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ヤマハ物流部が築いた、「Excel地獄」からの脱却と年間200時間削減の舞台裏サプライチェーン改革(1/3 ページ)

ヤマハが描くのは、データを武器にサプライチェーンを最適化する「物流コントロールタワー」構想だ。エンジニア不在、Excel管理の限界という壁を乗り越え、いかにしてデータ基盤を構築し、年間200時間の工数削減を成し遂げたのか。【訂正あり】

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 ヤマハは2025年10月15日に、AIを搭載した全社データ活用プラットフォーム「Domo」を提供するドーモが主催する「Domopalooza Japan 2025」に登壇し、物流システム部による「物流情報基盤」の構築と活用について講演を行った。本稿では、当日の講演内容に加え、イベント終了後に行った担当者への個別取材を基に、ヤマハが推進する物流データ変革の詳細な道筋について紹介する。【訂正あり】

【訂正】初出時、冒頭に記載した企業名に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。[編集部/2025年12月3日12時20分]

講演を行うヤマハ 物流システム部企画管理グループの福井真子氏
講演を行うヤマハ 物流システム部企画管理グループの福井真子氏[クリックで拡大]

 130年以上の歴史を有し、世界最大級の総合楽器メーカーとして知られるヤマハ。2025年3月期のグループ売上収益は4621億円に達し、その事業構成は楽器事業が64%、音響機器事業が32%を占める。アジアと欧米に約20の生産/開発拠点、全世界で40以上の販売拠点を持ち、売り上げの実に77%を海外市場が占める。

ヤマハの事業内容
ヤマハの事業内容[クリックで拡大]出所:ヤマハ

 この広範なグローバルサプライチェーンの「血流」ともいうべき物流機能の中核を担うのが、本社の物流システム部だ。約20人で構成される同部門は、海外拠点をつなぐコンテナ船の管理、月次の物量やコストデータの集約と管理などを行い、グループ全体として効率的に機能する物流の仕組みを構築する役割を担っている。

同じデータのはずなのに、なぜ違う?

 しかし近年、その物流を取り巻く環境は厳しさを増している。

 海上紛争やコンテナ不足、輸送運賃の高騰、国内では慢性的な人手不足に加え、2030年には輸送能力の約34%が不足する(国土交通省による試算)可能性が指摘されるなど、課題は山積みだ。

 こうした目まぐるしく変わる環境下で、サプライチェーンの最適化を継続的に行うには、従来の「経験則」から脱却し、「データドリブン」で迅速かつ的確な物流戦略の意思決定が不可欠であると、同部門は認識していた。

 だが、いざ部内でデータ活用に着手しようとすると、大きな課題に直面した。輸送実績やコスト管理など、戦略設計上不可欠なデータらが、複数のシステムに分散していたのである。データを必要とする担当者は、都度、各システムからデータをダウンロードし、手作業で統合しExcelに転記せざるを得なかった。加えて、抽出条件や、データのクレンジングのロジックは標準化されておらず、担当者ごとに属人化していた。

ヤマハの早野孝太氏
ヤマハの早野孝太氏

 その結果、「同一のデータを参照しているはずが、担当者によって最終的な数値が異なる」というデータガバナンス上の致命的な状況が発生していた。「物流戦略を検討しようにも、異なるデータが散在している。まずはデータの所在把握から着手しなくてはならなかった」と、ヤマハ 企画管理グループ主幹の早野孝太氏は当時を振り返る。

 グローバルな物流戦略を立案する以前の、根本的な課題。迅速な意思決定を実現するためには、まず「信頼できる統合化されたデータ」として機能する、統合データ基盤の構築が急務であった。

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