進む脱炭素のルールメイキング、2023年以降の製造業に影響し得る2つの動き:MONOist 2023年展望(2/2 ページ)
2022年、国内産業界でもカーボンニュートラル実現に向けたさまざまなルールや枠組み作りが加速した。こうしたルール作りの中でも今後製造業に少なからず影響を与えるテーマとして、「CO2排出量見える化」と「カーボンプライシング」の2つを取り上げたい。
「GXリーグ」始動で排出量取引の議論も本格化
CO2排出量見える化のルール作りに加えて、2022年には国内でも「カーボンプライシング」を巡る動きが目立った。カーボンプライシングとは、その名の通り企業などによるCO2の排出に価格を付けることである。不要なコスト増加を避けるために企業がCO2排出量の削減に一層取り組むことで、カーボンニュートラル達成を目指すインセンティブを与える。国内全体で本格的に導入が進めば、製造業も当然に影響を受ける。
カーボンプライシングには大きく分けて、CO2排出量に対して固定価格を課す炭素税などの「価格アプローチ」と、CO2排出量の量的コントロールを目的とした排出量取引などの「数量アプローチ」の2つがある。
炭素税については、政府による「GX実行会議」などで、化石燃料の輸入事業者を対象に「炭素に対する賦課金」を2028年度に導入すると明言されている。一方の排出量取引制度についても、2022年に経済産業省が主導する「GXリーグ」による取り組みが開始するなどの動きが出ている。ここでは特に排出量取引制度の話を取り上げたい。
GXリーグはカーボンニュートラル達成に向けた自主的な排出量取引の実現を目標に掲げている。GXリーグのWebサイトによると、基本構想には2022年11月までに599社が賛同を表明している。製造業ではトヨタ自動車や日立製作所、日本製鉄、パナソニック ホールディングスなどの企業が賛同リストに名を連ねている。
そもそも排出量取引制度とは、企業のCO2などGHG排出量に一定の量的な枠を設け、それを超過した企業は、排出量をより少なく抑えた企業から空いた枠分を購入するという制度である。GXリーグにおける排出量取引(以下、GX-ETS)では、「カーボンクレジット市場」を介した排出枠の「超過削減枠」についての取引が想定されている。市場ではこの他、J-クレジットやJCM(二国間クレジット)といったカーボンクレジットの売買も可能だ。
制度作りには課題も山積み
カーボンクレジット市場については、東京証券取引所が2022年9月に国の実証実験として取引を開始しており、2023年4月以降の本格化を予定している。GXリーグは企業の自主的な参画を前提としており、GX-ETSでもGHGの削減目標値については国の指針を踏まえた「意欲的な」目標設定が求められている。企業はその目標値に対する過不足量に応じて超過削減枠などの売買を行うことになる。
特に製造業は産業界においてCO2排出の総量が大きく、排出量削減に向けた一層の取り組みが必要とされている。この中で排出量取引制度はカーボンニュートラル実現に向けた有力な手段の1つとして重要な位置付けとなることが予想される。
ただ、GX-ETSの本格化に向けた制度設計は課題がまだまだ残されている。まず、前提として各企業間のCO2排出量のデータ収集、算定の仕組みが共通ルールにのっとったものとなっている必要がある。さらに、排出削減量の算定対象となる製品や範囲(スコープ)をどう設定するかといった問題や、CO2を産業に活用するカーボンリサイクルなどはどう扱うのかといった問題も存在する。
またそもそも、排出量取引制度は企業が自社のCO2排出量を見える化していることを前提としている。大企業に比べて見える化の取り組み自体が進んでいない中小企業などでは制度への参画が難しい。もっとも、こうした課題点や疑問点を各企業が業界の垣根を越えて議論するというのがGXリーグの創設意義でもある。ルールメイキングを巡る議論の進展に製造業でも今後注意を払っていく必要があるだろう。
EUによる国境炭素調整措置にも注目
カーボンプライシングに関連して、国外の話ではあるが2022年に生じた注目トピックをもう1つ取り上げたい。2022年12月、欧州連合(EU)が国境炭素調整措置(CBAM)を導入することで暫定的な合意に達したと発表した。2023年10月からの本格施行となる。
CBAMは「国境炭素税」とも呼ばれる制度だ。このEUの事例のでいえば、二酸化炭素などの温室効果ガス(GHG)排出に関する規制が緩いEU域外の国から輸入された品物に対して、一定の支払いを義務付ける。いわゆるカーボンリーケージ対策として効果を上げることが期待されている。
EUによるCBAMの対象となる品目は。鉄鋼やセメント、アルミニウム、水素などとされており、いずれも日本からの輸出実績はほとんどない。この意味で日本の国内製造業に他する影響度合いは限定的なものといえるだろう。ただし、今後これらの対象品目は拡大することが予想される。欧州企業との取引がある国内企業や、欧州現地に工場を構える企業などは、今後の動向を気に掛けておくべきだ。
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