独自の技術で優れたメモリ製品をリリースしているNextorage(ネクストレージ)が「第7回 IoT&5Gソリューション展 秋」に出展した。同社のファームウェア開発技術が実現する産業向けメモリ、ストレージの多彩な特性と、耐久性に優れたSDカード、PlayStation(R) 5に使えるSSDなどコンシューマー向け製品を紹介した。
産業向けのメモリ、ストレージ製品は、活用シーン次第に求められる機能や性能が大きく異なる。メモリのデータアクセス速度を高速化したい企業もあれば、低消費電力化をより重視する企業もある。堅牢(けんろう)性や可用性を高く担保したいというニーズも強い。
これらを実現する上ではハードウェアの性能だけでなく、ファームウェアの果たす役割にも注目すべきである。ファームウェアはメモリやストレージ製品を構成するハードウェア制御を行う。同一性能のハードウェアでも、ファームウェア次第でデータの書き込み/読み込み頻度やアクセス速度を調整できる他、電源喪失への耐性などさまざまな特性を持たせられる。
ただ、残念ながらメモリ、ストレージ製品の多くは、ファームウェアの詳細をブラックボックス化している。このため現状ではメーカーに問い合わせても、ファームウェアのカスタマイズはもちろん、製品の不具合や疑問点を速やかに解決しづらい。背景にはそもそもファームウェアを自社開発するメーカーが少ないという事情がある。
これに対して、メモリやストレージ製品をニーズに合わせて幅広く、細かくカスタマイズできるメーカーがNextorage(ネクストレージ)である。ファームウェアを内製化する数少ない国内メーカーであり、顧客がメモリ、ストレージ製品に求める機能実現を目指す取り組みを行っている。同社は「第12回 Japan IT Week 秋」(2021年10月27〜29日、幕張メッセ)に出展し、ファームウェア開発技術で実現し得るメモリ、ストレージ製品の特性や、コンシューマー製品の展示を行った。
Nextorageはソニー子会社であるソニーストレージメディアソリューションズから2019年10月に独立した企業だ。SDカードやSSDなどのフラッシュメモリ製品に特化した事業展開を行うことで、これらの製品の開発スピードを速めることを目的に設立された。
ソニーストレージメディアソリューションズは、放送業界向けのリムーバブルメディアの他、プロカメラマンなどプロフェッショナル向けの高品質製品を数多く手掛けてきた。独自のニーズを掘り下げたメモリ製品を開発して市場投入しており、特に放送業界向けの音声、映像、記録機器の分野で高い実績を持つ。この過程で培われたメモリ開発におけるノウハウと経験はNextorageに受け継がれており、顧客の使用シーンに適した製品開発を可能にしている。
Nextorageのエンジニアはメモリやストレージ製品の導入に先立ち、顧客に寄り添い、困りごとやニーズを丁寧にヒアリングするところから始めて、顧客の抱える問題の根本的原因や、技術的解決策を検討する。そして解決に最適なメモリモジュールを選択し、最適な制御を可能にするファームウェアを開発するのである。
Nextorage 商品開発2部 B2B営業課 統括課長の比良一貴氏は、「Nextorageのエンジニアは長年のメモリ開発経験から、ファームウェアの開発技術で実現できることを熟知しています。当社の顧客の多くはメモリやストレージ製品に関する運用上の課題感を抱えていても、『どのようにすれば解決できるか分からない』と悩み、ご相談に来る方がほとんどです。そこから、当社のエンジニアと顧客側のエンジニアが技術的に深く話し合うことで、より効果的な課題解決の手法をご提案します。ハードウェア性能を改善するだけでなく、ファームウェアのカスタマイズ次第で課題を解決できることも少なくないのです」と語る。
ファームウェアのカスタマイズで、具体的にどのように課題が解決できるのか。ここでは、放送業界で使われるカムコーダーのようなバッテリー駆動型の機器を例にとって説明しよう。
バッテリー駆動型の機器に搭載するメモリやストレージは、一般的に低消費電力であることが望ましい。消費電力が少なければバッテリーを小型化できるため、機器全体を軽量化できる。さらにはバッテリーの増量が可能になり、機器の最大稼働時間を延ばせる可能性もあるだろう。
ただ、これらの製品は冗長性確保のためにRAID1によるミラーリング構成をとる必要がある。ストレージの台数が多くなるため、消費電力量もその分増加しやすい。稼働時間を長くするには、必然的に多くのバッテリーを搭載しなければならなくなる。しかし、ファームウェアのカスタマイズを行えば、ストレージ1台当たりの消費電力を厳密に調整することで、バッテリーの搭載数を許容範囲にとどめながらRAIDを実現することが可能になる。
メモリやストレージの低消費電力化は、ハードウェア全体の発熱量低減にもつながる。ストレージからの発熱量を大幅に抑えられれば、冷却フィンや冷却ファンなども小型化できる。場合によってはファンレス化も可能になる。これは、導入現場や利用シーンの改善に大きく役立つだろう。
