「子どもは最もシビアなユーザー」ジャクエツに見るデジタルではないDXの本質:製造業“X”探訪(5)ジャクエツ(2/4 ページ)
多くの製造業がDXで十分な成果が得られていない中、あらためてDXの「X」の重要性に注目が集まっている。本連載では、「製造業X」として注目を集めている先進企業の実像に迫るとともに、必要な考え方や取り組みについて構造的に解き明かしていく。第5回は、保育教材の企画や開発、製造を行う福井県のジャクエツを取り上げる。
幼稚園で生まれるダブルダイヤモンド
事業領域の変化に合わせて社員の能力開発を進めている点も興味深い。ジャクエツには国家資格である「建築施工管理技士」という空間施工に携わる資格を持つ社員が多くいる。加えて、社内資格として「遊具検査技師」などの資格も用意し、専門知識を持ちながら、子どもに最適な環境としての遊具や遊び場の安全性を追求している。彼らはさまざまな施設の環境整備に関わる問題を現地で解消しつつ、各地の幼稚園や保育園と常に状況を共有し、遊具や遊び場のメンテナンスを継続的に行っている。
さらに、安全性の点検と併せ、子どもたちの遊び方を観察し、それが次の製品開発のアイデアに結び付いていく。アイデアが形になりユーザーに使われ、その使い方を観察して、次の製品開発へ、という「デザイン思考」のダブルダイヤモンド(※)の思考パターンが会社全体で共有されながら、日々イノベーションが生まれているのである。
(※)デザイン思考のダブルダイヤモンド:2005年に英国デザイン協会が提唱した問題解決のフレームワークで、「課題の発見」と「解決法の創出」という2つのフェーズで「発散(視野を広げる)」と「収束(絞り込む)」を繰り返すプロセスを示している
モノづくりDXの方法論の1つとして、ユーザー企業との連携がある。ここで重要なのは、製造側と利用側がどれだけ密度の濃い(あるいは率直な)意見交換を行えるかだ。企業間の連携の場合には、どうしても両社間の社会的関係性が率直な意見交換の邪魔をする場合が多くなる。
その意味で、ジャクエツと幼稚園(園児)との関係は「あそびを追求する」点で社会的忖度(そんたく)がない意見(評価)を得られるという点で、新たな製品開発にとって理想的な関係だといえる。ただ、園児は論理的な説明はできないため、ジャクエツ側には遊びの状況を観察し、園児たちが製品をどう捉えているかを適切に発見する観察力や洞察力が必要とされる。こうした能力は一朝一夕で身に付くわけではない。会社創設時からの情報の蓄積や社員間でのノウハウの継承が、他社の追随を許さない強みになっていると感じた。
あそびを起点に広がるビジネスモデル
先述した通り、ジャクエツは早翠幼稚園を開設した後、そこで使用する教材や教具を自前で考案/製造したことから、幼児教育用品の製造直販事業へと展開してきた。その次に、こうした実績が買われて、幼稚園や保育園の建設まで含めた総合的なプロデュースを求められるようになり、現在はこれも事業として展開している。
しかし、この事業展開は最初から狙って始めたわけではないという。「もともと、自社グループの幼稚園の改築をする際に、幼稚園専門で園舎の全体設計を考えてくれるところがなかった。その結果、自分たちで設計して作った。その実績を受けて、各地から幼稚園や保育園の設計を含めて話が来るようになった」とジャクエツ 代表取締役社長 CEOの徳本達郎氏は説明する。
これらの経緯を経て、教材開発から始まったジャクエツは、今では、園舎の設計から、遊具、園児の使う道具箱から卒園証書まで、園児にまつわる全てのものを設計/開発し、製造まで行うようになった。まさに、幼稚園/保育園の総合プロデューサーとなっている。
幼稚園や保育園のプロデュースも、遊具と同様に子ども視点(子どもにとって良いこと)を原点としている。例えば、園児の事故は、遊具よりも、建物の構造から起こっていることが多い。そのため、建設面から子どもの視点を取り入れた構造としていくことが重要となる。
例えば、園庭を見下ろす二階の窓は、床面まで全てガラスが埋め込まれている。大人の感覚では、床面までガラスにすることの方が子どもにとって怖いのではないかと考えてしまうが、外が見たいという好奇心を持つ園児にとっては、足元が見えないと、窓から乗り出して庭を見下ろし、そのまま落ちる危険性がある。最初から見えるようにしておくことでそういう事故を防ぐ狙いがあるという。安全性を考えるには、園児の視点や行動を起点に、さまざまな園児たちが一緒に活動する場として、園舎全体の設計が必要なのだ。
幼稚園を見学し、理解できたのは、子どもたちの探求心を踏まえた日々の動きをずっと追いかけてきている幼稚園の先生方の経験値は膨大なものがあるということだ。教育製品を開発するのに、こうした幼稚園での生きたデータはまさに宝の山であり、これらを直接製品開発に生かせるジャクエツの強みは大きなものがある。
幼稚園から飛び出しさらに公共空間の「あそび場」へ
この幼稚園や保育園での子どもたちの「あそび」で育まれた知見は、今では幼稚園や保育園の枠を超え、公共空間における「遊びの場」の設計開発へと広がり、さらには、まちづくりコンサルタント業へと広がりを見せている。そこで、大きな役割を果たしているのが、各領域の専門家を集めた「PLAY DESIGN LAB(あそびの研究所)」だ。
さまざまなアーティストの作品が配置され想像力を喚起するPLAY DESIGN LAB。人物は中央右がジャクエツ 代表取締役社長 CEOの徳本達郎氏、中央左が同社取締役専務執行役員の徳本誠氏[クリックで拡大]
PLAY DESIGN LABは、多様な分野の専門家も参加し、さまざまな視点を循環させながら、あそびを見つめ直し、遊びを軸とした空間づくりやまちづくりを探求し、社会に実装する研究拠点およびプロジェクトだ
まちづくりの拠点として、東京都世田谷にある営業拠点を2023年にフルリノベーションし、東京の本社機能をもたせるとともに、そこに福井本社や全国の営業拠点からの出張者用のホテルも完備した。ここは、さまざまなクリエーターなど外部とのつながりの拠点として活用される。加えて、社内のさまざまな部門のコミュニケーションを円滑化するために、都内に分かれていた拠点を集め、オンラインを通じて各地の拠点とも常時接続するようにしている。
つまり、社内の「つながり」を支えるハブ機能としての役割を持つ。デザイン経営の実践企業として知られるジャクエツだが、以前は内部のつながりに問題を抱えていた。それが、この世田谷の拠点整備へとつながったという。
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