環境を切り口に“売った後に価値が上がるモノづくり”に挑戦するパナソニックHD:製造業は環境にどこまで本気で取り組むべきか(5/5 ページ)
2022年に環境コンセプト「Panasonic GREEN IMPACT」を発表し着実にアクションをとり続けているのがパナソニックグループだ。同社グループの環境問題についての考え方や取り組みについて、パナソニック ホールディングスのグループCTOである小川立夫氏に話を聞いた。
プラスチック代替材料の開発を推進
MONOist 資源循環や脱炭素において、期待する新技術というのはありますか。
小川氏 プラスチック代替材料については高い関心があります。樹脂素材メーカーに話を聞くと環境関連では2つのことに取り組んでいると聞きます。1つは、CO2から樹脂を作るCO2由来プラスチックです。パナソニック ホールディングスとしても基礎研究はやっていますが、素材メーカーはかなり積極的に取り組んでいると聞いていますので、開発状況を見ながら協業なども検討していきたいと考えています。
もう1つは、難燃剤や可塑剤などを含まない単一素材で付加特性を持つプラスチック材料です。プラスチックのリサイクルがなぜ難しいのかというと、添加剤が入っているためです。単一材料で特性を上げることができれば、添加剤を加える必要がなくなり、リサイクルを行っても回収材料の高い品質を確保できるようになります。こういう動きについても注視しながら積極的に取り込んでいくつもりです。
同様に自社内の技術でいくと、高濃度セルロースファイバー成形材料である「kinari」に期待しています。kinariは最大85%の植物繊維(セルロース)を含む植物ベースの高機能素材で、性能的に石油由来樹脂と比べてそん色ない一方で環境にやさしく軽いという特色があります。GFRP(ガラス強化繊維プラスチック)の代替素材として使えると考えて、用途開発を進めているところです。GFRPは廃棄されると再生できないという弱点があります。一方で、kinariは数回のリサイクルであれば同じ特性を維持できるため、資源循環の点でも強みがあります。現在使われている樹脂素材の一部は置き換えていけると考えています。
kinariは、既に京都府の福知山市の中学校の給食用食器として使用されている他、パナソニックグループ内でも試験的に掃除機の一部で採用されるなど、採用領域を増やしていっています。さらに将来性を見据えて現在車載用途でもさまざまな信頼性試験を進めているところです。具体的な採用につながるかどうかは分かりませんが、車載用途での品質が確保できることが証明できれば、他の用途にも容易に転用できます。R&Dのマイルストーンとして、現在検証を進めているところです。
また、プラスチックに関しては「使いながら価値が上がる素材」の開発ができないかというのは常に考えています。木や革の製品では、人の手に触れて使われることで風合いが高まり製品としての価値が上がるようなことが起こります。しかし、プラスチック製品では人の手に触れると徐々に劣化し価値が落ちていきます。プラスチックでハードウェアとしての価値が高められるようなものが開発できないかというのは大きなテーマです。
サステナビリティプラットフォームの準備と活用を推進
MONOist 現在最も力を入れていることは何ですか。
小川氏 主に2つの点に力を入れています。1つ目は環境に関するデータをどうやって自動で取れるようにするかという仕組み作りです。環境関連情報を事業会社間に横ぐしで扱えるようにするサステナビリティプラットフォームの整備を進めています。まず、これを最初のドライバーとし、共通の情報で環境への取り組みを測れるようにします。各種規制にもこのプラットフォームの情報を活用していくつもりです。
具体的にどういう情報を入れていくかは事業会社に任せていますが、欧州のデジタルプロダクトパスポートもまだどういう形式でどういう情報まで入れるか揺れている状況ですので、WBCSDなどの世界の動きやJEITA(電子技術産業協会)などで進めている国内での取り組みを見据えつつ、これらに対応できる仕組みを作っていきます。生産技術の面でも、レトロフィットで古い機械からもカーボンフットプリント情報を取得できるような仕組みは開発してます。ただ、全てを完璧にやろうとしすぎても投資とのバランスが難しくなりますので、さまざまな準備は進めつつ、規制の状況や影響の深刻度を見据えながら導入していく考えです。
2つ目は、環境問題に関する設備投資を行う際の見積もりにおいて、指標の1つとして、仮想的にCO2排出量とそれに伴うカーボンプライシングを導入していることです。カーボンプライシングでの数値を加えた上で、投資対効果が見込めるのであれば、そちらを進んで採用するようにすることで、環境に配慮した投資が進みやすくしています。実際にこの指標を基に環境対応設備への置き換えが進んだ例もあります。常に投資の判断基準として環境への取り組みを踏まえたものになれば勝手に環境負荷の低い設備へと切り替えが進んでいきます。今後炭素税などが導入されるとさらに加速すると見ています。
想像できない常識の変化を想定しつつ備える
MONOist 今後の目標について教えてください。
小川氏 「Panasonic GREEN IMPACT」を通じて、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブを一体で考えていくビジョンはできたと考えています。また、それを実現するための、製品設計の変更やさまざまなリサイクル技術の開発など、一定のアイテムはそろってきました。
しかし、今実際にモノづくりを行っているところに対し、何をしていくのかという点については、まだまだ発信の仕方を考える必要があると考えています。20年単位で考えなければならないもの、10年単位で考えるもの、3年単位で考えるものなど、要求される時間軸を分けながら、確実にやれることを進めていきます。また、こうした一つ一つの活動をレベルを下げずに進めていきたいと考えています。
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