IoTによる設備保全の変革に期待が高まっている。故障を未然に防いだり、今後起こりそうなトラブルを予知したりすることができれば効果が絶大なのは明白である。では、実現するには何が必要なのか。
IoT(モノのインターネット)による製造業変革に高い関心が集まっているが、その中で大きく期待されているのが、リスクを把握し予兆を検知することで設備を健全な状態で稼働させることである。米国の調査会社であるガートナー社が作成した設備保全の成熟度モデルによると、故障が起きてから対応する段階が「事後保全」、仕様あるいは性能に基づいて故障を未然に防ぐべく保全を行う「予防保全」、設備の状況から予知する段階が「予知保全」だとされている。事後保全であれば、IoTを活用する必要性はそれほどないかもしれないが、予防保全の効率化や予知保全の実現を目指すのであれば、IoTを切り離して考えることはできない。
そもそも製造業において、工場の機械設備の稼働率は、以前から生産能力を左右する重要な要素であった。工場の理想像は、工場設備の能力を最大限発揮できるダウンタイム(稼働停止時間)ゼロとされている。現実には完全なゼロは不可能としても、限りなくゼロに近づけたいというのがほとんどの製造業にとっての目指す姿である。ただ現実的には、日々変化をし続ける製造現場において必然的に発生する稼働停止時間の他にも、機械の破損や故障、消耗品の劣化などが日常的に発生している。こうしたさまざまな停止時間を抑える手段がなければ、ダウンタイムゼロの実現には程遠いといえる。
もちろん、これまでもダウンタイムを少なくするための工夫は行われてきた。「予防保全」に相当する取り組みだ。例えば、設備メーカー指定の周期や稼働時間、あるいは経験則などに基づき、定期的にオーバーホールや部品交換を行うのもその1つだといえる。しかし寿命が残っている部品も交換してしまうなど、設備のライフサイクルコスト管理にムダも発生してしまっている。
あるいは一定の頻度で設備を監視し、その結果に基づいて部品を交換する取り組みも行われている。部品のムダは少なくなるが、問題の検知精度を高めるために監視の頻度を高めると、作業量が増加するという課題を抱えることになる。実際は日常点検の多くは「異常なし」であることが多いものの、故障が起こるリスクを考えると、点検頻度を減らしたり、点検周期を伸ばしたりすることもできないというジレンマに陥る。
これらの課題を解決するのに最も効果的なのがIoTデータの活用である。センサーなどのIoT機器によって収集したデータから機器の健康状態を把握することができれば、部品のムダや作業量を減らしつつ、最適なタイミングでメンテナンスを行える。機器のライフサイクルにおいて、トラブルが起こりやすい時期には点検頻度を高め、安定稼働の時期は減らすことで、より意味のある点検も可能になる。さらに過去のデータやさまざまな条件を分析して、相関を見いだすことができれば、トラブルに先回りして対応する予知保全も実現可能となる。IoTは活用次第で保全活動の効果と効率を高め、結果的にダウンタイムゼロという目標に近づくことを可能にするのだ。
では、IoTを活用した設備保全を行うためには、前提としてどういうことが必要になるのだろうか。
まず、大前提として必要になるのが、対象とする設備の台帳である。最終的に製造ラインの予兆保全を実現したいとしても、そもそもその生産ラインがどういう設備で構成されていて、どういうスペックでどういう稼働状況になるのか、ということが分からなければ、実現しようがない。
健康状態を判断するためのしきい値と、しきい値を下回ったことを通知する仕組みなども欲しいところだ。さらに、具体的にどの部分が問題なのか、どういう対応をすればいいのか、緊急性はどうなのかなど、必要な情報を整理する仕組みも必要だろう。
もし、トラブルが発生した場合に、通常業務に多少でも支障があるのであれば、関係部門にあらかじめ通知する必要があるため、そうした関係性も把握しておく必要がある。さらに、トラブル対応として、作業する人、作業に使う工具や交換部品も確保することなども想定しないといけない。つまり、適切な保全のタイミングを察知するだけでなく、こういった対象設備や保全に関連する情報を一括管理できる「仕組み」が土台として必要になるのだ。
こうしたIoTを活用した設備保全の前提となる資産管理システムとして注目を集めているのが「IBM Maximo Asset Management」(以下、Maximo)である。
