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「環境に良いことしかやらない」 MIRAI-LABOはなぜ独自製品を生み出せるのか製造業“X”探訪(6)MIRAI-LABO(3/3 ページ)

多くの製造業がDXで十分な成果が得られていない中、あらためてDXの「X」の重要性に注目が集まっている。本連載では、「製造業X」として注目を集めている先進企業の実像に迫るとともに、必要な考え方や取り組みについて構造的に解き明かしていく。第6回は「環境に良いことしかやらない会社」を掲げるMIRAI-LABOを取り上げる。

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「知的財産戦略型企業」としてのMIRAI-LABO

 MIRAI-LABOは、企業理念として「環境主義」を掲げる一方で、自社の特色として「知的財産戦略型企業」を掲げている。これは単に特許や意匠、商標を取得しているだけでなく、事業全体で知財活動をうまく利用しているところに、以下の3つの特徴がある。

知財を事業立案の軸に

 まず1つ目は、事業戦略立案そのものに「知財」が大きく関与しているという点だ。MIRAI-LABOでは、起業当初から現在まで、月に2回「知財開発会議」という会議を開催している。そこでは、知財の専門家(元特許庁審査官など)が参加し、平塚氏が提示する製品や事業のアイデアを、知財の側面からどう考えたらよいかを徹底的に議論しているという。

 具体的には、平塚氏のアイデアを、技術の実現性から製品化の可能性、市場への出し方、ブランディングやデザインを含めて、さまざまな角度から議論する。実際に、MIRAI-LABOの知財について、JPLATPAT(特許情報プラットフォーム)を調べると、特許22件、意匠5件、商標24件が登録されている。これらを見ると、それぞれの製品について、「特許+意匠+商標」を組み合わせた総合的な知財戦略が見て取れる。複数の権利を持つことで、より強固な競争優位性を確保できるためだ。

 製品や事業を評価する軸はさまざまなものがあるが、知財という軸で評価することで、出願済みの公知の技術と比較可能となり、結果として「独自性」が評価できるようになる。同じ知財(特許)が既に存在すれば、事業化のメリットはない。ただ「知財を強みにする」ために考えるのは、その先のことだ。

 知財の専門家(特に元特許庁審査官)が入ることで、その特許事情を踏まえた上で、事業展開に関するアイデアの広がりをイメージしているはずだ。特許審査官は、特許審査において技術仕様だけでなく、実施例や既存特許との抵触の有無、引用特許にひも付く事例なども確認する。元特許庁審査官の視点を生かせば、進歩性や実施可能要件、明確性などを分野横断的に検討できる。その結果、事業展開の実現可能性も、より具体的に判断できるようになる。

 さらに、特許による技術的な点のみでなく、意匠や商標も加味しながら、どのような形で知財価値を確保することが最適かという議論も生まれるため、ビジネスの形や勝ち筋などについても、一般的な企業に比べて幅広い要件を検討できる。

特許出願の工夫

 2つ目が特許出願の工夫だ。多くの企業と同様にMIRAI-LABOもコア技術に関する特許を保持している。例えば、コア技術の1つである「バッテリー」における「バッテリー劣化診断」についてはいくつかの特許が出願されている。

 公開特許(特開2024-003049「バッテリー劣化判定システム」)を見ると、バッテリー劣化診断システムの工程およびシステム構成について出願していることが分かる。重要なのは、あくまでも外から見たシステムの構成だけを申請しており、判定に必要なパラメータは開示しつつも、コア技術となる具体的な判定方法については明らかにしていないという点だ。これは、判定という内部プロセスを特許化しても、特許侵害の発見や立証が難しいことに起因しているためだ。特許化するとオープン化されてしまうため、特許化する部分とクローズする部分をしっかり判断した知財申請を実施しているのだ。

