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進む脱炭素のルールメイキング、2023年以降の製造業に影響し得る2つの動きMONOist 2023年展望(1/2 ページ)

2022年、国内産業界でもカーボンニュートラル実現に向けたさまざまなルールや枠組み作りが加速した。こうしたルール作りの中でも今後製造業に少なからず影響を与えるテーマとして、「CO2排出量見える化」と「カーボンプライシング」の2つを取り上げたい。

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 2022年、国内産業界でもカーボンニュートラル実現に向けたさまざまなルールや枠組み作りが加速した。こうしたルール作りの中でも今後製造業に少なからず影響を与えるテーマとして、「CO2排出量見える化」と「カーボンプライシング」の2つを取り上げたい。これらのトピックはいずれも2022年内に大きな動きがあり、2023年にも社会への仕組み実装や議論本格化に向けて進展があると予想される。

見える化に向けてルール作りが進む

 CO2排出量の削減を本格化するに当たり、まず企業が取り組まなければならないのが排出量の見える化だ。取り組みの程度には各社で差があり、中にはまだ全く算定に必要なデータを収集できておらず、算定の方法も把握しきれていないという企業もあるだろう。しかもGHGプロトコルにおける「スコープ3」では、自社の工場やオフィスからの排出量だけでなく、サプライチェーンの上流から下流まで全体の排出量を可視化しなければならない。自社内だけの見える化よりはるかに難易度は高い。


スコープ3の概要[クリックして拡大] 出所:環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ「サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて」[リンク先PDF]

 さらにスコープ3の可視化では、取引先や顧客間での排出量に関するデータの受け渡しが必要になる。しかしここで課題になるのが、データ交換をどのような共通のルールで行うかという点だ。企業によって算定対象とする品目やデータ収集の方法が異なるままではデータ交換、連携がスムーズに行えない。また各社で算定に使うソリューション、ツールなどが異なる中、本当に信頼性の高いデータ交換が可能になるのかも検証する必要があるだろう。さらに、こうした問題を解決して行く上では、欧州などを中心に広がるルール作りの動きも参照しなければならない。

 こうした課題認識のもとに国内でのルール作りに取り組むのが、電子情報技術産業協会(JEITA)の部会である「Green x Digitalコンソーシアム」だ。「見える化ワーキンググループ(見える化WG)」の活動を通じて、サプライチェーン全体でのCO2排出量見える化に関する議論を進めている。Green x Digitalコンソーシアムには2022年11月30日時点で賛助会員を含めて、製造業や情報通信、建設、金融などさまざまな業界から136社が参加する。


Green x Digitalコンソーシアムの概要[クリックして拡大] 出所:Green x Digital コンソーシアム

 見える化WGではCO2排出量のデータ収集、算定、企業間での共有方法に加えて、データフォーマットの統一化や、海外企業も含めたグローバルでのデータ連携などについても検討している。検討に当たっては、スコープ3の算定方法としてはWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)が主催するPACT(Partnership of Carbon Transparency)が発行するCO2データ算定、共有方法のガイド「Pathfinder Framework」を参照する。


PACTの概要[クリックして拡大] 出所:Green x Digital コンソーシアム

 この他、企業間でのGHG排出量削減努力を適切に反映するためにCO2排出量の実績値である「1次データ」の活用可能性や、異なるCO2排出量算定、見える化ソリューション間でのデータ交換のためのルールやフォーマット作りも行っている。

見える化に向けた実証実験が2023年に完了

 見える化WGでは設立された2021年11月以降の活動内容を、「準備フェーズ」「検討フェーズ」「実証フェーズ」の3つに分割してスケジューリングしている。この内、「検討フェーズ」までは2022年中に完了し、現在は「実証フェーズ」に入っている。2022年12月には、さまざまな業界の企業が共通方式で算定したCO2排出量のデータを異なるソリューション間でデータ連携し、サプライチェーン上のCO2排出量を正確に把握できると確認するための実証実験を開始した。

 この実証実験も2つのフェーズで構成されており、2023年1月末までのフェーズ1ではデータ連携の技術検証を、同年6月末までのフェーズ2ではソリューションのユーザー企業による製品、組織レベルでのデータ交換や、CO2算定も含めた実務検証をそれぞれ実施する予定だ。つまり、実証実験自体は2023年内に完了の見込みで、無事にスケジュール通りに進めば同年から社会実装に向けた取り組みが本格化することになるだろう。

 当然だが、実証実験が完了したからといってJEITAに関連した業界で共通ルールのへの理解や順守、そして一次データの活用が一気に進むわけではないだろう。企業によって業種や企業規模、社内の組織体制や脱炭素関連の知識を備えた人材の有無、カーボンニュートラルの重要性に対する理解や取り組みの程度は異なる。ルールなどの社会実装に向けて、十分な時間的猶予は必要になる。

 ただ、これらの社会実装に向けて産業全体でのCO2排出量見える化が、これまでより強く求められることになるのは間違いない。見える化のために求められる排出量算定のルールは複雑な上、データ収集には社内のデジタル化が必須となる。一朝一夕に実現できるものではない。さらに言えば、見える化はCO2排出量削減に向けた「前提条件」でしかなく、カーボンニュートラル実現において本質的に重要になる排出量削減プロセスがその後に控えている。2023年以降の展開を見据え、CO2排出量を迅速に見える化に取り組むための準備の年とすべきだ。

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