コネクテッドカーによって、モビリティは単なる移動手段にとどまらず、都市計画や交通管制、マルチモーダルサービス、隊列走行、カーシェアリング、自動バレーパーキングなどといったさまざまなサービスを創出し、社会にイノベーションに起こしていく。そこで求められるのが、多様なモビリティから獲得したデータを収集し、「分析」「最適化」「実行」のサイクルを一貫してサポートするIoTプラットフォームとモビリティサービスである。
自動車と自動車、あるいは自動車とさまざまな社会インフラがネットワークで相互につながることで移動時の快適性や安全性をさらに向上させる「コネクテッドカー」の市場が、2020年を節目に大きく開花すると予想されている。
そこで、自動車を所有せずに、さまざまな移動サービスの1つとして利用する「MaaS(Mobility as a Service)」が本格化する。自動車メーカーや大手サプライヤーだけでなく、ITベンダーやコンテンツプロバイダーなど業界を越えた取り組みが加速している。
そうした中で富士通が提供するモビリティサービスの体系が「SPATIOWL(スペーシオウル)」である。
富士通 Mobility IoT事業本部 Mobilityサービス事業部のシニアエキスパート(位置情報サービス担当)である廣川幸男氏は、このSPATIOWLの概要を次のように説明する。
「道路を走行中の自動車や、さまざまなフィールドで稼働する建設機械や公共交通、さらには人間に至るまで、“移動”に伴うデータを『Mobility IoTプラットフォーム』と呼ばれる仕組みによってクラウド上に収集し、分析、最適化、情報提供のサイクルを回します。これにより新たなモビリティサービスを実現し、よりよい生活やビジネスの生産性向上を実現する社会イノベーションに貢献していきます」
なかでも注力しているテーマの1つが電気自動車(EV)の運用、利用を最適化するソリューションの開発だ。富士通はこのほど、EVベンチャーのFOMMと協業するに至った。
今後のEVの普及を考えたとき、最大のネックとなっているのはバッテリーの価格と長距離の走行である。まず価格をみてみよう。自家用車としてEVを購入するには300万円を超える費用が必要となる場合が多いが、その中でも高額な部品がバッテリーである。現在のバッテリーの性能では、フル充電の状態からの走行距離は300km程度が一般的となっている。
走行条件や外部環境によって走行距離は短くなり、猛暑日にエアコンをかけながらだとさらにバッテリーの消費は激しくなる。もちろん途中で充電すればよいわけだが、急速充電でも15〜30分程度の時間がかかってしまう上に、充電ステーションの数が十分に整備されているとも言いにくい。また、バッテリーは充電を繰り返すたびに劣化していくため、蓄えられる電力は徐々に低下していく。
この課題に対し、富士通をパートナーに選んだFOMMは「バッテリー交換式で4人乗りの超小型EV」というビジネスモデルを打ち出した。交換式のバッテリーはサブスクリプション型の課金で利用することが可能で、その分EV本体の購入価格を下げることができる。また、走行中にバッテリー残量が少なくなってきた場合は、最寄りのステーションで充電済みのバッテリーをパックごと“交換”するので充電の待ち時間も発生しない。
車両の走行状況やバッテリーの状態、各ステーションにおける交換バッテリーの在庫情報などを「Battery Cloud Service」と呼ばれるクラウドサービス上で統合的に管理し、最適な運用を実現することが、FOMMの描く基本計画である。
このクラウドサービスを支えるさまざまな基盤技術を、協業パートナーとなった富士通が提供する。
バッテリーの充電や劣化状況などを把握する技術は、2013年10月からベンチャー企業と共同で行ってきた2輪および3輪のEV向けバッテリー管理の実証実験で培った。「その知見をSPATIOWLに組み込み、バッテリーを管理するクラウド環境として提供します。EVの電力消費(電費)をリアルタイムに把握する他、バッテリーの動作や劣化度を高精度に推定し、適切な交換タイミングを知らせます」(廣川氏)。
電費の高精度な予測により、バッテリーの残りで走行できる距離をマップ化することも可能になる。車両が走行している道路の勾配やカーブなどの地形、あるいは渋滞や通行規制などの交通状況からバッテリーが受ける影響を人工知能(AI)によってモデル化して分析する。「ここでは船舶の航行速度や燃料消費量など性能を推定する独自の分析アルゴリズムと『Fujitsu Human Centric AI Zinrai』による高次元統計解析技術を応用しています」と廣川氏は語る。
FOMMと富士通は、こうしたEVを高効率に運用するための情報活用およびエネルギー供給を支えるモビリティインフラのソリューションを共同開発し、グローバルで広く普及させていくことを目指す。第1弾としてFOMMは、タイにおいて2018年12月からBattery Cloud Serviceの運用と車両の販売を開始する計画だ。これにあわせて富士通もシステム構築に全力を挙げている。
Battery Cloud Serviceの共同開発を通じて確立されるさまざまな技術や知見、ノウハウは、より広範なモビリティのソリューションにも応用可能だ。例えば、車両ごとのバッテリー消費傾向や走行状況を把握する分析モデルは、バッテリー交換型でないEVや、プラグインハイブリッド車(PHEV)、あるいは電動アシスト付自転車などにも比較的容易にカスタマイズできる。
廣川氏は、FOMMが量産するバッテリー交換型EVを含め、自動車はさまざまな移動手段の1つとして、所有しなくても利用できるようになっていくと予想する。あるところまでは電車で、その先をカーシェアリングで……と複数の移動手段を自由に組み合わせるマルチモーダルサービスだ。
