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求められる供給網全体の可視化、CO2排出量見える化の国内ルール整備の現状脱炭素

ライブ配信セミナー「カーボンニュートラルテクノロジーフェア 2023冬 製造業の技術と持続可能な未来を考える」で実施した、Green x Digitalコンソーシアム 見える化WG主査 稲垣孝一氏による基調講演を紹介する。

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 アイティメディアにおける産業向けメディアであるMONOistとEE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンは、ライブ配信セミナー「カーボンニュートラルテクノロジーフェア 2023冬 製造業の技術と持続可能な未来を考える」を11月27〜28日の両日で開催した。ここでは、セミナーで実施されたGreen x Digitalコンソーシアム 見える化WG主査 稲垣孝一氏による、「Green x Digitalコンソーシアム サプライチェーンCO2データ見える化に向けた取り組みと成果」と題した基調講演を紹介する。

企業によるカーボンニュートラル推進の動きが一層強まる

 企業がグリーン化を進める上で、ICTの活用は不可欠となっている。そのためICTを提供する側の企業と使う側の企業が一堂に集まる場を作ろうと、電子情報技術産業協会(JEITA)が立ち上げたのが「Green x Digitalコンソーシアム」だ。同コンソーシアムの見える化WG(ワーキンググループ)には多様な業種の企業が参画している。

Green x Digitalコンソーシアム 見える化WG主査 稲垣孝一氏
Green x Digitalコンソーシアム 見える化WG主査 稲垣孝一氏

 稲垣氏はセミナーを通じて、CO2見える化の重要性、CO2排出データ算定ルール、算定したデータの企業間連携のための技術仕様、それらルールと仕様の実証を通じて得られた成果や今後の課題について述べた。CO2排出量の可視化を目指して実施した、デジタル技術を活用した企業間データ連携の実証実験なども紹介した。

 国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃以下に保持し、1.5℃に抑える努力をする、という目標を盛り込んだ「パリ協定」が採択された。また、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の「グラスゴー気候合意」では同1.5℃以内に抑える努力を追求することが決定され、そのために2050年までのCO2排出量の実質ゼロ化がより強く意識されることとなった。世界のほとんどの国が、同年までにカーボンニュートラルを目指す動きをみせている。

 サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを実現しようとする企業の動きも強まってきた。こうした取り組みを評価する組織もあり、投資家もその企業の動きに注目している。

サプライヤーの削減努力をどう反映するか

 サプライチェーンでのCO2排出量算定は基本的に、スコープ1、2、3の3つに分類される。スコープ1(燃料の使用などによる排出)、スコープ2(電気など購入したエネルギー使用に伴う排出)は企業からの直接排出であり、使用量に応じて使った企業が責任をもって対処することになっている。

 従来はスコープ1、2のCO2排出量を減らすことが主な課題だった。しかし現在は、スコープ3にも対応しなければならない。サプライチェーンの上流から下流までの排出量(サプライチェーン排出量)について、CO2削減を目指す必要がある。

 企業はサプライチェーン排出量を集計、開示しているが、これらの算定方法は調達額を基に排出単位を使用して算定することが多い。そのため、例えばカテゴリ1(調達した製品・サービスからの排出)では調達額を抑えないと排出量が減らず、サプライヤーによるCO2排出量の削減努力が反映されづらいという課題がある。

 これに対して見える化WGではデジタル技術を活用して、サプライチェーン全体のCO2データを見える化し、企業間での取引がCO2データをバケツリレーのようにつなげていき、積み上げ方式で排出量を算定する仕組みづくりを目指す。当然海外とも連携しグローバルで実現できるようにする。

「CO2可視化フレームワーク」とは

 見える化WGは2021年11月から活動を開始。当初、メンバー企業は47社だったが、2023年9月時点で139社まで拡大した。参加企業の業種は多種多様だ。同WGのメンバーには排出量算定サービス提供企業も含まれている。今後、削減に向けた取り組みを進める中で、企業間でのデータをバケツリレー方式で連携していくことで、CO2の積み上げ算定ができる仕組みを構築するため、仕組みづくりに早くから参加することで、他社に先行してサービスが提供できる可能性もある。

 見える化WGは最初に、一次レポートとして参加企業の目指す方向を1つにする目線合わせを行った(準備フェーズ)。次に、共通の算定/共有の方法論(ルール)やデータ連携の技術仕様を策定した(検討フェーズ)。実証フェーズでは、ルールや技術仕様をもとに実証実験を行い、その結果を方法論などにフィードバックする作業を進めている。こうした取り組みは、海外ではWBCSD(World Business Council for Sustainable Development、持続可能な開発のための世界経済人会議)が立ち上げた「Partnership for Carbon Transparency(PACT、炭素の透明性のためのパートナーシップ)」が先行して取り組んでおり、見える化WGはPACTと連携ながら活動を進めている。

 策定したルール/技術仕様は「CO2可視化フレームワーク」と名付けた。サプライチェーン全体でのCO2排出量データの算定方式と共有方法(データ品質の開示方法)を提示する文書だ。

 想定される利用者は、CO2データを算定/共有するサプライヤー企業、CO2データの算定/共有を支援するソリューション企業、CO2データを受領するバイヤー企業、CO2データの検証や保証を行う企業などがある。サプライヤー企業によるCO2排出量の削減努力を適切に評価するため、一次データを使い経時的に評価できるようにすることを目指す。

2軸で進める社会実装

 稲垣氏はCO2可視化フレームワークについて、これまで実現が難しかった以下の課題に対して、解決策を示すことができた」と評価している。

  1. 国際的に通用するCO2排出量算定の方法論/データ品質を目指している
  2. 多様な事業者の参加を可能にした
  3. 一次データ活用の促進と秘密情報の保護を両立している
  4. 最上流の排出量までカバーできる
  5. 既存のスタンダードと共存可能
  6. ユーザーがある程度のデータ分析を行える

 実証実験ではCO2可視化フレームワークでの算定や、企業間におけるデータ連携のための技術仕様が確認できた。今後は社会実装フェーズに向けて、さまざまな企業に使用してもらうために2軸でアクションを進める計画だ。1つは、「フレームワーク」と「技術仕様」を広めるなどの普及活動に力を注ぐという軸。もう1つは、物流部門のデータも連携できる仕組みの検討という軸だ。見える化WGが策定したフレームワークや技術仕様が、今後Scope3排出量削減に取り組む全ての企業の拠り所となることが期待される。

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