JIS製図って何ですか!? 設計意図を伝える「正面図」の重要性:3D CADとJIS製図(1)(1/2 ページ)
連載「3D CADとJIS製図の基礎」では、“3D CAD運用が当たり前になりつつある今、どのように設計力を高めていけばよいのか”をテーマに、JIS製図を意識した正しい設計/製図力に基づく3D CAD活用について解説する。第1回は、JIS製図の概要と「正面図」の重要性について取り上げる。
はじめに
近年、3D CADの推進や運用に取り組む企業、設計現場が増えていますが、
3D CADは設計ツールであって、設計力とは別物だ!
今さら2次元の図面なんて……
といった言葉を耳にしたことはありませんか?
本当に、3D CADは設計力とは無関係なものなのでしょうか。2D図面をムダと決め付けて、製図(JIS製図)を軽んじてもよいのでしょうか。筆者はこうした言葉を聞くたびに疑問を感じています。
設計力の1つといえる製図と、ツールとして捉えられがちな3D CADの関係性について、筆者は以下のように考えています。
- 製図とは/3D CADとは
- 製図は設計者の基盤であり、重要な設計力の1つである
- 3D CADはこの製図(力)によって運用されるべきである
- 3D CADはもはや設計力の一部である
- 設計者は以下の知識(機械設計7つ道具+3D CAD)に基づく設計力が必要である
- JIS製図
- 公差設計
- 機械材料
- 強度設計
- 信頼性設計
- 要素設計
- 加工法
- +3D CAD
これからエンジニアの道を志す工業系の学生の多くが、学校で当たり前のように“3D CADの使い方”を学んでいます。しかし、製図に関しては必ずしも十分な履修時間があるわけではないようです。実際、「卒業研究のためにCAD操作を学ぶことは多いが、設計を学ぶためにCADを使う機会はほとんどない」といった学生の声を聞いたことがあります。
いずれにせよ、学生時代に3D CADの操作を学んできた新入社員の多くは、3D CADを使用する設計部門に配属される可能性が高いでしょう。もちろん、CAD経験がない新入社員が設計部門に配属されることもありますが、「さすがはデジタルネイティブ世代」とでも言うべきか、CAD操作の習得そのものはそれほど多くの時間を要しません。
さて、これも筆者の経験ですが、冒頭に紹介した「3D CADは設計ツールであって、設計力とは別物だ!」という声が聞こえてくる現場では、
3D CADなんてお絵描きツールだ!!
という人もいます。
本当にそうでしょうか。このような発言は“製図力を伴わない3D CAD運用”にとどまっているから出てくるのだと考えます。3D CADを“ただのお絵描きツール”にしてしまっているのはご自身の現場かもしれません。
さて、前置きが長くなりましたが、連載「3D CADとJIS製図」では、新入社員や設計初心者の皆さんが“3D CAD運用が当たり前になりつつある今、どのように設計力を高めていけばよいのか”を理解し、成長につなげることをゴールに、JIS製図を意識した正しい設計/製図力に基づく3D CAD活用について詳しく解説していきます。また、対象読者以外の皆さんにとっても、3D CADの有効性をあらためて理解するきっかけになればと思います。
連載第1回となる今回は「JIS製図の基本」を解説し、これをどのように3D CAD設計につなげていくのかについて理解するところから始めていきます。
「JIS製図」とは?
「JIS」って何?
非常に耳慣れた用語「JIS」ですが、“Japanese Industrial Standards”の略称で、日本語では「日本産業規格」と呼ばれています。実は少し前までは「日本工業規格」の名称で親しまれてきましたが、法改正に伴い、2019年7月1日に改称されました。
ちなみに、読者の皆さんが所属する設計部門の書棚に「JISにもとづく機械設計製図便覧(JIS便覧)」や「機械要素JIS要覧(JIS要覧)」といった書籍はありますか。活用されることなく、どこかに埋もれてしまっているようだとちょっと残念ですね……。
JISは、日本の産業製品に関する規格や測定法などが定められた日本の国家規格です。製図に関してもこのJISに定められています。最近では、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)が策定するISO規格に準拠するような形での改訂も行われており、グローバルでも通用するような図面を描くことが求められています。
企業によっては、「企業標準」が規定されている場合もありますが、国内外で事業を展開しているのであれば、ISO規格準拠/JIS規格対応が基本だと考えます。また、企業によっては、米国の「ANSI規格」、ドイツの「DIN規格」、中国の「GB規格」といった、海外規格に個別対応しなければならないケースもあります。
JIS製図
JISについて調べようとしたとき、手元にJIS便覧/JIS要覧があればよいのですが、これらがないときに便利な検索システムがあります。日本産業標準調査会(JISC:Japan Industrial Standards Committee)のWebサイトで公開している「JIS検索」です。JIS規格番号や規格名称、単語などからJISを検索できるため非常に便利です(実際の利用については各自の責任でお願いします)。
例えば、「製図」をキーワードに検索してみると、多くのJIS規格がヒットします。その中から、機械製図に必要な基本となるJIS規格だけを抽出してみました。
●機械製図に必要なJIS規格
・JIS Z8310:2010 製図総則
・JIS Z8114:1999 製図用語
・JIS Z8311:1998 製図−製図用紙のサイズ及び図面の様式
・JIS Z8312:1999 製図−表示の一般原則−線の基本原則
・JIS Z8313-0〜2:1998 製図−文字−第0部:通則〜製図−文字−第2部:ギリシャ文字
・JIS Z8313-5:2000 製図−文字−第5部:CAD用文字、数字及び記号
・JIS Z8313-10:1998 製図−文字−第10部:平仮名、片仮名及び漢字
・JIS Z8314:1998 製図−尺度
・JIS Z8315-1〜4:1999 製図−投影法−第1部:通則〜製図−投影法−第4部:透視投影
3D CADを使用した実務でのJIS対応については、例えば、筆者が普段使用している「SOLIDWROKS」でアセンブリパーツを設計する場合、2D図面を作成するにはJIS対応が求められます。また、2Dに限らず、3D図面においても、日本自動車工業会(JAMA)ではJIS製図対応の検証やガイドライン化が行われていると聞きます。こうした流れからも、日本で設計を行っていく上では“2D/3DにかかわらずJIS規格対応は重要である”といえます。
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