製造業でもいよいよARが普及し始めている。顧客の要望は多様化し、製品は複雑化した。顧客要望を細やかにかなえ、製品の付加価値をより一層高めていかなければならない。また、激化した市場競争を勝ち抜かなければならない中、疲弊しきった組織は、リコールや不正検査の温床ともなり得る。それらの課題を解決する有効なツールの一つとして今、ARが非常に注目されている。またARのビジネス活用について日本企業は、欧米と比較すると後ろ向きであるといわれる。これは、「取り組むなら今がチャンスである」ともいえる。
現実世界にデジタルデータを重ね合わせる「AR(Augmented Reality:拡張現実)」の技術はさまざまな用途に適用でき、まさに無限の可能性を秘めている。2025年に開催が決定した大阪万博ではARをふんだんに盛り込んだイベントや展示を準備するという。近年の「ポケモンGO」の流行もうけ、その言葉は一般的となり、スマートフォン(スマホ)アプリのゲーム、アミューズメント施設のアトラクションなどエンターテインメントの世界ではすっかりおなじみとなった。
ARは手元にあるスマホやタブレット端末を用いて、アプリで誰でも簡単・気軽に体験できることが利点だ。近頃は、AR専用グラスやヘッドマウントディスプレイ(HMD)も個人の消費者でも手の届く価格で登場している。
最近はエンターテインメント以外でも、建築・土木や情報通信関連など、エンタープライズ向けの活用事例がよく聞こえてくるようになった。例えば、ARで作業前に危険な状況を仮想体験する、ロボットやドローンを現場に潜入させてARで見ながらコントロールするといったことができ、危険な現場で発生する悲しい事故を大幅に減らすことが可能だ。
米国IDCの調査(※)によれば多くの企業が既にARの実証実験を行っている状況で、2018年の全世界におけるAR市場は80億ドル以上に拡大することが見込まれている。また導入を検討する企業の業務形態や規模の大きさはさまざまである。つまり資金が潤沢な一部の大企業に限った動きではないのだ。
そして製造業でもいよいよARが普及し始めている。今日の製造業では深刻な人手不足に悩まされながらも、技術者のスキルアップや生産性向上をさらに目指さなくてはならない状況だ。その上、開発する製品はスマートかつ複雑化し、その設計開発はもちろん、サービス・保守の内容も複雑化してしまった。高まるばかりの顧客の期待に応えながら、激化した市場競争を勝ち抜かなければならない。そのような厳しい状況で疲弊しきった組織は、リコールや不正検査の温床ともなり得る。
それらの課題を解決する有効なツールの一つとしてARが非常に注目されており、企業がこぞって導入検討しているような状況である。
製造業においては、特に生産現場の組み立て作業、製品出荷後のアフターサービス、技術者の技能教育や安全教育などで効果が期待されており、実際にその成果も企業から次々と発表されている。
英国の航空宇宙関連企業であるBAEシステムズ(BAE)では製造現場における技術者のトレーニングでARを導入している。BAEの作業現場では、マイクロソフトのHMDである「HoloLens」越しに手元の作業を見ながら、3DモデルによるマニュアルをARで作業者の視界の中に重ねることができる仕組みを導入している。紙のマニュアルをめくりつつ、一つ一つ理解と確認をしながら作業をする煩わしさから解放される。
BAEはこの仕組みにより、トレーニングの所要時間を従来手段と比較して30〜40%短縮できたという。新製品の生産ライン立ち上げにおいては、教育コンテンツの製作や教育そのものにかかる時間、準備の手間などが大幅に短縮できることで、コストは従来手段比で10分の1になったという。
米国の自転車メーカーであるサイクリング・スポーツ・グループのブランドである「キャノンデール」においては、自転車のアフターサービスにおいて、紙のマニュアルに変わりARのデジタルマニュアルを導入。目の前にある自転車の実機に部品の情報を重ねて表示することができ、交換部品の選定ミスや誤発注を大幅削減することに成功している。
もちろん設計段階においても、その初期、つまり実機がまだないフェーズにおいて、実物大のバーチャルなモデルを用意して、経営者やさまざまな部署の関係者を現場に集結させて一気に議論をまとめる、各種のシミュレーションを進めるといったことも可能だ。いわゆるフロントローディングであり、開発初期で問題をつぶすことで、手戻りを減らして、全体の開発コストや時間を大幅削減することが期待できる。
ARコンテンツ作成にあたり、「技術に精通した専門家の手が必要」「プログラムが書ける人でないと作れない」「とにかく時間や手間が掛かる」といったハードルに悩まされ、断念したという人もいるのではないだろうか。
特に3D CADで作成した設計データを活用したARコンテンツ作成においては、CGデータと比較してより一層の手間がかかるものだ。ARで用いる3DデータはCGデータの一種のポリゴンであり、CGデータを用いるゲームや映像といったエンターテインメント系のコンテンツとは相性がよい。一方、設計のメインツールとなる3D CADで作る3DデータはCGデータではなく、寸法や密度の概念があり、さらに部品が複数組み合わさっている、複雑でソリッドなジオメトリデータである。つまり同じ3Dデータで、見かけこそ似ていても、データとしては全く非なる存在なのである。
それ故に、3D CADのデータをARで活用するには、専門家によって特別なプログラムを書く必要があった。専門家であっても、座標(表示方向)の合わせこみがうまくいかない、データの一部が化けるといった問題にも悩まされてきた。
コンテンツは何とか作ったものの、時間がかかったわりに満足のいくコンテンツが作れず、あるいは表示精度やデータ量を妥協しすぎたために、活用に至らずといったこともあった。
