コバルトフリーやバイポーラ型、全固体電池などバッテリーの動向をおさらい:今こそ知りたい電池のあれこれ(22)(3/3 ページ)
約3年にわたるこれまでの連載の中では、電池材料から周辺技術まで幅広く扱ってきましたが、あくまでもコラム公開時点での傾向や兆候のみを示し、今後の動向を注視したいとした内容も度々ありました。今回は、そういった内容のいくつかについて、2024年現在の動向をあらためて確認していきたいと思います。
しかし、材料の「柔らかさ」というのはメリットだけではなくデメリットもあります。固体材料が「柔らかい」ということは、材料を構成する原子間の相互作用と結合力、つまり「結び付き」が弱いということでもあります。そのため、強固な結晶構造を持つような「硬い」固体材料と比べると、どうしても安定性が低くなる傾向にあります。
単に「柔らかい」材料を使えばいい、と一言で言ってしまうのは簡単ですが、硬すぎれば活物質の体積変化に追従できず、柔らかすぎれば不安定となる。このあんばいを見極め、最適な組成と適切な製造方法を見出すことが、実用化に向けたポイントになるかと思われます。
メリットとデメリットをてんびんにかけながら
今回振り返った各要素技術は、現在報道されている結果だけを見れば、いずれも画期的な成功例のように感じられますが、開発の歴史を考えると、あまり順調な道のりであったとは言い難い面もあります。
最初から順風満帆で成功が約束された研究開発などそうそうないというのは、電池関連技術に限った話ではないかと思いますが、今回振り返った各要素技術は、いずれも克服すべき課題やメリット/デメリットをてんびんにかけた上で実用化まで漕ぎつけてきました。
例えばLFPの場合、三元系など他の正極活物質よりも安全で低コストであるということは知られていましたが、実際に電池材料として用いるためには電子伝導性やエネルギー密度といった諸特性が悪く、当初はあまり開発優先度が高くありませんでした。
しかし、活物質の微粒子化や炭素コーティングによる導電性付与といった粒子加工による材料面の改良や、体積効率的により多くの電池を車体へ搭載することでエネルギー密度の低さをシステムパッケージ全体としてカバーする「モジュールレス化技術」の適用によって、現在に至っています。
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バイポーラ型電池についても、その構造から得られる電池特性は良好ですが、製造は容易ではなく実用化のハードルは高いと考えられてきました。今回、トヨタ自動車が高いハードルを乗り越えて車載用途での実用化に漕ぎつけることができた背景には、HEV用ニッケル水素電池やEV用リチウムイオン電池の開発だけではなく、FCV(燃料電池車)「MIRAI(ミライ)」に搭載されている燃料電池スタックの開発と実用化の取り組みの中で培ってきた技術や経験も生きていると考えられます。また、全固体電池の開発の道のりについては、あらためて語るまでもないかと思います。
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以上のように、今回紹介してきた各要素技術は、いずれも容易ではない道のりを、技術の積み重ねを経て、今日に至ったものです。しかし、電池技術全体のたどるべき道のりからすると、まだまだ道の途中です。こういった一つ一つの技術発展が積み重なった先に、いわゆる「次世代電池」や「革新電池」と呼ばれるような新たな電池系があります。
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全固体電池に限ってみても、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、車載用バッテリーの技術シフトにおいて、硫化物固体電解質を活用した第1世代全固体電池が2025年ごろ、材料系が改良された次世代全固体電池が2030年ごろに、それぞれ登場すると想定しており、今後の開発が期待されます。
日本カーリットの受託試験部では、今後も性能評価を通し、電池技術の発展に貢献できるよう努めて参ります。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
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▼電池試験所の特徴
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▼安全性評価試験(電池)
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