SOLIDWORKSの裾野をさらに広げ3Dを共通言語に――新CEOに話を聞いた:3DEXPERIENCE World 2023
「3DEXPERIENCE World 2023」の会場で、SOLIDWORKS CEO 兼 R&D担当バイスプレジデントのマニッシュ・クマー氏に話を聞く機会を得た。MONOist編集部から3つの質問を投げ掛けた。
米国テネシー州ナッシュビルで開催の3D設計/製造ソリューション「SOLIDWORKS」の年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2023」(会期:現地時間2023年2月12〜15日)の会場で、SOLIDWORKS CEO(最高経営責任者) 兼 R&D担当バイスプレジデントを務めるManish Kumar(マニッシュ・クマー)氏に話を聞く機会を得た。
MONOist編集部からは、SOLIDWORKSの新CEOになってからの約1年間で取り組んできたこと、設計(モデリング)とシミュレーションを融合した製品開発の在り方、未来の設計の実現に向けたR&Dの取り組みという3つの質問を投げ掛けた。
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SOLIDWORKSブランドをけん引する新CEOにあれこれ聞いてみた
――2022年にGian Paolo Bassi(ジャン・パオロ・バッシ)氏からSOLIDWORKS CEOのバトンを引き継がれましたが、新CEOとしてこの1年間どのようなことに注力してきましたか?
クマー氏 確かに私はGP(バッシ氏の愛称)からSOLIDWORKS CEOのバトンを受け取った。ただ、まずお伝えしたいのは、GP自身がダッソー・システムズの全ブランドを網羅したポートフォリオを検討し、それを作り上げるというより大きなミッションを果たしたということだ。そのため、SOLIDWORKSとも非常に密接な関係が保たれている。
一方、SOLIDWORKSブランドの責任は私にかかっている。CEOとして、未来のトレンドを見据えながら事業の方向性を定義し、R&Dやソリューションを踏まえた上で戦略を立案していく。私はR&Dも統括する立場にあるので技術やソリューションに関することは熟知している。そのため、この1年間は、ビジネスの観点からどこに向かうべきか、どのようなトレンドにフォーカスすべきかといった事業の方向性の理解に力を注いできた。
さらに、どのようにしてSOLIDWORKSユーザー(顧客)を増やしていくのかも考えていかなければならない。それにはリーチを広げていくことが重要だと認識している。現時点ではプロフェッショナルなユーザーが大半を占めているが、SOLIDWORKSを誰でも使えるようなものに、よりとっつきやすいものにしていきたいと考えている。
――ダッソー・システムズでは、モデリングとシミュレーションを融合させた新たな製品開発コンセプト「MODSIM」を提唱していますが、SOLIDWORKSを用いた製品開発でも同様のアプローチがとれるのでしょうか?
クマー氏 答えは「イエス」だ。例えば、既にSOLIDWORKSで設計した3Dモデルをベースに、シームレスに「SIMULIA Abaqus」のソルバーを用いた高度な解析を行うといったアプローチがとれる。
われわれは、モデリングとシミュレーションの壁を打破したいと考えている。そのため、モデリングをSOLIDWORKSでやるのか、あるいは「CATIA」でやるのかということは問わない。つまり、MODSIMの考え方はどちらのユーザーにも適用できるものだ。そして、従来の「SOLIDWORKS Simulation」ではできなかったようなAbaqusソルバーを用いた高度な解析環境を、SOLIDWORKSユーザーにもたらす存在が「3DEXPERIENCE Works」となる。
「3DEXPERIENCE Works Simulation」を活用すればAbaqusなどのハイエンドソルバーを活用した構造、流体、電磁界など、SOLIDWORKS Simulationでは難しかったより高度な解析を適用できるようになる[クリックで拡大] 出所:ダッソー・システムズ
――R&D部門では最先端の研究開発を行っていますが、設計の未来の実現に向けて特に注力しているテーマは何でしょうか。SOLIDWORKSユーザーに関わりの深い取り組みがあれば教えてください?
クマー氏 われわれは「Always Together, Always Connected」というコンセプトを掲げているが、世界中どこに行っても「ネットワークでつながっている(Connected)」という話は聞くが、企業のチームや部門ではサイロ化が進んでおり、つながっているからといって、必ずしも一緒(Together)の状態になっているとは限らない。
このサイロ化されたチーム間、部門間の壁を打破するには、データが生成された時点が非常に重要なポイントになってくる。これは多くのSOLIDWORKSユーザーが関心を示す部分だといえるが、サイロ化を避けるには、データが作られた時点でシームレスに共通のプラットフォーム上でそれを一元管理するという考えが求められる。そうすれば、Single source of truth(唯一の信頼できる情報源)として、あらゆるチームや部門と同じデータを共有でき、スムーズなコミュニケーション、効率的なコラボレーションの実現につなげられる。
2つ目は「AI your bright future」というコンセプトに基づくものだ。例えば、ダッソー・システムズではAI(人工知能)を用いて形状を生成したり、3Dスキャンデータからモデルを生成して形状を最適化したりなど、AIに関連する研究開発も行っている。また、デスクトップ版SOLIDWORKSのユーザーであれば、例えば、Webブラウザベースの3Dモデリングツール(xDesign)を介してAI駆動型の設計が可能となる。
さらに、AIの活用はモデリングの枠を超えて、「その形状だと生産できない」など設計段階で製造性の判断までしてくれるようになる。
最後となる3つ目のコンセプトは「3D is the universal language」だ。イメージやアイデアなどを人に説明する際、いまだに画像やPDF、2次元図面などが用いられることが多い。3Dの活用を広げていくためには、誰でも、もっとシンプルに3Dを作成できなければならない。
こうした考えに基づき、取り組んでいるものの1つが「3DEXPERIENCE SOLIDWORKS for Makers」だ。3Dモデリング、デジタルファブリケーション、3Dビジュアライズなどに必要なWebブラウザベースのツール群を月額9.99ドル、または年額99ドルという価格で提供している。
1カ月のコーヒー代程度でアイデアをカタチにできる3Dツールが使えてしまうことに驚かれる人が多い。その一方で、「フリーにしないのか?」と聞かれることもあるが、フリーにしなかったのは持続可能性が低いためだ。無料で手に入れたものと、例えばアルバイト代から対価を支払って手に入れたものとでは向き合う姿勢が異なる。
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