Maximoは、IoTで収集されたデータによって、企業全体の予防保全に取り組むためのサポート基盤である。資産台帳、保全計画、作業指示管理、調達管理、在庫管理など設備保全に必要かつ不可欠な機能を持ち、横断的な管理が可能な統合パッケージだ。工場設備に限らず、建物、車両、IT資産など、ありとあらゆる資産を管理できるため、自動車、航空・空港、電力、運輸、金融、政府機関など、さまざまな業種で採用されており、世界的なシェアも、評価も高い。日本国内でも70社以上の導入実績を持つ。
Maximoの柱となる機能は、資産管理と作業管理だ。メインで利用するのは「資産(設備)台帳」となるだろう。資産台帳は、登録した各設備の基本情報が表示されるMaximoのメイン画面で、タブで切り替えることによって、関連する予備部品や仕様、モニタリングしている計測値、また保全の計画や履歴などの情報を確認できる。
作業管理に使う「標準作業台帳」は、定期点検時に実施される作業に関して、手順、必要な人員や資材、工具などの情報を標準化し、人によるバラツキやミスの低減に役立つ。また、各設備の標準的な点検周期やリードタイム、しきい値などを定義しておくことで、標準作業台帳をテンプレートとして、自動的に作業指示書が生成される機能や、点検タイミングの通知などの機能も備えている。
さらに、プログラミングなどの負荷を可能な限り低減している点も特徴だ。既に使用しているExcelや独自の管理ソフトウェア、ERPなどとの連携に、個別のカスタマイズが不要である他、データベースや画面、作業フローなどをプログラミングなしで変更できる。各社が考えている保全の取り組み方針に沿って、ツール側を合わせることができるというわけだ。
2016年リリースしたオプション機能「Maximo Asset Health Insights」では、現在の設備の健康状態を会社全体で共有することができる。センサーからの情報、Maximoに登録されている設備の仕様や稼働時間、過去のコンディション、優先順位などに、気象情報も加味して、スコアリングを作成。算出されるスコアから、設備の客観的な健康状態を可視化し、早急に対応が必要な事象を通知するなど、予防保全をサポートする。集約したデータで日々の設備保全を最適化し、現場の知見に変え、設備保全のPDCAをサポートする仕組みがMaximoであるといえる。
さらに進んで予知保全を実現するためには、「予知」の仕組み作りが必要となる。
設備やモノから生み出されるデータや過去の検査データなど、製造業のもとにはいろいろな種類のデータが既に集まっている。しかし、これらのデータは現場の経験則に基づき、単一しきい値の監視でしか活用されていないケースが多い。複数因子が絡み合ってリスクを高めているとしても、経験から推測できる範囲をはるかに超えているからだ。予知保全には、さまざまな種類のデータを分析して、設備の故障や機能の低下などが起きる条件を見いだし、現場に伝えてくれる仕組みが不可欠なのである。
「IBM Predictive Maintenance and Quality(以下、『PMQ』)」は、まさにこの役割を担う、機器・設備保全業務を高度化するための分析基盤である。設備や機器からのデータ、設備台帳や管理する人の動き、基幹システムからのデータなどを解析し、トラブルが起きる条件をモデル化する。そのモデルに照らし合わせて、リスクがある場合は現場に対応を促し、対応結果もデータとして取り込む。予知保全を可能にするだけでなく、分析のPDCAサイクルを回して事象に関する説明モデルや判断の精度を高めていくのがPMQである。
PMQは、予知保全や保守の最適化、製造品質の改善などを目的に導入されることが多いが、実は適用範囲は広い。例えば、運転制御の最適化や遠隔診断などにも適用され、自動車、建機、貨物列車、船舶、製鉄、ごみ償却発電プラント、石油プラント、メールサーバなど非常にさまざまな業種と業務で活用されている。
例えば、ある韓国の製鉄会社の場合、あたためて柔らかくした素材の固まりを、ローラーで薄く伸ばす圧延工程で、巻き込みや折れ込みが起こり、品質上の問題に加えて、ローラーの破損に悩まされていた。PMQによって多変量解析や機械学習という統計的手法を駆使して分析した結果、素材である鉄の温度と、ローラーに挟み込む速度、鋼の微妙な組成の変化によって、非常に高い確立で巻き込みや折れ込みが起こることが明らかになった。現場の経験からある程度分かっていた温度と速度の2つの因子を実証した上に、新たな3つ目の因子を見いだしたことで、年間復旧コスト140万ドル削減、設備障害発生回数を65%回避に成功している。