ところが、ここのところの技術の進化で、3D CADで作成した複雑な3Dデータ、つまり製品設計で実際に使っている3Dモデルを用いて、質の高いARコンテンツが飛躍的に作りやすくなっていたことはご存じだろうか。
ARコンテンツ作成においては、3D CAD側が急激な進化を遂げたことで、そのハードルが大幅に下がった。PTCの3D設計システムである「Creo」は、同社のARシステム「Vuforia」との連携が容易にできる。これは単に、3Dデータを軽量化してビューイングする仕組みにとどまらないものである。
PTCのVuforiaに以下のようなソリューションがある。システムの基盤となる開発者向けライブラリ「Vuforia Engine」、コンテンツ作成ツール「Vuforia Studio」、無償ARビュワー「Vuforia View」、遠隔支援アプリの「Vuforia Chalk」である。
Vuforia Studioは3D CADで作成した設計データを簡単にARの環境に容易に読み込んで活用できる。形状が化ける、意図通りの方向に配置されないといった心配もいらない。Creoのデータの他、他社の3D CADのネイティブフォーマットや中間ファイルフォーマットにも対応している。コンテンツ作成者は専門用語やプログラミングを理解していなくても問題なく、「Unity」などのゲームエンジンの知識も不要だ。3D CADを使うユーザーであれば容易に理解できるGUIでARコンテンツ編集が可能である。部品点数が多い製品のアセンブリーファイルの読み込みも可能だ。表示精度のコントロールも簡単に行える。
Vuforia Studioの利点は3Dデータを容易かつ正確にAR空間に読み込めるだけではない。「クリックしたら動画再生する」といったアクションを設定したコントロールボタンなども、難しいプログラムを書くことなく、オブジェクトなどを自在にドラッグアンドドロップしながら、まさにドキュメント作成感覚で配置できる。またコンテンツ作成後はユーザーに安全かつ簡単に配信することができる。
Vuforia StudioはCADのデータを直接読み込んで容易にコンテンツを作成できることから、サーバやクラウドにある設計や製品のデータと連携したIoT(モノのインターネット)の仕組みも構築できることも大きな利点だ。
Vuforia Viewは無償でダウンロード出来るスマホやタブレット端末向けのARビュワーである。Vuforia Studioで作成したコンテンツを利用することが可能だ。Vuforia View は誰もが直感的に使える簡易なARビュワーである。
Vuforia Chalkは、ARを活用したビデオコミュニケーションアプリで、遠隔の作業支援などに最適だ。通話しながらカメラが写す画面上に描いた注釈をリアルタイムに共有できる。注釈はカメラが写す物体に描かれたかのように表示される。
IoTの世界では、現実における製品実機のセンサーのデータと、クラウド上にあるバーチャルな製品データとを連携させることができる。さらにバーチャルなデータをARコンテンツ化して配布することで可能性や未来が広がっていく。
IoTのデータをAR空間で共有すれば、たとえ現場にいなくても、PCやタブレットの画面から、リアルタイムに実機の状況を把握することが可能になる。それを顧客サポートや保守に活用したり、これからの製品設計や生産に生かしたりすること可能だ。例えば、作業工程であれば、ネジ締めトルクや作業時の重量などをIoTのデータと連携させ、適切な作業が実施できているかリアルタイムでチェックするなどできる。さらにはAI(人工知能)やディープラーニングによる予測を組み合わせて、エラーや事故を未然に察知して対処を行う予知保全の取り組みへも発展させられる。
VuforiaやCreoはPTCのIoTプラットフォーム「ThingWorx」と連携できる。ThingWorxも忙しいCADユーザーたちが面倒なことを考えることなく、IoTのデータを簡単に収集して利用できる仕組みを備えている。
ARのビジネス活用について日本企業は、欧米と比較すると明らかに低調で後ろ向きあるという調査結果も出ているという(関連記事:「個人で体験すれば、ビジネスでも使いたくなる」――AR/VRにおけるビジネス利用調査より)。これは、「取り組むなら今がチャンスである」ということだともいえる。莫大なコストもかからず、かつ簡単に始められて利用できるとあれば、チャレンジしない手はないだろう。
自社のAR活用の第一歩となるのは、まずは自分自身が体験することだ。次に、巻き込みたい人たちにも体験してもらうこと。しかも無償ツールで、誰もが簡単に、有意義な体験ができる。今すぐ、ARコンテンツ作成ツール「Vuforia Studio」、コンテンツビュワー「Vuforia View」、遠隔支援アプリの「Vuforia Chalk」をダウンロードして、体験してみてほしい。
「技術伝承」がタブレットから始まる――製造業で広がるARの可能性と市場
ARが映画やゲームの話題であった時代は過ぎており、既に技術伝承や作業効率化、工程伝達などに大きな力を発揮しつつある。「様子見の企業は取り残される」という報告書を入手し、製造業にとってARが必要であることを確認頂きたい。
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提供:PTCジャパン
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年1月18日
ARが映画やゲームの話題であった時代は過ぎており、既に技術伝承や作業効率化、工程伝達などに大きな力を発揮しつつある。「様子見の企業は取り残される」という報告書を入手し、製造業にとってARが必要であることを確認頂きたい。