スケートボードから万能人型ロボットの開発へ「ロボットスケートパーク」を公開:ロボット開発クローズアップ(3/3 ページ)
ATR(国際電気通信基礎技術研究所)は、人の脳波や筋電、モーションキャプチャーなどのデータ収集と、ヒューマノイドロボットによる学習実験を並行/連携して実施できる「ロボットスケートパーク」をメディア向けに公開した。
サイボーグAIの研究開発を進める上でスケートボードを課題にした理由
ロボットスケートパークで行っている「人と共に進化するAIシステムのフレームワーク開発/サイボーグAIに関する研究開発」の背景について、ATR 脳情報解析研究所所長の石井信氏が説明した。
現在、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少などの社会課題があり、その課題解決に向けた技術の一つとしてAIに期待が寄せられている。既に、大量生産や大量輸送の現場ではAIを搭載したロボット技術も実用に近づきつつある。例えば、深層学習によって画像から物体を認識しロボットに把持させることは90%の精度で行えるようになっている。しかしそのためには膨大なデータを学習する必要がある。
膨大なデータの学習が必要ということは、工場であれば適用する場面が多いであろう大量生産ラインでは活用しやすいが、多品種少量生産のラインに合わせて何度も膨大なデータを使って学習を行うのはメリットが大きいとはいえない。求められているのは、少ないデータでも学習できるAIであり、ロボットが人間のように多様なタスクに対応できることなのだ。
このような課題を解決するためにATRが研究開発を進めているのが、人・AI共進化を目指すサイボーグAIである。人間の動作をロボットに遷移させ、ロボットにとって最適化された動作で人間の運動を支援する。人間とサイボーグAI、人間とロボットの共生化を図るというコンセプトになっている。
サイボーグAIについては、多くの分野で使ってもらうために、共通基盤技術の開発を目指しているそうだ。ロボットスケートパークに企業が集まり共同研究などの拠点になればと願っている。
石井氏によれば、サイボーグAIの研究開発を進める上でスケートボードを課題にした理由は以下の4つに分けられるという。
- スケートボードは習得が難しく、複雑でダイナミックな全身運動である
- スケートボードでは、自由度が高い身体を状況に応じて適応的に制御することが必要である
- さまざまな動きに関わるシナジーの系列とその中でのシナジー間の遷移が必要である
- AIによりロボットにさせるタスクとして十分に難易度が高く、AI搭載型ロボティクス研究のベンチマークとなる
これらに加えて、スケートボードの車輪を人間やロボットが直接コントロールできないことも重要だ。上半身と腰の位置、膝や足首の関節を動かすことで、間接的に車輪を制御する。それができなければスケートボードで滑ることはできない。そのために、ヒューマノイドロボットは、リアルタイムな時間軸の中で物理法則に従った動作も求められる。
なお、ここで言うシナジーとは、人間(や動物)においてそれを適応的に駆動することでさまざまな運動機能を実現可能とする動作パターンのことをいう。ロボットがさまざまな環境でロバストかつ適応的に複雑な運動を実現するためには、シナジーをAI制御器に持たせることが有効になるという。
なお、スケートボード実験施設のサイズは幅7×奥行き4.5×高さ1.1m。これを囲むように、運動計測のためのモーションキャプチャーシステム「OptiTrack(オプティトラック)」を4台設置している。OptiTrackは、複数台のカメラで対象を囲い、対象の位置をトラッキングする光学式モーションキャプチャーシステムで、赤外線により運動中の関節位置を計測する。
これとは別に、スケートボードを行う人は運動計測システムである「Xsens MOCAP」により全身の体節に装着した17個のIMUを使って全身の動きを計測している。また、筋電計の「Delsys」も全身に16個装着している。Delsysはワイヤレスシステムであり、装着した16カ所の値を同時に記録できる。
脳波計は、Cognionicsの72チャンネルの湿式ワイヤレスシステムを装着している。極めて薄型なので、この脳波計の上から安全確保のためのヘルメットを装着することも可能だ。また足圧計「Loadsol」を組み込んだ靴も用いる。これらのセンサーを駆使してスケートボードを行う人の運動状態や生体状態、脳の状態を同時に計測し、収集したデータを基に仮想空間におけるシミュレーションを繰り返すことが可能になる。
今後、NEDOとATRは、ロボットスケートパークの環境拡充を加速し、サイボーグAIに関する基本技術の開発加速を図るとともに、さまざまな分野の研究者が人・AI共進化の共同研究などを実施できる拠点を目指す。
また、2024年度には「NEDO懸賞金活用型プログラム」の中で「ロボットスケートパーク」環境で収集したデータを活用したコンテストの開催を予定しており、両者が連携してコンテストのデータ整備のための調査を実施していくとしている。
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