またIHI物流産業システムでは、納品した自動倉庫システムの故障の予知に取り組んでいるという。同社はエンドユーザーに対し、オンラインリモート保全サービス提供しているが、これまではしきい値の監視や簡単なルールによる保守支援にとどまっていた。PMQの導入により、自動倉庫を構成する各種搬送設備の説明モデルを作成し、評価できたことで、故障や不備を来たす可能性のある機械についてその発生要因を抽出して「エンドユーザーに確認を促す」「適切なタイミングでエンジニアが出向く」など、より具体的でタイムリーな対応が可能になったとしている。
PMQは、現場ではなかなかたどり着けない事実を、データの力によって突き止めていくことが大きな目的だが、現場の知見を置き換えることはできない。現場の知見を証明することでこれまで培ってきた経験モデルを裏付けつつ、現場が気づいていない別の重要因子を見つけ出す。これが、PMQの導入で成功している企業に共通しているポイントである。
逆に頓挫しやすいのは、原因や条件となる入り口のデータ、またその結果予測したい出口データを明確にしていないケースである。成果を上げるには、現場に実装して改善するとどれだけの効果があるのか、そもそも何を目指してこの仕組みを作るのかといった本質的なディスカッションが不可欠なのだ。
必要な機能を持つ個別の製品をつなげるという方法もあるが、そもそも仕組みの構築だけで数年を費やしてしまう。労力を割くべきはそこではなく、データからどういう知見を得て、どう現場に伝えるかというシナリオ作りである。PMQは海外・国内のさまざまな工場設備やプラントで実装していく中で、必要となる機能や考え方を肉付けして育てているパッケージで、予知保全を支援するために必要な機能が集約されているため、要となるシナリオ作りに集中することができる。さらにMaximoとも完全に連携しているため、作業指示や作業に必要な情報を全て伝達することができる点も強みだ。
これまでも設備保全の取り組みは行われてきた。しかし高度成長期に建設された工場やプラントの設備が老朽化し、豊富な経験や知見を持つベテランエンジニアが減少。一方で、あらゆるモノ、コトが多様化、高速化している現在、これまでの管理体制ではリスクに追い付かなくなりつつある。IoTデータの利活用とは、人手の管理に余る状況をデータによって補完しようという取り組みなのだ。
現状を改善し、ゼロダウンタイムを目指すなら、PDCAサイクルは必須となる。MaximoやPMQの大きな目的は、保全現場、あるいは会社全体の設備管理に対して基盤を提供し、PDCAサイクルや改善のサポートをすることに他ならない。設備とそれに関連する人、モノ、データ、また分析結果や作業結果などあらゆる情報が現場とシステムにフィードバックされ、管理体制も、現場の知見も、意識も成熟させることができる。
日本IBMは、IoTプラットフォームを「Watson IoT」というブランドで展開しており、今回紹介したMaximo、PMQに加え、データの収集・連携基盤も提供している。上位のAI(人工知能)などの分析基盤でも豊富な実績を持ち、予防保全や予知保全におけるさまざまな課題にも対応できるソリューションを展開している。製造業において、設備保全の高度化や予知保全にこれから取り組もうという場合には、IoTおよびデータ活用に関する幅広い疑問や相談に応じてくれる、頼れるパートナーになることだろう。
日本IBMでは、2017年3月7日に、エコシステムパートナー企業とともに、さまざまな業界ですぐに活用できるIoTソリューションを紹介するイベント「IBM Watson IoT Platform Arcade 2017」を開催する予定です。同イベントでは、各社のソリューションをご紹介するミニ・セッションと、その場で具体的な相談が可能な展示、商談エリアを用意しています。IoT活用による新規ビジネス創出や既存業務革新に興味のある方やお困りの方は是非ご参加ください。IoTを現実のものとし、新しいビジネスモデルを共に構築しましょう。お申込みはこちらのページから。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2017年3月26日