あらゆる解析が集結――大幅な生産性向上と協調設計を実現するANSYS 17.0ANSYS 17.0エレクトロニクス製品

統合CAEソフトウェア製品群ANSYSの新バージョン「ANSYS 17.0」が2016年1月28日に世界で同時リリースした。「10倍の生産性、洞察力、パフォーマンスを実現する」というコンセプトの通り、新たな解析機能や高速化のための計算手法の導入、協調設計に役立つ各種の機能強化が盛り込まれている。アンシス・ジャパン 技術部 エレクトロニクスBU エンジニアリングマネージャーの小寺貴士氏に話を聞いた。

» 2016年03月29日 10時00分 公開
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――アンシスの解析ツール群の開発方針について教えてください。アンシスのCAEはどのように進化してきたのでしょうか。

 アンシスは、「シミュレーション主導の製品開発」というビジョンを実現するため、構造、流体、電磁界といったCAEのラインアップを強化してきました。一つに集めることによる利点は、それぞれのCAEを連成できることです。われわれは流体、構造、電磁界の3つのCAEをまとめて連成させるために「ANSYS Workbench」という環境を作り上げました。

 また、モノの形を作るだけでなく、どういう動きをするか、統合されたシステムとして考える必要があります。そのための環境として、システム解析ツール「ANSYS Simplorer」を用意しています。これによってモデルベースデザインの環境を提供します。加えて、製品の動作を制御するソフトウェアも必要です。そこで組み込みシステム企業のM&Aにより環境を整え、組み込みシステムとの連成もシステム上でできるようになっています。このようにシステム全体を一つの環境で再現できるのはアンシスだけだと言えるでしょう。

photo アンシス・ジャパン技術部エレクトロニクスBUエンジニアリングマネージャー小寺貴士氏

――例えばどのような製品/システムの設計に使われますか。

 自動車の衝突防止システムなどがあります。自動車にはレーダーが付いていて、何かが近づくとその信号がソフトウェアに渡され、それを元に状況を判断して、必要ならブレーキを駆動するという信号を送り、キャリパー内のブレーキパッドが動いて自動車にブレーキを掛けます。この一連の動きは、モノの形だけでなく、モノの動作をシミュレーションできるツールが一緒になって初めて提供されます。

 自動車の電化やIoTが進む中、こういったシミュレーション環境が必要な分野は、これからどんどん広がっていくでしょう。コネクテッドカーやインダストリー4.0など、ハードとソフトの融合はどんどん進んでいくと考えられます。世界中の企業が対応に取り組んでいくでしょう。そこではわれわれのツールが役立つと考えられます。

IoTで欠かせない「アンテナ設計」を簡単に

――エレクトロニクス製品分野で注目したい新機能は何でしょうか。

 アンテナの解析が非常に容易な解析環境「ANSYS HFSS Antenna Design Kit」ですね。今回、フルウェーブ電磁界解析ツール「ANSYS HFSS」に標準機能として搭載されました。IoT分野で欠かせない部品となるアンテナの設計をより簡単にします。

 今まではアンテナの電磁界解析を行う場合、モデルを描き専門的な設定や精度コントロールを行うといった作業が必要でした。たとえアンテナに詳しい人であっても、初めて解析をしようとする場合には、ソフトウェアの使い方はこれでいいのか、解析結果が正しいのか、なかなか自信が持てません。そこで今回の新しい解析環境では、アンテナ設計者が普段からなじんでいる言葉を使ったインタフェースを用意しました。

 手順はまずアンテナの種類を選び、必要なアンテナの条件を入力してもらいます。するとそのアンテナを解析するための基本モデルが自動的に作成されます。ここには解析に必要な専門的な条件などが全て入っています。そのため初めてでも「こういう条件でモデルを作り解析すればよい」という流れが簡単に理解できるようになっています。

photo 「ANSYS HFSS Antenna Design Kit」ではIoT時代に欠かせないアンテナの模範解析モデルを自動作成する

――初めてアンテナの電磁場解析に取り組む人にもハードルが低そうですね。

 この機能により、アンテナ解析の導入がより簡単になり、製品開発のスタートをより早く切れるでしょう。極端にいえばそれをそのまま作ってもアンテナとしては使えます。もちろん、そのアンテナを載せる場所に制限があるので、そこからが設計者の腕の見せ所になります。

3次元モデル暗号化機能で協調設計を推進

――どんな製品の設計例がありますか。

 スマートウオッチなどは小さなスペースの中にアンテナをはじめとするさまざまな部品を搭載しなければいけません。従来の電子部品の形状などを検討し直して、より小さなスペースに押し込まなければならないという技術的チャレンジが発生します。その際、製品を構成する部品一つ一つは、さまざまな企業によって提供されています。電磁界解析をしようとすると、部品内部の形状や物性値全てをシミュレーションモデルに入れなければいけません。ですが電子部品はノウハウの塊なので、デバイスメーカーは内部情報を見せるわけにはいかないという問題が生じます。

