人の曖昧な命令を自動補完するエッジAI、三菱電機が2022年にも製品搭載へ:人工知能ニュース(1/2 ページ)
三菱電機は人の曖昧な命令をエッジ機器単体で状況に応じて不足情報を自動補完して理解する「コンパクトな知識処理に基づくHMI制御技術」を開発した。同社のAI技術「Maisart」の1つで、テレビやカーナビゲーションシステムなどに用いられているプロセッサやメモリでも利用可能なエッジAI技術となる。
三菱電機は2020年1月28日、東京都内で会見を開き、人の曖昧な命令をエッジ機器単体で状況に応じて不足情報を自動補完して理解する「コンパクトな知識処理に基づくHMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)制御技術」を開発したと発表した。同社が2017年5月から展開するAI(人工知能)技術「Maisart(マイサート)」の1つで、テレビやカーナビゲーションシステムなどに用いられているプロセッサやメモリでも利用可能なエッジAI技術となる。クラウドと接続する必要がないため、曖昧な命令を1秒以内で理解して即座に適切な応答を行える。今後は、家電や車載情報機器を中心に適用検証を進め、2022年以降の商用化を目指す。
同社 情報技術総合研究所長の楠和浩氏は「当社におけるIoT(モノのインターネット)を活用した開発戦略の中では、さまざまな機器を保有している強みを生かして機器やエッジのスマート化、効率化、快適性、安全・安心などの顧客価値創出を目指している。その中でも、コンパクトなAIをデータ発生源の近くで使えるMaisartは重要な役割を果たすと考えている」と語る。
Maisartの開発戦略は「ディープラーニング」「強化学習」「ビッグデータ分析」「知識処理」の4つがあるが、今回は「知識処理」に当たる。「AIを搭載する機器に関する知見を生かした、当社が得意とするAI技術だ」(楠氏)という。
「人が機器にあわせる」から「機器が人にあわせる」へ
「コンパクトな知識処理に基づくHMI制御技術」は、大まかに分けて2つの特徴がある。1つは、人が音声入力によって機器に指示を与える際などに起こりやすい「曖昧な命令」に対して、AIが状況に応じて不足情報を補完して理解することだ。もう1つは、AIが行う知識処理のコンパクト化によりクラウドなどを使うことなく機器単体で素早く応答できることである。
例えば、従来のテレビの音声入力操作では、「俳優Aの録画よろしく」といった曖昧な命令は理解できずに対応できないのが一般的だ。新技術では、AIがテレビ番組の情報や、ユーザーごとのテレビ操作のパターンなどを事前に学習した上で、ユーザーの状況(今からテレビを視聴するかしないか、放送番組予定の有無、趣味嗜好など)を把握して、曖昧な命令に不足している述語や目的語などの情報を補完し、命令を理解する。
また新技術は、Web検索システムなどで広く利用されている知識グラフ(ナレッジグラフ)をベースにしたAI技術を用いている。知識グラフは膨大な数のデータベースと関連性とから構成されているため、曖昧な命令を補完する知識処理はそれなりの演算量とメモリ使用量が必要になる。新技術では、新たに加えられたユーザー命令とセンシング情報から関連性の強い情報を絞り込むことで演算量とメモリ使用量の削減に成功した。エッジ機器単体で曖昧な命令を1秒以内で理解し、それに対して即時に適切な応答ができるという。
三菱電機 情報技術総合研究所 知識情報処理技術部長の虻川雅治氏は「テレビやスマートフォン、スマートスピーカーの音声入力機能は、ユーザーがその使い方を分かっていなければうまく使いこなせないのが現状だ。今回開発した技術は、この『人が機器にあわせる』状況から、機器がユーザーのやりたいことを理解してくれる『機器が人にあわせる』を実現するために開発した技術だ」と説明する。
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