その在庫、いつ現金に戻りますか? 経営をけん引するSCMへのアップデート術:「稼ぐサプライチェーン」の作り方(1)(3/3 ページ)
現場のサプライチェーン改善は、会社のキャッシュ創出につながる――。本連載では、実践的な知見をもとに「稼ぐサプライチェーン」の構築法を解き明かします。第1回となる今回は、現場の意思決定を経営レベルへと引き上げる第一歩として、物流担当者が身につけるべき「B/S(貸借対照表)視点」と、現場の数字の捉え直し方を取り上げます。
サプライチェーンは「キャッシュの流れと回転」で読み解く
サプライチェーンは一般的に「モノの流れ」として語られますが、経営の視点から見れば、それは同時にキャッシュの流れでもあります。製造業においては、キャッシュは次のように形を変えながら循環しています。
この流れの中で、(2)〜(3)にかけての期間は、キャッシュが在庫として一時的に固定化されます。とはいえ、在庫は不可欠な存在であり、それ自体が悪いわけではありません。納期を守り、欠品を防ぎ、売り上げ機会を確保するために、在庫は重要な役割を果たします。
問題は、どれだけのキャッシュが、どれだけの期間、在庫として止まるのかを意識せずに意思決定してしまうことです。製造業では特に、「先に仕入れる」「先に作る」「後から回収する」という構造があるため、「利益より先にキャッシュが尽きる」という事態が起こります。では、このキャッシュの流れをどのように把握すればよいのでしょうか。そのための代表的な指標が、CCC(Cash Conversion Cycle)です。
CCCとは、「仕入れてから現金として戻るまでの期間」を表します。例えば、次のような条件で考えてみます。
- 発注リードタイム:60日 ※CCCには含まれない
- 在庫日数:90日
- 売掛日数:60日
- 買掛日数:30日
この場合、CCC=90+60−30=120日となり、約4カ月間キャッシュが拘束されている状態であることが分かります。さらに実務では、発注リードタイム(発注〜入荷)も考慮する必要があります。つまり、「在庫を持つ」という意思決定は、実際にはその約60日前に行われていることになります。
つまりサプライチェーンの意思決定は「今」の判断ではなく、数カ月先のキャッシュの状態を決める判断であることが分かります。ここで重要になるのが、第3章で整理した3つの視点(P/L、B/S、キャッシュフロー)です。CCCは、この3つの視点を時間軸でつないだ指標と言えます。CCCを構成する要素のうち、売掛日数や買掛日数は取引条件に依存するため、調整余地が限られるケースが多くあります。
一方で、在庫日数は企業側でコントロール可能な領域です。どれだけ持つか、いつ補充するか、どのタイミングで生産するか。こうした日々の意思決定が、最終的にキャッシュの回転速度を決定します。
明日から始める「稼ぐサプライチェーン」への第一歩
よく経営者の方から、「在庫が増えてしまって困っている。今すぐ減らす方法はないか」というご相談を受けます。その際、私は必ずこうお伝えします。
「在庫には、“売る”か“捨てる”以外の出口がありません」
現場で在庫責任を持つ担当者は、常に板挟みの状況に置かれています。売り上げを伸ばしたい局面では「在庫が足りない」と言われ、機会損失が発生すれば責任を問われる。一方で売り上げが鈍化すると、「なぜこんなに在庫が残っているのか」と指摘される。
「在庫は足りなくても怒られ、余っても怒られる」
この構造の中で、現場は日々意思決定を迫られています。在庫とはキャッシュが形を変えたものです。恒久的な対応としては、在庫を減らすことではなく、在庫が増えない仕組み作りが必要です。「どれだけ持つか」「どれだけ減らすか」ではなく、「どれだけ回転させるか」。回転が速ければ、同じ在庫水準でもキャッシュ効率は改善します。逆に回転が遅ければ、在庫は長期間にわたり企業の資金を拘束し続けます。
CCCは、この「回転の速さ」を可視化する指標です。在庫の意思決定は、単なる在庫量の問題ではなく、キャッシュの回転速度をどう設計するかという問題でもあります。
だからこそ、個別の判断に委ねるのではなく、本稿で述べてきた3つの視点で、会社として意思決定の“ものさし”をそろえることが重要になります。3つを同時に見ることで、在庫とキャッシュの回転をコントロールする意思決定が可能になります。
<3つの視点>
- 1.利益やコストにどう影響するか(P/L)
- 2.キャッシュと在庫はどのくらい増減するか(B/S)
- 3.在庫になったキャッシュはいつ戻るか(キャッシュフロー)
ここで一度、自社の状況を思い浮かべてみてください。あなたの会社では、在庫金額や在庫日数を把握できているでしょうか。在庫の議論は、「数量」ではなく「金額(キャッシュ)」として行われているでしょうか。 その在庫が、どれだけのキャッシュを、どれくらいの期間拘束しているか、見えていますか。
明日からできることはシンプルです。
- 在庫金額と在庫日数を把握する
- 滞留在庫を洗い出す
- CCCを計算してみる
- 在庫をキャッシュとしてチームで議論する
こうした小さなアクションでも、見え方と意思決定は確実に変わります。サプライチェーンは、単なるオペレーションではありません。モノの流れであると同時に、キャッシュの流れです。そして、その流れの速さは、日々の意思決定の積み重ねによって決まっています。この構造を理解し、3つの視点で判断できるようになると、サプライチェーンは現場最適にとどまらず、経営そのものの意思決定へと変わっていきます。
第2回では、一般的なS&OPプロセスの解説にとどまらず、B/Sやキャッシュの視点を織り込んだ在庫マネジメントの考え方に踏み込みます。(次回に続く)
著者プロフィール
齋藤 弘晃(さいとう ひろあき)
早稲田大学卒業後、ポーラにてSCM・需要予測に従事。その後、PwCコンサルティングにて自動車部品メーカーの物流システム導入をリード。ACROではサプライチェーン部門責任者として、S&OPプロセスの導入や需給管理の高度化を推進し、在庫と財務を連動させたオペレーション改善に取り組む。特に、需要変動の大きいブランドビジネスで培った需給最適化の知見を生かした、現場実装型の改善を強みとする。
現在は、自身で経営コンサルティングを行う傍ら、プロ人材サービス「ウィズプロ」の登録プロ人材として、製造業を中心に戦略立案から現場改善、DX支援まで一貫して支援している。
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