「これまで鉄道やバスなどの公共交通機関だけではカバーできていなかったラストワンマイルの移動を、オンデマンドかつ従量制のサービスモデルで利用できるコネクテッドカーでサポートするのです。これにより自宅から目的地までのシームレスな移動を実現することができます」と廣川氏は語る。
マルチモーダルサービスでは、自動車に限らず人々の移動全般をトータルに扱う必要がある。富士通はマルチモーダル化を支えるクラウドサービスのインフラを提供する部分で存在感を発揮したい考えだ。
モビリティサービスは異業種連携によるエコシステム化と共通プラットフォームづくりを進めることで、初めてイノベーションが可能となる。その意味でもエコシステムに参加するさまざまな企業や組織が、それぞれの目的に沿って必要となる大量のデータを効率よく収集、配信するクラウドサービスは不可欠な基盤として、今後さらに重要度を増していくと考えられる。そうした中で注目を集めているのが、Mobility IoTプラットフォームの拡充に向けた富士通の取り組みというわけだ。
バッテリーの情報に限らず、車両のデータやインターネット上の情報まで収集し、分析や予測を行った上で、特定の環境に最適化したサービスを提供する場面が増加していく。特に画像データはコネクテッドサービスや効率的な自動運転、インフォテインメントシステムの充実に不可欠だ。大量のデータを効率よく収集、配信する仕組みとしても、富士通のMobility IoTプラットフォームが大いに役立っている。
Mobility IoTプラットフォームは4つの機能とセキュアIoTゲートウェイを加えたサービスから成り立っている。
機能の1つ目は、車両に搭載されたカメラやGPS、加速度センサー、ワイパー、ライトなどから得られるデータを収集・分析し、将来の予測や異変の予見を可能とする「自動車ビッグデータ」。2つ目が高精度地図に障害物や渋滞といった動的な情報を重畳して最適なナビゲーションを行う「ダイナミックマップ管理」。3つ目が電子制御ユニット(ECU)のファームウェアを継続的にアップデートする「OTA(Over-The-Air)リプロ」。そして4つ目はハッキングによる車両の乗っ取りや個人情報流出などの脅威から車載ネットワークを守る「車載セキュリティ管理」だ。
そして、これらの機能を支えるコアテクノロジーの1つは、富士通が30年以上にわたる研究開発の歴史を基に独自に取り組む、画像データの圧縮や軽量化などに関するソリューションだ。富士通 Mobility IoT事業本部 Mobilityプラットフォーム事業部のシニアディレクターである野村祐司氏は「車載カメラから得た画像データをクラウドに集めて活用することは、既に実現の段階に入っている」と語る。
このソリューションの狙いは、車載カメラから得られる画像に含まれるたくさんの情報をさまざまなサービスで活用することにある。
ドライブレコーダーをはじめ、車載カメラは高画質化が進んでいる。さまざまな活用が考えられるが、既存の通信方式で大容量のデータを欠損することなく、なおかつリアルタイムでクラウドにアップロードするのは非常に困難だ。
また、通信コストも膨れ上がってしまう。ならば圧縮してから送信すればどうかと考えるところだが、圧縮率を高めるほど画質は劣化していく、すなわち情報が削ぎ落とされてしまうため、多目的な用途には使えなくなるというジレンマに陥ってしまう。
車載カメラの画像の収集、分析は、運転支援システムや自動運転技術の開発で自動車メーカーや大手サプライヤーも取り組んでいる。ただ、これらのデータは制御に必要な情報に絞って分析されており、他のサービスなどに転用するのが難しい。
まさにこの課題を解決したのが、富士通独自の画像処理ソリューションなのである。
「車載カメラで撮影したハイビジョン映像に業界標準の圧縮技術(H.264/H.265)と富士通独自の画像軽量化技術を合わせ技で適用することで、従来は約80分の1までしか圧縮できなかった画像データを1000分の1に近いサイズまで軽量化することが可能となります。通信費やストレージ利用料などの運用コストを上げることなく、画像データを高い鮮度を保ったままクラウドに収容できるのです」と野村氏は説明する。
そして「画像データの軽量化は、サービスや用途に応じて必要とされる任意のフレームのみを柔軟に抽出するという方法で行われるため、圧縮状態から復元した後の画質の劣化や情報の欠損はほとんどありません。高精度な認識処理や機械学習を実行することができます」と訴求する。
この画像処理ソリューションを適用した先述の「自動車ビッグデータ」や「ダイナミックマップ管理」などの技術と、自動車というエッジ領域で行われるリアルタイム制御の技術を相互補完的に融合することで、将来の完全自動運転(レベル5)の実現も視野に入ってくるに違いない。さらには、まだ誰も思い付いていないようなMaaSのキラーサービスの創出を呼び起こしていく可能性もある。
「エコシステムで多くの企業や組織に対して、将来のモビリティ社会を見据えたこれまでにない“気付き”をもたらすコアテクノロジーやソリューションを提供することが、富士通の使命です」と野村氏は語り、画像処理ソリューションのみならず、Mobility IoTプラットフォーム全体の進化を図っていく意向だ。
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提供:富士通株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年6月6日