「3DEXPERIENCE World 2024」を通じて考える3D設計の未来と設計開発環境の在り方:3D設計の未来(7)(2/2 ページ)
機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第7回は、米国で開催された「3DEXPERIENCE World 2024」で発信されたメッセージを踏まえ、設計開発環境の在り方、3D設計の未来について考える。
目指すべき設計開発環境の在り方を構想してみる
3DEXPERIENCE World 2024でたくさんの刺激を受けた筆者は、あらためて自身が目標とする設計開発環境、製造環境の在り方について考えてみました。
まず、筆者自身に今求められていることを整理してみました。
- 短期間での開発
- 複数拠点による設計
- 製品設計のための情報共有
- 設計の考え方の標準化
- 若手の教育
- 品質管理
- 環境負荷の低い開発および製品の実現
- 競争力の強い製品の実現(品質、コスト、納期)
そして、これらを実現するためにどうすべきか、次のことを考えました。
- デジタルツールを徹底的に使用する
- 製品設計に関わる全ての情報を共有化する
- いつでも、どこでも、どんなデバイスからでも作業できる環境を用意する
これらを設計開発フローに落とし込んだ際の実現イメージが図2となります。
図2のイメージ図の中には、以下の概略が含まれています(優先順位の高いものを太字記載)。
- 全体
- プロジェクトに関わる全ての人が情報共有できる仕組み
- 共有により関係者全員が情報を知り得て、学ぶことができる
- この仕組みはそのまま仕事の標準化と品質管理につなげる
- 標準化や品質管理を後から考えるのではなく、デジタルによる仕事の流れをそのまま標準化する
- 設計開発フェーズ
- デザインから始まる設計開発データをCLOUD(クラウド)プラットフォームで共有、見えるようにする
- CLOUDプラットフォームでの可視化による設計開発品質の向上とスピードアップ(いつでも、どこでも、どんなデバイスでも情報を見ることができる)
- オンプレミス環境の準備にかかる費用や保守管理は不要になる
- Design&Simulationの徹底活用による製品品質の向上
- デザインから始まる設計開発データをCLOUD(クラウド)プラットフォームで共有、見えるようにする
- 調達フェーズ
- サプライチェーンマネジメント(品質、納期、コスト、在庫管理)の見える化
- 製造/組み立てフェーズ
- 3D CADデータ利用によるCAMによる部品製作(Additive Manufacturing/3Dプリンタ含む)
- 各種ドキュメント(情報)管理
- 保守フェーズ
- 製品3Dデータと製品出荷後の保守状況(履歴)による設計、製造、組み立てへのフィードバック
図2のイメージ図の内容を全て一度に行うことは、リソースのある企業でも難しいかもしれません。ただ、先ほど紹介したQARGOSのようなスタートアップ企業が実践できていることを考えると、多岐にわたる事業を行う大企業よりも、中小企業の方が実践しやすく、結果も得やすいといえるかもしれません。筆者としては、全体像を俯瞰した上で、設計開発フェーズを第1優先に考え、アジャイル的にこの全体像を構築すべきだと考えています。
そして、エンジニアは最新のデジタル環境を使い仕事を行うべきだと考えます。勘や経験、ノウハウといったアナログ情報でさえもデジタル化され、それらがプラットフォーム上でデータとして共有、可視化されることは、競争力の強化につながるからです。
また、こうした取り組みを進めていくと、設計や製造の考え方の標準化や、品質管理も進むはずなので、あえて個別に品質管理マネジメントシステムを検討する必要はないと考えます。なぜなら、プラットフォームを軸としたデジタルによる仕事の流れそのものが、そうした機能を担ってくれるはずだからです。
デジタルから考えたあるべき姿
最後に、デジタルおよびプラットフォーム活用を通じて目指すべき姿、理想像を、Cost、Delivery、Partner、Qualityの4つの視点でまとめたいと思います。
- Cost
設計生産技術力とデザインツール活用による新技術を駆使して、海外生産コストに勝るトータルコストを実現する - Delivery
デジタル管理により、日本国内調達による部品の安定供給体制の確保を実現する - Partner(共創)
デジタルを駆使した同じ思想を持ち、提案型の生産技術スキルを有するプロダクトパートナーとの協創システムを構築する - Quality
アイデアを迅速にカタチにできる環境を構築する。シミュレーションにより素早く検証した結果から、低リスクかつ迅速に試作も行い、製品品質の向上を実現する
単にツールを導入してデジタル化やプラットフォーム活用を実現することがゴールではなく、目指すべき姿の実現、目標を達成するための手段としてデジタル化やプラットフォーム活用を検討すべきだと考えます。筆者の今回の記事だけでなく、MONOist編集部からも3DEXPERIENCE World 2024のレポート記事が多数掲載されています。これを機に、自社の設計開発環境の今を見つめ直し、これから(未来)について考えてみてはいかがでしょうか? (次回へ続く)
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