「子どもは最もシビアなユーザー」ジャクエツに見るデジタルではないDXの本質:製造業“X”探訪(5)ジャクエツ(1/4 ページ)
多くの製造業がDXで十分な成果が得られていない中、あらためてDXの「X」の重要性に注目が集まっている。本連載では、「製造業X」として注目を集めている先進企業の実像に迫るとともに、必要な考え方や取り組みについて構造的に解き明かしていく。第5回は、保育教材の企画や開発、製造を行う福井県のジャクエツを取り上げる。
製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)において、本質的な「X(ビジネス変革)」の在り方が問い直される中、成功している製造業はどのような取り組みを進めているのだろうか――。第5回は「あそび」を根幹に据え、徹底した現場視点で、保育教材の企画や開発、製造を行う福井県のジャクエツの取り組みを紹介する。
本連載の趣旨
前石川県副知事で政策研究大学院大学 特任教授の西垣淳子氏と、早稲田大学 研究戦略センター 教授の楠和浩氏が「製造業X」を体現している企業や現場を訪問し、次世代を担う製造業の変革の姿を紹介する。また、その姿がインダストリー4.0などで示された参照モデルの中で、どういう位置付けを担うのかを示しつつ、成功のポイントについて議論する。
起源でありユーザーデータの収集拠点としての幼稚園
ジャクエツの概要
ジャクエツは1916年に創業者の徳本達雄氏がグループの母体となる幼稚園を開設し、その教材作りを事業化したことから幼児教育用品の製造業として展開してきた。1949年に法人化している。社名は「若狭」と「越前」に由来する。
本社は福井県敦賀市若葉町だが、東京にも本社機能を構え、全国に約65の営業拠点を持つ。製品は、教材/教具や遊具、園児服にとどまらず、園舎の建築設計、リノベーション、ランドスケープデザイン、公共施設の遊び空間づくりまで多岐にわたる。全国の幼稚園や保育園を主要顧客とし、自治体や商業施設向けの幼児向けスペースの企画や運営に関する案件も増えている。
ジャクエツの事業の特徴は、企画、デザイン、製造、施工、アフターメンテナンスまでを一貫して担う体制だ。敦賀市の自社工場を中核に、安全性と品質を重視したモノづくりを続ける。近年は、発達心理学やデザイン分野の専門家と連携する研究拠点「PLAY DESIGN LAB」を通じ、科学的知見に基づいた製品開発にも力を入れている。
「未来は、あそびの中に。」――。ジャクエツが掲げるこの理念は、子どもの成長だけでなく、地域や社会の未来を見据えたものである。教育産業の枠を超え、人とまちをつなぐ“あそびのインフラ”企業として、発展を続けている。
「未来は、あそびの中に。」を掲げ、「あそび」を起点に関連業界にさまざまなイノベーションを実現しているのが、保育教材の企画や開発、製造を行うジャクエツだ。
全国の幼稚園や保育園から高い支持を受け、新たな保育教材や遊具の創出や、遊び空間のデザインや企画に次々に取り組む様子から、製造業としての「X(ビジネス変革)」のヒントがあるのではないかと福井県敦賀市のジャクエツ福井本社を訪ねた。
ジャクエツの「X」の源泉として最初に伺ったのは、ジャクエツが経営する第二早翠(さみどり)幼稚園である。ジャクエツはもともと、1916年に創業者の徳本達雄氏が幼児教育の重要性に気付き、早翠幼稚園を開設したことが起源となる。そこで使う教材を自分たちで作り出したことが、メーカーとしてのジャクエツにつながったという。
園児たちの過ごす園舎や園庭に入ると、子どもたちは、足裏に絵の具をつけて、泥の上に敷いた白い紙の上に足跡をつけて走り回る楽しそうな姿が目に入る。広々とした園庭には、ジャクエツの展示会で見掛けるアーティスト作品でもある遊具が並んでいる。イサム・ノグチさんの遊具もあれば、深澤直人さんの「BANRI」などが、樹木に囲まれた広い園庭で存在感を示している。
ジャクエツ 経営企画室 課長の赤石洋平氏は「子どもたちは本当に正直で、シビアなユーザーだ」と語る。ジャクエツでは企画した新たな製品をグループの幼稚園に持ち込んで、よくテストを行うという。リアルな子どもの反応を見ながら、本当に楽しんでもらえるかどうかを検証し、改善を進める。つまり、この幼稚園は、ジャクエツの開発する遊具の試作品の実験場になっているのだ。
「遊具を作ったデザイナーがどんなに有名な人かというのは、子どもたちには全く関心がない。面白そうだと思えば、どんどん遊具に向かって、思い思いに遊ぶが、そうでなければ全く遊ばれない。本当の意味で価値があるものが分かる。ただ、相対的に見ると有名デザイナーの遊具は子どもたちが関心を持つものも多い」と赤石氏は説明する。
幼稚園に設置されたそれぞれの遊具には、たとえそれが有名なアーティストの製作であっても、それを示すような表示は一切ない。園児たちにとって、誰が作ったかは関係ないためだ。園児に余計な情報を与えず、純粋な評価者であり続けてもらうための方策にも見える。
ジャクエツの製品開発は、この自社グループの幼稚園のみならず、日本全国の約4万の幼稚園や保育園のネットワークを通じて、全国の園長先生や先生たちから伝えられる子どもへの知見と経験という莫大なデータによって支えられているのだ。
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