比良氏は「ファームウェアでストレージの消費電力を調整できることを知らないと、安易にバッテリーを追加したシステムを作ってしまうかもしれません。また、ファームウェアのカスタマイズで実現できる機能には、消費電力を抑えるとメモリのアクセス速度がその分低下するなど、トレードオフの関係となるものもあります。当社はこうした関係性も踏まえて、顧客が特に重視する機能にフォーカスして、適切に調整したファームウェア開発を行います」と語った。
産業用途のメモリやストレージ製品では、停電など想定外のトラブルに見舞われてもデータを失わないようにする仕組みづくりが大切だ。Nextorageは10万回の電源遮断試験をクリアし、高い堅牢性と可用性を実現した製品も商品化している。このためNextorageの製品は医療機器や金融関連機器のマザーボードなど、ミッションクリティカルなシステムに用いられているという。
電源遮断への耐性はファームウェアの調整とハードウェア面での工夫によって実現している。電源再投入の時間も短縮化しており、素早いシステム復旧を可能にする。
今回のブース展示では、Nextorageが展開するメモリ、ストレージ製品が2種類紹介されていた。堅牢性に優れたSDカードである「RIGID(リジッド) SD」とPlayStation(R) 5の増設用SSDとして使えるヒートシンク一体型のNVMe SSD「NEM-PAシリーズ」である。これらの製品にはNextorageがこれまでに培ってきた画像や映像データの扱いに関する強みを持つ。
RIGID SDは、SDカードに求められる信頼性を追求し、堅牢性を高めた製品だ。一目して分かるように、本体カバーからは端子部のリブや、一般的なSDカードに搭載されている上書き防止のスライドなどが省かれている。破損しやすい部分を減らすことで、SDカードの耐久性を高める工夫だ。
本体カバーは高硬度素材を一体成型したものを使用することで、高い曲げ強度と密閉性を実現した。一体成型のため、国際規格であるIP68相当の防塵防水性能も実現できており、仮に常温で水深5mの水中に72時間放置しても内部に浸水しない仕様となっている。産業機器などで要求される厳しい品質水準にも耐えうるメモリ製品である。
SSDのNEM-PAシリーズは、PCIe(R)4.0/NVMe1.4に対応したコントローラーと3D TLC NANDを採用したM.2 2280タイプのSSDである。非常に高速なメモリアクセスが可能で、PC環境でのシーケンシャルリードは最大7300MB/s、シーケンシャルライトは最大6900MB/s、ランダムリード/ライトは最大1000KIOPSだ。
NEM-PAシリーズはPlayStation(R) 5が推奨するデータの読み出し速度を超える性能を持ち、内蔵SSDとしての互換性を有する。比良氏は「昨今のゲームは大容量の画像、映像データを扱うため、ストレージにはこれを必要なタイミングでストレスなくローディングできる性能が求められています。また、NEM-PAシリーズは黒アルマイトを採用した、放熱性に優れたアルミニウム製のヒートシンクを使っており、大容量のデータ転送時も安定した作動を維持して、快適なゲーム体験を提供します」と説明する。
Nextorageは今後、国内市場の展開と並行して海外市場の展開も本格化していく計画だ。既に米国や欧州では、産業用途を中心に事業展開を進めている。
同社独自の海外拠点はまだ存在しないが、米国ではソニーの代理店を経由して、欧州では代理店や特約店を介する形で製品販売を行っている。ファームウェアのカスタマイズなどに対する対応は、国内にいるNextorageのエンジニアが英語で直接対応する形で行っており手厚いサポート提供体制が整っているという。
比良氏は事業の手応えについて、「海外でも国内同様、ファームウェアのカスタマイズや製品サポートに関するニーズは強くあります。市場では当社のメモリ、ストレージ製品に関するノウハウや供給体制が高く評価されており、顧客ニーズに効果的に応えられる体制が整っています」と語る。
導入事例として、例えば米国ではトラックなどの挙動や運行記録を保存する、データレコーダーに採用されている。レコーダーは、万が一車両事故が発生した場合、その前後の車両や運転手の挙動を把握する上で非常に重要だ。比良氏は「記録の信頼性を求められる領域で当社のメモリが注目されているのは、それだけNextorageの技術力が評価されている証だと考えます」と説明した。
会社設立からまだ日の浅いNextorageだが、同社には画像、映像などの大容量データをシーケンシャルに扱う技術、ノウハウが多く蓄積されている。比良氏は「今後も、この分野でNextorageの名前が最初に出てくるようビジネスを強化していきたい」と語った。
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提供:Nextorage株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年12月24日