CO2データの企業間連携の実現性を確認、供給網の排出量見える化に向けて前進:脱炭素
電子情報技術産業協会は2023年8月4日、仮想サプライチェーン上でのCO2データ連携の実証実験に成功したことを発表した。
電子情報技術産業協会(JEITA)は2023年8月4日、仮想サプライチェーン上でのCO2データ連携の実証実験に成功したことを発表した。業界横断的なCO2データ交換を実現した、日本初の事例だとしている。
可視化フレームワークとデータ連携の技術仕様の有効性を検証
近年、カーボンニュートラル実現に向けた社会的な機運の高まりとともに、産業界においてもサプライチェーン全体のCO2排出量の削減、またそのための排出量見える化に向けた取り組みが急務となっている。
特に見える化に関して、JEITAでは2021年にカーボンニュートラル実現の多面デジタル技術やソリューション創出などを目的に「Green x Digitalコンソーシアム」を立ち上げ、その一部会として「見える化ワーキンググループ(WG)」を設置して社会実装に向けた取り組みを進めている。見える化WGにはサブワーキンググループ(SWG)として「ルール化検討SWG」や「データフォーマット・連携検討SWG」などが設置されており、今回の実証実験に関わった。
ルール化検討SWGでは、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が主催しているPACT(The Partnership for Carbon Transparency)が発行するCO2排出量データの算定、共有のフレームワーク「Pathfinder Framework」を参照して「CO2可視化フレームワーク」を作成した。また、データフォーマット・連携検討SWGでは企業間でのCO2排出量データの交換方法を提案する「データ連携のための技術仕様」を提示している。今回の実証実験は、これらに基づくCO2排出量データ交換の実現性に関して検証を行うものだ。2023年1月に実施したソリューション間での排出量データ交換を試験する「フェーズ1」に続く、「フェーズ2」と位置付けて実施した。
実証実験では、参加企業を完成品メーカー(Tier0)と製品部品を供給する企業(Tier1、2)の役割にそれぞれ振り分けて仮想的なサプライチェーンを構築し、企業間でのCO2データ交換に関する検証を行った。参加企業数は、ソリューション提供企業とソリューションユーザー企業の双方で参加する企業を含めて32社で以下の通り。
- プロジェクトマネージャ:富士通、みずほリサーチ&テクノロジーズ
- プロジェクトマネジメントオフィス:Ridgelinez
- ソリューション提供企業(18社):アスエネ、アビームコンサルティング、ウイングアーク1st、SBI R3 Japan、NTTデータグループ、鈴与商事、ゼロボード、chaintope、デロイト トーマツ コンサルティング、東芝、NEC、日本オラクル、野村総合研究所、PID、日立製作所、日立ソリューションズ、booost technologies、富士通
- ソリューションユーザー企業(18社):アイシン、NTTデータグループ、川崎重工業、キヤノン、住友電気工業、大日本印刷、東芝、長瀬産業、日東電工、NEC、ネットワンシステムズ、日立製作所、富士通、ブラザー工業、本田技研工業、みずほリサーチ&テクノロジーズ、三井物産、ユニ・チャーム
今回の仮想サプライチェーンでは、Tier1、2役の企業が「フラッシュメモリ」や「SSD」などをTier0役の企業に供給して、最終製品としてPCを組み上げるケースを想定する。CO2可視化フレームワークに基づきTier1、Tier2役の企業が自社内でCO2データを算定できるか、CO2見える化ソリューション間でデータ交換が行えるかなどを確認した。見える化ソリューションは実証実験に参加したITベンダーの製品を実際に活用して検証した。
実証実験の結果、共通の算定方法と連携のためのフォーマットを活用して、仮想サプライチェーンの上流から下流までのCO2排出量データの受け渡しを行うことが確認できたとする。一定の成果が見られたことで、今後、2023年7月〜2024年3月頃の期間で、CO2可視化フレームワークとデータ連携のための技術仕様の社会実装に向けた取り組みを進める。CO2可視化フレームワークとデータ連携のための技術仕様の認知度向上などに加えて、PACTの動向に合わせたアップデートを行っていく。
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