 これを解決するために登場した新機能が、「3D Component Library」です。これは3次元モデルを暗号化して第三者に渡せるようにする技術です。解析時に、人には分からないが「シミュレーションソフトウェアは中身をきちんと理解している」ということがポイントです。内部構造や物性値が考慮された実物そのままのリアルな解析ができるのです。今までどうしても壁があった協調設計を一気に推し進める機能になるでしょう。現在デバイスメーカーと協議して、各部品の提供内容を詰めているところです。もちろんこの機能はアンテナだけでなく、他の電子部品やコネクタなどにも適用できます。これは非常に期待されている機能ですね。

 また今回のHFSSでは、米Modelithics(モデリシック)社が提供する、回路モデル実測データを使えるようになったことも注目していただきたいですね。

photo 「3D Component Library」は部品モデルの中身を暗号化することによって、内部の機密情報を守りつつ正確な解析が可能だ。協調設計をより促進させることができる

新たな解析手法で大幅スピードアップ

――他にスピードアップを実現する新機能はありますか。

 モーターの過渡磁場解析が大幅に高速化する技術を導入しました。例えば自動車分野では電気自動車(EV)の開発が進んでおり、そこでは必ずモーターが使われます。モーターもアンテナと同じく古くからある技術ですが、使われる場所が変わると新たな技術的チャレンジが出てきます。EVでは、モーターをタイヤのすぐ近くに組み込む例(インホイールモーター)があります。ただタイヤ近辺に組み込もうとすると、モーターを非常に薄くする必要があります。従来のモーターは細長い形状だったため、どの断面をとっても電磁場の状態は同じと見なすことができました。そのため一部の断面を2次元で解析すればモーターの特性を知ることができました。ですが薄い形状になると、端の影響が顕著になります。そこでモーターを3次元で丸ごと解析する必要が出てきました。

 さらにモーターは刻一刻と変化する状況を追いかけて1ステップずつ解析する必要があります。3次元だと非常に時間が掛かってしまいます。そこで今回、解析速度を大幅に向上させるために導入された解析手法が、「Time Decomposition Method」なのです。以前のバージョンでは1ノードで270時間かかっていたある解析を、今回は4ノードで23時間と約12倍に短縮することができました。

photo モーターの過渡磁場解析では新たな計算手法により劇的に計算スピードを向上させる

――劇的なスピードアップですね。どうやって実現したのでしょう。

 今回解析手法は完全に新しい技術の採用になります。1ステップずつ計算する前に、1つの大きなマトリックスを作った計算を行います。1ステップずつだと前のステップが終わらなければ次のステップに移ることができません。そのためどうしても高速化に限界がありました。行列演算は並列化の技術が非常に進んでいるため、分割すればするほど速くすることができるようになったのです。これは非常に大きな改善になるでしょう。

――システム面では新しい点はありますか。

 パワーエレクトロニクス向けの回路・システムシミュレータ「ANSYS Simplorer」でModelicaモデルが直接扱えるようになりました。自動車業界でも先ほどのIoT分野と同じように、多数のサプライヤが部品を作り、自動車メーカーがそれらを組み上げるという構造になっています。そこでは各モデルをどうつなげてシミュレーションするかという課題があります。Modelicaは特に機械系に強い複数の分野にまたがるシステムのモデリングを行える、マルチドメイン・モデリング言語です。これまでSimplorerではVHDL-AMS言語を用いたモデリングやFMIによるユニットの取り込みを扱えましたが、今回直接Modelicaを扱えるようになりました。よりモデルベースデザインに役立つと考えられます。

――どういった場面で使われるのでしょう。

 例えばクラッチ操作のモーターを含む回路があります。ここではモーターは電流を流すことによって何かを動かすことになります。電流を流しただけではなくその先のモデルを提供できるのがModelicaです。電流をモーターに流すとどういう力に変換され、クラッチをどの程度動かしたかという力のやり取りも正確に評価することが可能です。

photo アンシスは「Simulation Driven Product Development」の実現に取り組む

――最後にCAEを活用していくユーザーに一言お願いします。

 欧米などは、シミュレーション主導のモノづくりが非常に進んでいます。それはスマートウオッチの例でも挙げましたが、3次元(デジタル)で開発設計を行い、製品をシステム全体とみて解析し、シミュレーションツールを、創造性の高い製品を早く市場に出すために活用しているからです。

 一方、日本では、各専門の技術者がそれぞれの知識と経験をすり合わせすることで付加価値の高いモノづくりをしてきたことから、シミュレーション活用のスタートが少し遅れていることは確かです。

 日本の製造業の現場が、シミュレーションツールをこれから活用すれば、各技術者の知識と経験知を裏付けでき、明確にノウハウとして後世に伝えていくことができると思います。事実、その日本の強みをデジタル化することで、世界を驚かすような製品づくりを行っている企業が現われ始めています。

 今回リリースしたANSYS17.0 は構造、流体、電磁界といった個別の解析技術の開発を進めただけではなく、それぞれがより密接に連携できるよう統合された形を目指して開発されています。これから、インダストリー4.0、IoTへの対応が不可欠となる時代に、さまざまな技術を統合するためのプラットフォームを持ち、システム全体として製品の性能を評価できるANSYS17.0を、ぜひ日本のお客さまに活用していただきたいのです。

――ノウハウを数値化し、目に見える形で残せるというCAEの役割はとても重要になってくるということですね。どうもありがとうございました。

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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2016年4月28日