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排ガスなどに含まれる窒素化合物の除去・回収技術の現在地を知る有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(5)(2/2 ページ)

カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物排出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回から、現在利用されている窒素廃棄物の処理技術をご紹介します。まずは排ガス用技術です。

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N2O排出抑制技術

 N2Oの排出抑制技術では、化学品であるアジピン酸を製造する際に発生するN2Oの対策がとても大きな効果を生み出しています。アジピン酸は6,6-ナイロンの原料などに利用されており、その合成過程でN2Oが発生します。1999年に国内唯一のアジピン酸工場でN2O無害化装置が稼働し始め、N2Oの発生量が大幅に減りました[4]。ここでは、多段熱分解でN2Oを分解するとともに副生する一酸化窒素(NO)もアジピン酸の原料である硝酸として回収しているとのことです[5]。

 また、窒素分を多く含む下水から生じる汚泥の焼却時に発生するN2Oについては、燃焼温度を800℃から850℃に上昇させることでN2Oの発生量が約7割減少するとの結果があり、現在はマニュアルで850℃での燃焼を推奨しているとのことです[6]。

NOx排出抑制技術

 燃焼時に多く発生するNOxは燃焼時における抑制技術の開発が進んできました。大きく分けて、燃焼を改善してNOxの発生を抑える技術と、発生したNOxをN2に無害化する技術があります。

 前者では二段燃焼やNOxが発生しづらいバーナーの利用などが挙げられます。後者については、選択的触媒還元法(SCR)と無触媒脱硝システム(SNCR)が主なものとして挙げられます。SCR法の概要を図2に示します。SCRは、Nの酸化体であるNOxと、還元体であるNH3を反応させてN2とH2Oに変換する技術です。この場合、NH3は外部から供給されます。


図2 選択的触媒還元法の概要。(参考文献[7]より、筆者一部修正)[クリックで拡大]

 さらに、触媒を利用することで反応効率が上がることが特徴です。NH3の代わりに尿素が利用されることもありますが、NH3は揮発性が高く自動車などでは使いづらいためです。これは尿素を熱により分解し、NH3が発生することを利用しているのです。

 SNCRでは触媒を入れる代わりにNH3を直接焼却炉の排ガスに導入します。効率としては触媒を利用するSCRのほうが良いのですが、触媒を利用しないため構造が簡単でコストが安いというメリットがあることから、高い脱硝効率を必要としない廃棄物焼却炉などで利用されているとのことです[8]。こちらも尿素を利用し、直接噴霧、あるいは事前に分解しNH3に変換してから噴霧する方式があります(図3)。湿式法というアルカリの液体にNOxを吸収させる方法などもありますが、日本国内ではSCR、SNCRの採用が多くなっているようです[9]。


図3 尿素分解装置を用いた無触媒脱硝システム(SNCR)のフロー[10][クリックで拡大]

 NOxの排出抑制としては無害化が主体ですが、一部資源化技術も実用化されています。例えば、NOxを水で吸収した後に硝酸に変換する技術が知られています[11]。硝酸が利用できる硝酸工場などでは役立ちそうです。

最後に

 紹介してきたように、大気中のNH3、N2O、NOxを無害化あるいは回収するさまざまな技術が既に実用化されています。ただ、農業系のNH3では大きな敷地面積が必要で電気代が高いとか、NOxでは還元剤としてNH3が必要とか、再資源化の先が硝酸に限られるとか、いくつかの制限があり、完全な循環技術の実用化にはまだ新たな研究開発が必要という状況となっています。本連載の後半では、このような現状を踏まえたうえで、現在開発されている未来の技術についてご紹介したいと思います。(次回へ続く

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者紹介

産業技術総合研究所 首席研究員/ナノブルー 取締役 川本徹(かわもと とおる)

産業技術総合研究所(産総研)にて、プルシアンブルー型錯体を利用した調光ガラス開発、放射性セシウム除染技術開発などを推進。近年はアンモニア・アンモニウムイオン吸着材を活用した窒素循環技術の開発に注力。2019年にナノブルー設立にかかわる。取締役に就任し、産総研で開発した吸着材を販売中。ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー。博士(理学)。


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