環境を切り口に“売った後に価値が上がるモノづくり”に挑戦するパナソニックHD:製造業は環境にどこまで本気で取り組むべきか(4/5 ページ)
2022年に環境コンセプト「Panasonic GREEN IMPACT」を発表し着実にアクションをとり続けているのがパナソニックグループだ。同社グループの環境問題についての考え方や取り組みについて、パナソニック ホールディングスのグループCTOである小川立夫氏に話を聞いた。
資源循環に合わせた製品設計やビジネスモデルの変革を推進
MONOist 製品ライフサイクル全体を想定して価値を設計するモノづくりとなると、製品そのものの全体構成や、ビジネスモデルそのものも大きく変わりますね。
小川氏 製品によっては、製品機能に関わるソフトウェアの領域や製品から生まれるデータを蓄積するという面で、パナソニックグループ内で抱えるデータ基盤と製品がつながりを持ち続けるところも生まれてきますし、ハードウェアについても内蔵された基盤や部品のモジュールを交換するサービスを通じてつながりを維持し続ける形が想定されます。そうなるとサブスクリプション型などビジネスモデルも変わっていく可能性もあります。
モノづくりの面でも、販売後も部品交換や機能向上を想定するのであれば、モジュラー設計のようにブロックを組み合わせて作る形へ変えていくことが求められます。当然、設計段階で廃棄コストや資源循環のコストなども想定するようになるため、製品コストについての考え方も大きく変化することになるでしょう。
こうした取り組みは、モノづくりの仕組み全体を変えるようなことになるため、われわれもすぐに実現できるとは考えていません。しかし、従来の大量生産型でとにかくライン効率を上げてコストを下げるような競争は限界が来ており、顧客の手元にわたってからも価値が上がるモノづくりを目指すのであれば、仕組みから変えなければなりません。今の事業形態を守りつつどうトランジションしていくかの悩みはありますが、社内外でこうした考え方に賛同してもらえる人を増やしていくことが重要だと考えています。
既に欧州の家電メーカーでは、長く使ってもらうために、部品を長い期間で保有し、基本モジュールの寸法や仕様などを変えず、これらを入れ替えながら長く使い続けることができるようなビジネスモデルを展開しています。そして、家電製品でありながら、親から子へと伝えていくような文化も生まれています。われわれもそれを素直に見習って学べるところを学んでいきたいと考えています。
テクノロジーによるブレークスルーで資源循環できる領域を拡大
MONOist リサイクルを進めるのに回収強化への動きや、分解容易性についての取り組みは行っているのでしょうか。
小川氏 現在でもリサイクル工場での回収やリサイクルを進めている他、分別できない部分も三菱マテリアルとの協業で製錬して金属とする取り組みなどを行っています。最終的にはそれも減らしていけるように、新たな施策を考えていくつもりです。
分解容易性についても、シミュレーションなどを活用して、考慮すべき点としたうえで設計を行う形へ変えていきます。現状では、こうした負担が手間やコストと捉えられがちですが、例えば資源がより不足し、資源価格が上がり、さらに廃棄コストが上がっていけば、回収した方がコストが安いという社会環境になるかもしれません。そうなると、回収を前提とした設計にせざるを得なくなります。そして、地球環境の現状を見ると、将来的にはそういう方向性に進むと考えており、そこに先駆けて合わせていくことが重要だと考えています。
MONOist 資源循環に向けて回収も含めた取り組みを進めている分野はありますか。
小川氏 家電リサイクル法に関する領域については既に行っていますが、喫緊の課題として現在パートナーも含めて仕組みを構築しようとしているのが、車載用リチウム電池です。回収事業者と協業し、もとの材料に戻して再度電池に使えるようにする仕組みを想定して取り組んでいます。欧州バッテリー規制(※)もあるため、米国のバッテリーリサイクル事業者であるレッドウッドなどと組み、急いで仕組みの構築を進めているところです。
(※)欧州バッテリー規制:バッテリーについて、調達、製造、使用、リサイクルを1つの法律で規定したライフサイクルアプローチを採用した法律。使用済みバッテリーの回収率や原材料の再資源化率についての目標が設定されており、一部のバッテリーでは回収した原材料を一定の割合で再利用することが義務付けられている
将来的には、回収を行ってもコストが合う仕組みの構築を目指しています。例えば、希少金属を劣悪な環境である鉱山から掘り出さなくても、都市で流通している製品から回収できるのであれば、総合的な環境負荷を抑えることができるようになります。
既に車載用リチウムイオン電池についても、レッドウッドを通じて回収された電池材料も品質として評価できるものになってきています。もともとの資源価格も高騰しているため、回収量を確保できると採算性も確保できるものになります。また、鉛蓄電池や紙、一部のペットボトル用素材など、採算性を確保した上で資源循環が実現できている製品領域はいくつもあり、条件さえ整えばさまざまな素材でも実現できると考えています。
プラスチックなどはまだまだ難しいですが、リサイクル工場での実績を聞いていると、ちゃんと分類できれば、品質の高いプラスチックが再生できます。現在は全てを破砕して分類するというやり方ですが、例えば、冷蔵庫の中の棚などは、紫外線による劣化もなく、素材の純度も高いため、集められればバージン材に近い品質特性を確保できます。設計時から分解しやすさを考慮し、さらに自動化を進めることができれば、こうしたコストは大きく低減することができ、採算性を確保できる領域を増やすことができます。
また、製品ライフサイクルの総合的な環境負荷を見えるようにする仕組みも製品領域によっては作っていくべきだと考えています。使った後も環境負荷やコストが発生していることを示し、そこを正しく認識した上で消費者が選択できるようにしていけば、環境貢献度を製品選択の1つのポイントにできるかもしれません。1社では難しいかもしれませんが、製品ライフサイクルにおける社会コストを正しく見せていくために各所に働きかけていきたいと思っています。
まだまだ資源循環については、技術もアイデアも不足しておりやるべきことは非常に多くあります。だからこそ、われわれがテクノロジーで解決すべき価値のある領域だと捉えています。
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