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窒素廃棄物排出を巡る取り組みと軋轢、「窒素管理先進国」オランダの課題とは有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(2)(1/2 ページ)

本連載では、カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物放出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は、特に農業分野に絞り、窒素管理を巡る取り組みとそれが原因で生じている軋轢をご紹介します。

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窒素廃棄物の環境排出の問題点

 窒素循環技術の開発状況の紹介に入る前に、もう少し世界、日本の動向を見ておきましょう。今回は、世界、日本における環境への「窒素廃棄物(nitrogen waste)」排出量の推移と、それらを制御する、「窒素管理(nitrogen management)」への取り組み、さらにはそういった取り組みが引き起こした新たな問題についてご紹介します。

 国連環境計画では、窒素管理を行う理由として、窒素廃棄物の4つの悪影響を挙げています。1つ目は生物多様性減少、つまり種の絶滅の原因となることです。2つ目は、気候変動、つまり地球温暖化の原因となることです。亜酸化窒素(N2O)はCO2に比べ、約300倍の温室効果があります。アンモニア(NH3)なども大気中で亜酸化窒素に変わることが指摘されています。3つ目は飲料水や大気に含まれる窒素化合物による、人間への直接的な健康影響です。最後の4つ目は、経済への圧迫です。窒素は世界経済に年間3400億〜3兆4000億米ドルの損失をもたらしているとのことです。これらの考えのもと、世界レベルで窒素管理の機運が高まっています。


窒素は世界経済に年間3400億〜3兆4000億米ドルの損失をもたらす

 窒素管理の最前線は欧州です。欧州では、まず、水中の窒素廃棄物が問題になりました。1991年に硝酸塩指令が発行され、農業廃水中の窒素廃棄物を削減することになりました。地下水や環境水に含まれる硝酸塩が過剰になれば、酸素欠乏や富栄養化の原因となるためです。欧州委員会が2021年に発表した報告書では、EU全体の水質は向上しているものの、その変化のスピードは十分ではない、と結論付けられています。特に、ドイツ、オランダ、スペインなどの12の国は最大の課題に直面している、と名指しされているのです。


欧州では水中の窒素廃棄物が問題に

 さらに近年問題が深刻化しているのが大気への窒素廃棄物の排出です。EUでは、2016年に国家排出削減公約指令を発行しました。これは、さまざまな汚染物質の排出を削減することを目的とした指令ですが、大気汚染物質の対象として、窒素酸化物(NOx)とアンモニアが含まれています。2023年6月の報告では、大気汚染物質の排出量はEU全体で減少し続けているものの、アンモニアの排出量はわずかに減少しているだけで、増加している国さえある、と指摘されています。アンモニアの主な排出源は畜産なので、畜産からのアンモニア排出が1つの議論の的となっています。


畜産からのアンモニア排出が議論の的に

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