 一方で、「街路灯」として登録されているTHE REBORN LIGHT(自律型スマート街路灯)に関する特許は、特許公報を見ると、かなり詳細な蓄電池付き街路灯の構造を記載している。こちらは、市場に展開される製品の外部構成がメインになっているため、特許侵害を発見/立証しやすいことが考えられる。

 こうした個々の知財の出し方の工夫だけでなく、MIRAI-LABOが強いのが、これらを組み合わせた時にどのように事業防衛が行えるのかを考え抜いていることだ。THE REBORN LIGHTのように、EVのリパーパスバッテリーを使った街路灯を開発する場合、バッテリーの品質を確保するためのバッテリー劣化判定システムは欠かせないが、バッテリー劣化判定システムは、特許だけでは事業防衛策としては弱い(システム構成だけであれば回避策を考えるのは容易)。しかし、この「街路灯」特許と組み合わせることで、THE REBORN LIGHTと同様のスマート街路灯を他社が出すのは難しくなっている。さらに、外観の意匠権、そして商標も取得している。このように、単一の特許だけでなく、特許+意匠+商標という知財を組み合わせた事業戦略を考え抜いていることが、競争優位性を生んでいる。

知財を生かした協業の拡大

 3つ目として、資本提携や業務提携への活用がある。知財を持つことで、競合他社による競合製品の出現を防ぐ防衛的な使い方だけでなく、組みたい相手と交渉し協業を図ることができる攻めの活用も可能になる。

 協業先とキラーコンテンツを考え、さらに相手方と共同開発すべき技術分野を特定することができる。最近では特許や意匠、商標などを積極的に取得する企業も増えている。一方で、その多くは、製品名を商標で守りながらも、単一の特許や意匠権の取得とそれに基づく製品開発に閉じている場合が多い。実は知財にはもっとさまざまな活用方法があるということをMIRAI-LABOは示している。


 今回は、MIRAI-LABOが2024年に建設した新本社を訪れたが、従来の研究施設に比べて、敷地が広くなると同時に、分析/評価/試験環境が大きく拡充されていた。もともと、バッテリーの劣化診断の技術を持っているMIRAI-LABOだが、評価を内製化することで、その技術を基に得られるデータの利活用にも乗り出したようである。

 そもそも、太陽光発電パネルやリパーパスバッテリーに関しても、遠隔監視で常時発電状態やバッテリーを監視し、データの蓄積/分析を進めてきたが、さらに、バッテリーの劣化診断を使用状況とあわせて実施することで、製品のリパーパス化に向けた一貫したデータ入手が可能になったわけである。これにより、データドリブンの製品サイクルというエコシステム形成がMIRAI-LABO内で完成した。デジタルツールのDではなく、データ活用としてのDを重視するDXの事例である。

 このように、MIRAI-LABOは、分析評価、製品設計、開発、市場投入、常時監視といった製品サイクルを通じたデータ連携をベースに「環境に良いことしかやらない」という企業理念のもと、自社のみならず、自律型エネルギーインフラをベースとした街づくりに向けて、変革を進めているのである。

筆者プロフィール

西垣淳子(にしがき あつこ)

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1991年に東京大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。経済産業省では日本の魅力を発信するクールジャパン政策や、日本のモノづくり産業支援政策などを推進。特許庁時代には、商標や意匠を活用したブランディング戦略や、技術情報などをベースとした知財戦略を支援した。その後、石川県の副知事となり、デジタル化、グリーン化などに取り組んだ。2025年から政策研究大学院大学 特任教授、金沢工業大学 産学連携室 客員教授を務める。


楠和浩(くすのき かずひろ)

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1988年に九州大学大学院を修了後、三菱電機入社。研究所にてリアルタイムネットワークの研究開発に従事。また、名古屋製作所でCC-Link IEの開発やe-F@ctoryの事業企画などを担当。情報技術総合研究所長、FAシステム事業本部役員技監として研究開発を統括した。2023年から早稲田大学研究戦略センター教授。ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)WG1共同主査(2022年度)、一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)理事などを務める。博士(工学)。


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