ヤマハ物流部が築いた、「Excel地獄」からの脱却と年間200時間削減の舞台裏:サプライチェーン改革(2/3 ページ)
ヤマハが描くのは、データを武器にサプライチェーンを最適化する「物流コントロールタワー」構想だ。エンジニア不在、Excel管理の限界という壁を乗り越え、いかにしてデータ基盤を構築し、年間200時間の工数削減を成し遂げたのか。【訂正あり】
「Excelで十分」、部内の抵抗を乗り越え運用開始
この課題を解決すべく、2022年より物流システム部で検討を開始。2023年6月に、クラウドベースの統合型BI(Business Intelligence)ツール「Domo」を採用した。同ツールを選んだ理由は、当時、部内には専門のエンジニア人材が不足していたため、ノーコードでデータの収集や共有ができる点を評価した。続く半年間を、同部が「物流情報基盤」と呼ぶデータ基盤をDomo上で構築する作業に充て、2023年12月より本格活用を開始した。
物流情報基盤の構築に当たっては、同部の基幹システムや貿易情報管理システムなどに格納されている各種実績データをツール上へ取り込むことで、ダッシュボードを作成した。
導入当初は、「従来のExcelで十分」「新しく手順を覚えるのは手間」という部内の抵抗もあったという。しかし、開発担当の2人が「1時間を要していたデータ作業が1分で完了する」といった具体的な導入効果を説明し、操作レクリエーションを実施することで、組織への浸透を図った。開発担当を担ったヤマハ 物流システム部企画管理グループの福井真子氏は、「現在もダッシュボードの構築は開発担当が担い、他のメンバーはデータ活用に専念してもらうという役割分担を取っている」と語る。
現在、この「物流情報基盤」上で15のダッシュボードが稼働している。その活用領域は、調達/生産物流領域(材料調達費、工場間輸送費)、域間物流領域(支払い関税額、節税額、HSコード管理、証明書作成)、海上/航空輸送領域(海上輸送実績、航空輸送実績、海上輸送リードタイム、コンテナ積載率)、倉庫領域(倉庫管理費、物量、入出庫予測)、国内輸送領域(販社輸送費、販社倉庫費)と、物流業務の広範囲をカバーする。
リードタイムから積載率まで――可視化がもたらした業務変革
これらにより、具体的な業務効率化にもつながった。
1つ目は、「海上輸送リードタイムの可視化」と「事業者評価への活用」である。システム上では、コンテナの追跡情報と、輸送エリア別のリードタイム実績を常時モニタリングしている。この実績データに、各船社との契約日数を突合させることで、船社ごとの契約順守状況(契約日数を超過したコンテナなど)を自動で可視化。システム導入前は膨大な集計作業を要していたが、更新時期に限らず常に定量的な評価が可能となった。
2つ目は、「倉庫業務と在庫対応の迅速化」である。基幹システムから各倉庫の在庫物量と入出庫データを取り込み、倉庫事業者とリアルタイムで情報を共有。これにより、事業者側も数カ月先までの倉庫スペースの状況把握とリソースの効率化が可能となり、急激な在庫量の増減に対しても迅速に対応できる体制が構築された。
3つ目は「海上コンテナ積載率の最適化」だ。各輸送時の物量データから、積載率(積載重量÷コンテナの最大積載量)を可視化し、積載率が低いコンテナを特定。対象のコンテナは貨物の組み合わせ変更などで積載率の改善を実施している。システム上で「平均積載率は適切な範囲か?」といった指標(ビジネスクエスチョン)を常時監視できる体制を整えた。
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