3D CADベンダーが推進するクラウド対応で設計開発環境はどう変わる?:3D設計の未来(4)(2/2 ページ)
機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第4回は、3D CADベンダー各社が推進するクラウド対応、プラットフォーム戦略によって設計開発環境はどう変わるのかを整理する。
クラウド上でのデータ保存/共有が可能な設計開発環境
図2は、社内外の作業PCからクラウド上のプラットフォームにアクセスし、3D CADデータのコラボレーションスペース(共有フォルダ)を利用できる設計開発環境のイメージです。3D CADをインストールしたPCからクラウドに接続するには、専用のプラットフォーム接続環境(機能)が必要となります。SOLIDWORKSの製品群のうち、3DEXPERIENCEプラットフォームとの接続利用を前提とした、3DEXPERIENCE SOLIDWORKSによる設計開発環境(の最も基本的な使い方)がこれに該当します。
クラウド上にある3D CADデータのコラボレーションスペースでは、担当プロジェクトや担当者の役割などによって、設計データの閲覧のみ許可、編集まで許可といったように権限を付与することが可能です。
社外の協力会社の担当者がクラウドプラットフォームに接続するには、同じようにプラットフォーム接続環境を用意する必要があります。その上で、委託元のプロジェクト管理者からの許可(招待/権限)をもらうことで、クラウドプラットフォームへのアクセスが可能となり、相互でのデータ共有を実現できます。なお、社内外ともにそれぞれの作業PCのローカルフォルダに3D CADデータを保存することも可能です。
この設計開発環境の場合、3D CAD機能、つまり3D CADのアプリケーションは各作業PCにインストールしておく必要があるため、先に述べたデスクトップ版、SNL版と同様に、ハイスペックなPC環境が求められます。
ここでは、クラウド上でのデータ保存/共有によるコラボレーションにとどめて紹介しましたが、「SOLIDWORKSのクラウドプラットフォーム戦略」の説明の中で、3DEXPERIENCE SOLIDWORKSは“SOLIDWORKSの機能を拡張できる”と述べた通り、クラウド上でのデータ保存/共有だけでなく、ダッソー・システムズが提供する「Abaqus」のソルバーを用いた解析をはじめ、SOLIDWORKSではできなかったより高度な設計開発/コラボレーションを実現できるようになります。また、こうしたメリットを多くのデスクトップ版ユーザーに提供するために、クラウドプラットフォーム(3DEXPERIENCEプラットフォーム)に接続するための環境も別途用意されています(筆者はこちらを利用しています)。
クラウド上で3D CAD/コラボレーション機能を提供する設計開発環境
最後は、クラウドプラットフォームが3D CAD機能も、データ保存/共有によるコラボレーション機能も提供する設計開発環境です(図4)。フルクラウド版として紹介したSOLIDWORKS Cloudが該当します。社内外の作業PCのWebブラウザから、クラウド上のプラットフォームにアクセスすることで、3D CADデータのコラボレーションスペースを利用できるだけでなく、3D CAD機能をはじめとするさまざまなアプリケーション(xApps)が使えます。
Webブラウザを介し、クラウド上のコンピュータリソースでアプリケーションを操作できるため、必ずしも作業PCがハイエンドである必要はありません。
ちなみに、SOLIDWORKS Cloudには、パラメトリック設計環境を提供する3D Creatorの他、フリーフォーム設計の「3D Sculptor」、板金設計の「3D SheetMetal Creator」、構造設計の「3D Structure Creator」、モデルベースと図面ベースの機能を統合した「Manufacturing Definition Creator」、レンダリング用の「3D Render」など、さまざまな設計/コラボレーションツールを含むロールが用意されています。
既に、勤怠や経理、清算システムといった業務系アプリケーションの領域では、クラウド/SaaS利用は当たり前のものとなりました。最近では、3D CAD運用においても「クラウド」という言葉を聞くことが増えてきましたが、「クラウドに設計データを置くことは危険だ」と否定的に考える人も少なくありません。そこで、次回は設計開発におけるクラウド利用のメリット/デメリットについて掘り下げてみたいと思います。お楽しみに! (次回へ続く)
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