高みを目指すために学びを得たいと思っています」と意欲を見せた。

 企業内でデータが散逸している状況は当然好ましくない。PLMシステムの真価は、企業の資産として活用すべき情報をしかるべき状態で管理できることにある。ARやMRなどの技術と組み合わせることで、PLMシステムの活躍の場はさらに広がることが見込まれる。荏原エリオットが導入したWindchillを展開するPTCは、PLM導入に際して心強いパートナーになってくれるだろう。

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提供:PTCジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年8月29日