都市物流のギャップを埋める電動バイク開発にMODSIMアプローチを採用:3DEXPERIENCE World 2024
「CLV(Compact Logistics Vehicle)」という都市物流の新たなセグメントに向けた電動モビリティを開発するインドのQARGOSは、ダッソー・システムズの年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2024」において「QARGOS F9」を発表した。
都市物流を支える持続可能な電動モビリティの開発を手掛けるインドのQARGOSは、スクーターやバイク、小型トラックといった従来の手段ではカバーし切れていなかったセグメントに向けた「CLV(Compact Logistics Vehicle)」を確立し、初のプロダクトとなるスマート&コネクテッドプラットフォームソリューション「QARGOS F9」を、ダッソー・システムズの年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2024」(会期:2024年2月11〜14日/会場:ケイ・ベイリー・ハッチソンコンベンションセンター)で発表した。
CLVがカバーするのは重量20k〜120kg、最大サイズ225リットルまでの貨物の輸送で、QARGOSはスクーターやバイクなどの二輪車と、三輪/四輪小型トラックとの間にあるギャップを埋める電動バイクの開発を手掛け、新たな都市物流手段としての普及を狙う。
「QARGOS F9」の開発背景とMODSIMによる実現アプローチ
QARGOSの共同創業者であるAlok Das(アロック・ダス)氏は「スクーターやバイクは手軽で狭い路地なども走行できることから、インドでは都市物流の手段として活用されている。しかし、一般的な二輪車はそもそも荷物を運ぶ目的で設計された車両ではないため、ライダーがリュックを背負ったり、大きな袋や箱を積んだりして荷物を運ぶしかなく、積載スペースや積載重量に制約がある。一方、物流用に設計された小型トラックなどであれば二輪車で運ぶよりも大きな荷物や重い物を運べる。だが、都市物流のニーズとして不足しているのは、それらの間にある領域だ」と、創業の動機について説明する。
CLVの開発に先立ち、タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ドイツ、アラブ首長国連邦でリサーチを実施した結果、インドと同じように二輪車での物流が日常的に行われていることを把握し、車両に対するニーズとして、安全性、快適性、パフォーマンス、大きな積載スペースが求められていることが分かったという。これらの結果を踏まえ、QARGOSは大きな積載スペースを確保することに加え、安全性の高いシャシーとバッテリーの採用、空力性能の追求、コネクテッド機能の搭載、スムーズな乗り心地の実現といった開発要件を定め、CLVの開発に着手。そして、約3年というモビリティ開発としては比較的短期間のうちにQARGOS F9の発表にこぎ着けることに成功した。
今回発表されたQARGOS F9は、都市物流に最適化された持続可能な電動CLVで、最大積載サイズ225リットル、最大積載重量120kgを誇る大きなフロント収納エリア(荷物を積載するスペース)が目を引く。低重心設計により安定性を確保し、航続距離150km、最高時速80kmを実現する。また、衝突検知、運転状態の分析、ルート最適化、車両と貨物のトラッキング機能なども搭載している。主な用途としては、宅配、コールドチェーンの実現、ロードサイドアシスタント、移動式のビジネス環境としての利用などを想定しており、ニーズに応じてカスタマイズも可能だ。2024年内の発売を予定しており、構成により異なるがインド国内で販売した場合の参考車両価格は2000〜5000米ドルになる予定だという。「個人や企業への販売、宅配業者などへのリースなども視野にビジネスを展開する計画だ」(ダス氏)。
QARGOSは、ダッソー・システムズのスタートアップ支援プログラム「3DEXPERIENCE Lab」を活用しており、ダッソー・システムズのエンジニアの協力を仰ぎながら、「3DEXPERIENCE Works」を用いて、プラットフォームを中核とするモデリングとシミュレーションのシームレスな連携を可能とする「MODSIM(Modeling&Simulation)」アプローチによって、QARGOS F9の開発を進めていったという。具体的には、「SOLIDWORKS」「ENOVIA」「SIMULIA」および3DEXPERIENCE Worksポートフォリオのその他のアプリケーションをコンセプト段階から活用。その結果、「製品開発をより迅速に効率的に行うことができた」とダス氏は語る。
QARGOS F9の開発に、SOLIDWORKSによるモデリングと、SIMULIAブランドの高度なシミュレーションとのシームレスなコラボレーションを実現するMODSIMのアプローチを採用したことで、プロセス主導型の製品開発が可能となり、例えば「構造の完全性と耐久性の追求が容易に行えるようになった」(QARGOS 研究開発担当リードエンジニアのプラナフ・シンデ氏)という。
その他にも、空力性能の向上、バッテリーの発火や落下に対する安全性の評価、バッテリーセルホルダーの射出成形プロセスの検証、電磁ノイズ対策などにおいて、「MODSIMのアプローチが大いに役立った」とシンデ氏は述べている。
MODSIMのメリットについては、(1)要件定義から製品の出荷に至るまでデジタルの一貫性が保たれること、(2)物理シミュレーションによる設計探索が可能なこと、(3)複数プロセスやデータの緊密な統合が実現できること、(4)企業全体におけるシームレスなコラボレーションが可能なこと、(5)クラウドHPC(High Performance Computing:高性能計算)の恩恵が受けられることを挙げる。
さらに、QARGOS F9の開発にMODSIMのアプローチを適用した効果に関しては、「車両重量を30%削減でき、空気の流れやライダーにかかる負担、バッテリー温度の最適化にもつなげられた。また、荷室サイズの最大化にも役立った。全てをバーチャルで検証できるため、物理的な試作や実験回数を減らすことができ、コスト削減にも大きな効果をもたらした」とダス氏は述べる。
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